林恵とウエディングドレス
友人代表スピーチを書き終えて数日。
あたしは灯里と共に電車に揺られていた。向かう先は地元。灯里が休みとなる土日を利用しての帰省だ。
今日は、いっちゃんのウエディングドレスの試着に一緒に向かう予定となっていた。
いっちゃんにウエディングドレスの試着を頼まれたのは今週の月曜日。本来は旦那か、家族と一緒に行くのが基本らしいウエディングドレスの試着だが、いっちゃんは丁度試着の日に旦那も家族も都合が合わなかったようで、どうせだからとあたし達を誘ってくれた。
「きゃー、いっちゃーん」
「あ、灯里! お久しぶり」
地元の駅前。
白色の軽自動車で、いっちゃんはあたし達を迎えに来てくれた。
「悪いね、いっちゃん」
「きゃー、メグー」
「きゃー! きゃー!」
「……灯里、なんであんたも叫ぶの?」
うるさい車内。
あたしは灯里と一緒に後部座席へ乗り込み、灯里へ冷たい瞳を向けていた。
いっちゃんのことを掴みどころがないと評していたが、そう言えば今あたしの隣に座る灯里もまた、いっちゃん同様掴みどころのない人だった。すっかり忘れていた。
「いっちゃん、免許取ってたんだー」
「うん。余裕」
「この車は親の?」
「あたしのだよ?」
上京したせいで馴染みがなかったが、そう言えば田舎は車社会。車は生活する上で欠かせないアイテムだった。
ただ、同い年の子がもう自分用の車を持って乗り回していると思うと、なんだか疎外感を感じてしまう。
「着いたよー」
「ありがとう!」
「ありがと」
あたし達はいっちゃんの車を降りた。
その時だった。後輪タイヤの側のフレームに、擦ったような傷を見つけたのは。
「いっちゃん、これ……」
「メグ。時には気付かないことが優しさだよ」
「あ、うん」
擦ったんだ。
ドヤ顔するいっちゃんを見ていると、なんだか苛つくが黙っておこう。
それからいっちゃんは店内で受付を済ませ、エレベーターにあたし達を引き連れて乗った後は、試着室で着替えを始めることになった。
いっちゃんがウエディングドレスに着替える間、あたし達は外で待っていることになった。
「灯里はウエディングドレスへの憧れってあるの?」
「え? ……うーん、どうだろう」
「……あたしは小さい頃はあったよ。でも、いっちゃんが結婚するってなった時考えてみたの。未だにウエディングドレスとか、結婚式とかしたいかなって」
「するべきだよ。メグ、綺麗なんだから」
「口挟まないで。……ただ、結構結婚式って出費嵩むみたいじゃない。ウエディングドレスだって、レンタルだけで百万近く飛ぶこともあるみたいだし。だったら確かに、どうでも良いかって思ったよ」
「えぇ……」
「なんであんたがそんなに残念がるのさ」
「そりゃあ、メグがウエディングドレスなんてきっと似合うからさ」
「……そうかな」
「自信ないの?」
「ないよ。そりゃあ」
……もし、あたしが誰からも羨ましがられるプロポーションの持ち主だったとしたら。
あたしは、ドメスティック・バイオレンスの被害になんてあったのだろうか。
山本は、あたしにゾッコンになってくれたのだろうか。
どうも、最近あたしは、自分に自信が持てないでいる。
いや、最近に限った話ではないか。あの女王様と呼ばれた高校時代でさえ、あたしは多分、いつも自分に自信なんてなかった。だから徒党を組み、お山の大将を気取ったんだ。
「楽しかったなぁ、高校時代は」
高校時代はあの時間が好きではなかった。
自分で無理をしている自覚があったから。
でも、失って初めて、あたしはあの時の時間が尊いものだったと気づいたんだ。
「また、三人で一緒に遊びたいね」
「遊べるよ」
「でも、いっちゃんはもう結婚する」
「結婚したら遊べなくなるわけじゃないじゃない」
灯里の言葉に、あたしは黙った。
確かにそうだ。
回数は昔に比べたら減るだろうが、それでも……。
「そうだね」
「メグって、意外と抜けているところあるよね」
「ないよ、そんなところ」
「この前山本君、メグが砂糖と塩間違えておにぎり握ったって愚痴ってたよ」
「ちょっと」
「うひひっ」
「なんで山本と話してんのさ」
「……そっち?」
一体どっちだ?
灯里は少し、困った顔をしていた。




