林恵と友人達
灯里が見つけて紹介してくれたページを、あたしは一通り目を通していた。
記事を読んでわかったスピーチの大まかな流れは……。
まず最初は、自己紹介をすること。そして、エピソードを交えて相手のことを褒めること。最後に、二人の門出を祝うこと。それらを大体三〜五分で簡潔にまとめること、こんなところか。
パソコン越しに会話をする二人は、すっかり二人で盛り上がっている。
そんな二人を他所に、あたしと灯里もまた、二人で頭を抱えていた。
「自己紹介と門出を祝う言葉は、まあ良いとして。エピソードかぁ……」
大体の流れがわかったとて、だったら全部が全部上手く決まっていくわけではなかった。
一体、どんなエピソードを思い出せば良いんだろう?
いっちゃんとのエピソード。
……思い出すことと言えば。
勉強を教えてもらったこととか。
恋愛相談に乗ってもらったこととか。
後は、最近知ったいっちゃんの山本への想い、とか。
「メグ、なんか良さそうなエピソード浮かんだ?」
「勉強教えてもらったこととか、かなあ」
「それだと、なんだかいっちゃんがガリ勉さんみたいになっちゃうね」
「そんなガリ勉って感じじゃなかったもんね、いっちゃんは」
いっちゃんはテストの度に高得点を収めていたが、授業中、休み時間。そして放課後もずっと勉強をしているような子だったとか言えば、そんなことは全然なかった。
むしろ、テスト直前だろうが、あたし達が遊びに誘えば絶対に来てくれるような子だった。多分、要領が良かったからテストも高得点だったんだろう。
「いっちゃんは要領が良い子なんですって話す?」
「それは……まあ、どんな空気になるかちょっと見てみたいね」
灯里は苦笑していた。
あたしも、提案しておいて何だが、灯里と同意見だった。
つまり、ちょっと興味はあるが、絶対に駄目だってことはわかる、ということだ。
ただそうなると……意外と、いっちゃんとのエピソードは浮かんで来ない。
あたし達の付き合いは、一年生の時と三年生の時。後、二年生の時も隣のクラスだったしちょいちょい一緒に行動をしていた。
つまり、二年とちょっと分の思い出があるのに、こうも何も良案が浮かんでこないのか。
「あたし、いっちゃんのこと、友達だと思ってなかったのかな?」
じんわり、涙が出ていた。
あれだけ良くしてくれていたいっちゃんのスピーチをするのに、良案が浮かばないことで罪悪感を感じていた。碌な思い出を呼び起こせないことで罪悪感を感じていた。
「仕方ないじゃない。初めてやることなんだから」
灯里は、あたしを優しく諭してくれた。
「でも……」
「良いの。メグは、どうしていっちゃんがメグにスピーチ頼んだか、わからない?」
あたしは黙って頷いた。
「仕方ないねえ、メグは」
「……何よ」
「メグのことが、好きだからだよ」
灯里はあたしの頭を優しく撫でた。
「だからいっちゃんは、メグに友人代表スピーチをお願いしたの」
「……そんなの」
「いっちゃんは、メグに泣いてほしくてスピーチを頼んだわけじゃないと思うよ?」
灯里の言っていることが、全部が全部いっちゃんの本心だとは思わない。
でも、腑に落ちる部分もあった。
いっちゃんは多分、あたしに泣いてほしくてスピーチを頼んだわけではない。それは合っていると思うんだ。
あたしは涙を拭いた。
その時、パソコン越しで騒がしかった二人がぎょっとした顔であたしを見ていることに気づいた。
そう言えば、この二人にあたしの泣き顔を晒したの、初めてだったかもしれない。
「ごめんね。見苦しいところを見せちゃって」
『え、そんな……ね?』
『うん。むしろあたし達もごめん。雑談ばっかで真剣にやってなくて』
「ううん。いいの……でも、ごめんね。迷惑かけるけど、協力してくれると嬉しい、かな?」
『も、勿論だよ!』
『うんうんっ!』
あたし達は、それからは真面目にスピーチ作成に取り組んだ。




