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誘い

一日サボってごめん。

英気を養っていた。

ストックはない。

 九月の暮れ。

 夏から続く残暑も終わりの日は遠くなさそうな時期に、俺はいつも通り部屋の掃除に励んでいた。


 掃除は良い。

 時間を費やせば費やす程、部屋が綺麗になっていく。綺麗な部屋は生産性も上がるし、何より健康にも良い。本当、なんで素晴らしい作業なんだと感服するあまりだ。


「まだ掃除してるの?」


 そんな俺に睨みを利かせる人が一人。

 本来一人用のアパートのはずのこの部屋に住む同居人、林だ。

 様々なきっかけが重なり、俺達はこの部屋で二人で一緒に暮らしている。そうして、こんな日常を過ごしながら、まもなく彼女をこの部屋に匿って二ヶ月が経とうか。


「悪いか?」


「前にも言ったよね?」


「何を」


「掃除は一日一時間」


「言ったな」


 俺は一切手を止めることなく、林の言葉に返事をする。

 掃除は一日一時間。

 それを林が最初に言ったのは……彼女が高校の同級生と、俺を省いて再会した日のことだったか。


 まったく。何が掃除は一日一時間、だ。そういう規制をかけるべきなのは、ゲームだとか、とにかく生産性がない行いであるべきだ。

 ゲームと違い掃除は、生産性の塊だ。

 どれだけ俺が、一日の時間を掃除に費やしたって、こいつだって恩恵を受けているのだから文句を言われる筋合いはない。


「こうでも言わないとあんた、本当に寝ている時間以外ずっと掃除してるじゃない」


「……そ、掃除は健康に良いんだ」


「行き過ぎた掃除は体に毒でしょ」


 ふむ確かに。

 ……致し方ない。

 本当は今、俺には彼女を論破する口実が頭の中に二千種ぐらい浮かんでいるのだが……今日のところは勘弁しておいてやろう。


「お昼出来たよ」


「いつもありがとう。それなら食べるか」


「ん」


 十一時半。

 俺達はお昼ご飯を食べ始めた。休日の俺達の昼食は、大体決まっていつもこの時刻だ。

 俺達は二人揃って朝が早い。

 だから、朝しっかり食べてもこのくらいの時刻に小腹が空いてくるのだ。


 林の作った野菜炒めを食べながら、俺達は適度に会話を楽しんでいた。

 数十分後、俺達はご飯を食べ終えた。


「洗い物はやっておこう」


「いいよ。水だけ漬けといて」


「……わかった」


 食器の洗い物の担当は、なし崩し的に林がずっと担当してくれている。

 ただ、個人的にはこの状況にわずかな罪悪感を覚えている。洗い物という負担の少ない家事くらい、分担しても良さそうなものだと思っているからだ。

 

 しかし林は、そういうことを言うと何故か不機嫌になって絶対に代わらないと怒り出す。

 次第に俺は、洗い物を分担しよう、とは言わなくなったが、こっそり代わりに作業をしようとして、そうして止められる日々を過ごすようになった。


 実に不毛なやり取りだ、と最近は思うようになってきた。

 こんなことならいっそ、全部林に任せた方が気楽なのかもしれないとも思っている。


 でも、そこで譲るなら、なんでずっとそれを言い続けたのかとなって……まあつまりは、引くに引けない状況と言うわけだ。


 洗い物を林に任せて、俺はテレビをぼーっと見ていた。

 ワイプに写った芸人にオーバーリアクションさせて動画サイトの動画を垂れ流すだけの番組。

 半素人にクイズをさせるだけの番組。

 昔のドラマの再放送。

 旅番組の再放送。

 

 いくらチャンネルを回しても、昨今のテレビ業界の予算の少なさが滲み出ていて嫌になる。

 これならいっそ、火曜サスペンスを見ていた方が面白いと思う始末だ。


「ねえ」


 見たいテレビもなくテレビを丁度消したタイミングで、俺は林に声をかけられた。


「なんだ?」


「今晩、予定ある?」


「今晩?」


 あまりに唐突な予定確認。

 俺はうーんと唸った。


「あるな」


「え、聞いてないんだけど」


「お前の振る舞ってくれた夕飯を食べないといけない」


 林は静かになった。

 蛇口から水が流れる音と、食器を洗うスポンジの音が部屋に響いた。


「……今晩、行きたい場所があるんだけど」


 俺の発言は完全にスルーされ、林はしどろもどろに言った。


「行きたい場所?」


 しばらくの無言。

 洗い物を終えたのか、水の流れる音が止むと、林はエプロンで手を拭きながらリビングに来た。


 そして、俺の真横を通り過ぎて、スマホを掴んだ。

 しばらく林は自らのスマホを操作して……俺に画面を見せてきた。


 スマホ画面に表示されていたのは、日本でも有名な劇団が現在行っている舞台の発券情報だった。


「……ほ、本当はさ、灯里と行こうと思ってたんだけど」


「おう、行ったら良いじゃないか」


「……向こうの都合が合わなくなったの」


「えぇ、酷い奴だな。あいつも。……どんな都合が出来たんだ?」


「え?」


「え?」


 まるで考えていなかったかのように、林は目を丸くしていた。


「えぇと……」


「言いづらい理由なのか?」


「そうだね」


「そっか。それは悪かったな。何も聞かなかったことにしてくれ」


 また無言。

 最近、林と会話をしているとこうして彼女が黙る機会がとても多い。思考が停止しているのだろうか。はたまた、思ったことが言いづらいのか。

 ……まあ、高校時代の彼女は言いづらいことでもズバズバ言う性格だったし、前者か。


 それにしても、思考が停止って、アホの子っぽいな(笑)。


「行こ」


 単刀直入なお誘いだった。


「俺、残念ながらそういうの疎いんだよな」


「大丈夫。あたしもだから」


「じゃあ、なんで行こうと思った?」


「……灯里に誘われて」


 あいつ……。

 林にはひたすら甘いと思っていたのに、意外と酷いこともするんだな。


「わかった。さすがにお前、可哀想だし……行くよ」


「ありがと」


「いいや、チケット代は?」


「いいよ」


「駄目だろ」


「初任給で買ったから」


「余計駄目だろ」


 俺は口を尖らせて言うが、こうなった林が絶対に譲らないことは、二ヶ月くらい一緒に住んでいるとさすがにわかる。

 渋々、俺は彼女のご厚意に甘えることにした。

 その分、夕飯代をご馳走するしかないか。


「だったら、夕飯も外で食べようか」


「うん。もう予約してあるから」


「え?」


「え?」


 ……ああ、夕飯も含めて、笠原と予定を立てていたってわけか。

 その上で、笠原がドタキャンしてきた、と。


 ……本当に?

一小説あたりの最高ptを超えそうです。

このままいけば、初の20,000pt超え作になりそうです!

いつも!

本当に!

ありがとう!!!!!


評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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― 新着の感想 ―
おいおいおいこの彼氏告白するつもり、、、彼女だわ!
[一言] 嘘がド下手+鈍感野郎=疑問が浮かぶだけ。
[一言] 笠原さんへの信頼の高さが仇となり…。 この主人公、正直に伝えたほうが絶対に良いタイプの相手だよなあ…。
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