林恵の親友の真意
静まり返った車内。赤信号がようやく青に変わり、いっちゃんは車を発進させた。
音を立てて、車が走り出す。
しばらくあたし達は、走っていく車のせいで前方の景色をぼんやりと眺めていた。
「メグは、どうしてだと思う?」
ようやくいっちゃんは声を発した。
しかし、彼女の言葉はあたしの問いかけに対する回答ではなかった。
少し、あたしはムッとした。こっちは真剣に話しているのに、はぐらかすようなことを言うだなんて。彼女のそういう性格は知っている。だけど、許せなかった。
……多分、高校時代のあたしは、山本に関することでここまで熱くなることはなかったと思う。
「あたしに聞いてどうすんのよ」
「……アハハ。手厳しいね」
いっちゃんは、顔に陰を落としていた。
今のいっちゃんは、明らかにいつもの彼女らしくない。
……まさか。
いっちゃんに今の問いかけをする前から、あたしには一ついっちゃんが山本を結婚式に呼んだ理由に心当たりがあった。
でも、もしそれが理由でいっちゃんが山本を呼んだのだとしたら……。
もし、いっちゃんが見せつけるためだけに、山本を結婚式に呼んだのだとしたら。
あたしは、いっちゃんのこと、多分軽蔑する。
「……見てほしいの、山本君に。あたしのウエディングドレス姿」
「……いっちゃん、あんた」
「だってさ。……だってさ。彼のおかげで、今のあたしはいるんだもの」
あたしは閉口した。
思いもよらぬ答えが返ってきたために、思わず何も言えなくなってしまったのだ。
いっちゃんが何を言っているのか、わからなかった。
山本のおかげで、今のいっちゃんがいる?
彼女と山本の付き合いは、高校時代のほんの少しの間だけ。
それだけの付き合いの山本が、いっちゃんを変えられる程何かをしたとは到底思えなかった。
「あたし、こんなちゃらんぽらんな性格しているでしょ? 中学時代は、もっと酷かったの。勉強は真面目にしないし、気分が優れないなら遅刻だって平気でしていた」
いっちゃんの過去。
それは、あたしの知らない時の話だった。
「初めて夢中になった。山本君に勝ちたいって」
「……いっちゃん」
「夢中になることって、こんなに楽しいことなんだ。頑張ったら、こんなに成果を得られるものなんだ。……その時からだったよ。あたしがほんの少しだけ、真剣に物事を取り組むようになったのは」
車は前進を続けていく。
「真剣に物事に向き合うようになったのは」
止まることなく、前進を続けていく。
「多分、山本君に変えてもらわなかったらあたし、メグとも灯里とも疎遠になってた。友達付き合いなんて面倒だって昔はいつも思っていたから。だけど、真剣になって目を向けたらさ。友達がいるって。心を許せるって、こんなにも素晴らしいことなんだって気づいたの」
いっちゃんの顔は、いつもと少し違った。
深刻そうなわけではない。
笑顔の似合う彼女らしい、楽しそうな顔だった。
でも、高校時代とはまるで違う……大人びた顔だった。
「メグ」
「何……?」
「好きよ」
「……あたしも」
「これからも、ずっとあたしの友達でいてね」
……どうやらあたしは、間違えていたようだ。
いっちゃんの気持ちを読み取れきれなかっただけではない。
いっちゃんと山本の付き合いはほんの少ししかない。
だから、山本がいっちゃんを変えられるはずがない。
そう、高をくくったことが間違いだったのだ。
……本当、大バカもんだ。
あたしだって散々、たった二ヶ月ぽっちの付き合いで、山本にこれだけ変えられたくせに……。
本当、バカだった。
「勿論」
あたしはいっちゃんに微笑んだ。
その微笑みの裏で、内心で……あたしは思っていた。
山本、あんたって本当、凄いよね。
あたしは、あたし達を変えていく一人の男の子に、初めて尊敬の念を抱いた。
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