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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
門出を祝う女王様

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二度と来ないと誓った場所

 十月某日。

 俺は林に連れられて、朝早くに家を出た。いつもならまだ掃除をしているような時間の外出。もし俺が我儘な男だったら、林に文句の一つでも付けていたかもしれない。


 最近、俺と林は随分と打ち解けた。

 高校時代。そして、大学に入学して、再会を果たした時、俺達の関係はギスギスしかしていなかった。それなのに、たった二ヶ月でよくもここまで変貌を遂げたものだ。


 そんな打ち解け始めた俺達だが、今日は珍しく会話もなく道中を歩く。


 前方を歩く林の胸中はわからない。

 ただ、俺の内心はと言えば……僅かな不安と、緊張と、恐れと。とにかく碌な感情はありはしなかった。


 もう、そこに行くことはないと思っていた。

 今日の目的地に行った回数は、都合一度のみ。なのに、当時の俺はそれを確信していた。


 しかし、そんな俺の確信は裏切られる。

 きっかけは、俺のスマホを鳴らしたある一本の電話だった。

 林ではなく俺の携帯に電話をかけてきたその相手は、まさしく警察署。


 その時、俺は内心で少しだけ嫌な予感が過ぎった。

 今現状、俺が警察にお世話になった案件なんて、たった一つしかありはしないからだ。


 警察は、電話越しに俺の緊張でも読み取ったのか。……はたまた、警察から電話がかかってきただけで大抵の人が緊張するからか、努めて明るい声で俺に問いかけた。

 無論、一瞬脳裏を過ぎった最悪の事態が起きたわけではない。

 むしろ、それはどちらかと言えば……。


 ある日の朝。

 俺は林と道を歩く。

 向かう先は、かつて彼女が恋人と同棲をしていた賃貸。

 彼女の恋人は、林をドメスティック・バイオレンスの被害に遭わせて、そうして今は牢屋の中で暮らしている。


 警察からかかってきた電話では、その元恋人の親御さんの意向により、元恋人と賃貸の契約は今月末に打ち切られてしまう、と、要約するとそういう内容を教えてくれた。

 林の荷物を持ち出すなら、もう残された時間はあまりないそうだ。


 そんな経緯を経て、俺達は今、早朝の道を歩いていた。

 最初は迷った。

 林に、あの部屋に近づくような発言をするべきかいなか。


 ……もしかしたら、あそこには林の大切にしていたものがあるかもしれない。

 その可能性があるとは十二分に思ったが、脳裏に過ぎった前回の訪問の時の記憶が、俺の意思を否定した。


 まあ、一瞬悩んだことではあったが、結果的に俺は、林にそれを伝えることにした。

 彼女の意思を優先することが大事だと思ったことも事実だが、何より目を細めて俺の電話相手をきつい口調で問いただす林に、結果的に折れた形だった。


 林はしばらく戸惑った顔をしていた。

 ただ、彼女は最終的には覚悟を決めた顔で、俺に同行を要望してきた。


 そうして、今に至る。


 依然、林は俺に声をかける素振りもない。

 思い詰めていなければいいが。

 前回のこともあって、俺は少し林の様子が心配だった。


「あの部屋、前以上に埃っぽくなっているだろうなあ」


 こんな時は、場を和ますようなことを言わないといけない。

 そう思って、俺はこの前、あいつと元恋人の愛の巣に連れられた日のことを思い出す。埃っぽくなっていた件の部屋で、俺はしばらくくしゃみが止まらなくなったのだ。


「俺、ポケットにもう一枚、マスク仕込んできた」


 ……こういう時、気の利いたセリフではなくて掃除の話題しか出せないのは、俺が無類の掃除バカだからに他ならない。


「こんなに暑い日にマスク二枚もしたら息苦しいに決まってるよな。俺ったらバカだ。アハハ」


 林の返事はない。


「……ほ、埃防止用のメガネも持ってきた。埃が目に入ると、涙が止まらないんだ」


「……また、変な掃除用具買ったの?」


「へ、変なとはなんだ。こいつにはこいつにしか出来ない活用方法があるんだ」


「どこに感情移入してんの?」


 呆れた林の顔を見て、俺は態度とは裏腹に少し内心、安堵していた。

 ……もっと思い詰めていると思っていたが、これなら平気そうだ。


「ありがとう。気を遣わせちゃったね」


「どこを聞いてそう思った?」


「違ったの?」


「いや、合ってる」


「アハハ。あっそ」


 まもなく、俺達はたどり着いた。

作者以外は真面目なのよな

評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん。これは家族の距離感ですわ。貫禄すらある。
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