林恵の再会③
久しぶりの学校。落ち込むカコちゃん。
思いもよらぬ展開になった。
一体、カコちゃんは今、山本に対して何を申し訳ないと思ったのか。
……一つ、あたしの中で心当たりがあった。
「それってもしかして、三年前の学園祭のこと?」
あたしの言葉に、カコちゃんは目を丸くしていた。
「あれ、違った?」
「……いいえ、合ってる」
カコちゃんは合点がいったようだった。
「そういうこと。あなた、山本君のこと好きなのね?」
……は?
「しゅ、しゅきじゃないしっ!!!」
いやそりゃあ……。
そりゃあさ、カコちゃん。
……好きだけどさあ。
具体的にどれくらいと好きと言ったら、最近はあいつの枕を抱いている時しか快眠出来ないくらいに好きだけどさあ。
何も面と向かって、言わなくていいじゃん……。
「アハハ。ごめんごめん。高校時代、あんなに目をギラつかせていたメグが恋をするだなんて、ちょっと面白いと思っただけよ」
「あ、あたしの言葉聞いてた?」
「勿論。本当、相変わらず素直じゃないわねえ」
あたしは目一杯カコちゃんを睨むが、年の功があるカコちゃんには昔から、あたしの睨みつけるの効果はない。
「メグ。まず教えてもらえる? あなた、一体どこまで三年前の文化祭のことを調べたの?」
しばらくして、カコちゃんはあたしに真剣な顔でそう尋ねてきた。
あたしは気を取り直して、カコちゃんに知ったこと全てを伝えた。
三年前の学園祭、後夜祭は山本のせいで中止になったとなっていること。
その中止理由は、山本がした文化祭実行委員への腹いせであると噂されていること。
そして、それらが要因となり山本はクラスメイトから嫌われてしまったこと。
「でも、そもそもがおかしい話だよ。文化祭実行委員の仕事は、個人の裁量によるものじゃない。仮に山本が木材の発注者だったとして、発注漏れがあったら山本のせいとはならないはずでしょ? ……当時、あいつを責めたあたしが言える口じゃないけど、全部がおかしいよ」
「……そうね。よく調べたわね、メグ。当時のいきさつは大体あなたの言う通りよ。その上で、あなたが知りたいと思っていることは……文化祭準備期間の状況と、山本君の状況とか、その辺かしら?」
「話が早くて助かるよ。カコちゃん」
カコちゃんは、嬉しそうに微笑んだ。そしてそこからしばらく天を仰いだ。多分、何から話せば良いか思案しているんだろう。
「そうね。まずは、何より一番大切なことをはっきりさせましょうか」
しばらくしてカコちゃんは言った。
「メグ。あなたの言う通りよ。あれは、山本君のせいなんかじゃない」
……カコちゃんの言葉に、あたしは酷く安堵していた。
思わずソファから崩れ落ちそうになるくらい、ほっとしたのだ。
「……本当よくそこまで調べたわね」
「当時の文化祭実行委員の一人に聞いただけだよ」
「それでもよ。普通、そこまでしようと思わない。……これも愛の力かしら?」
「や、止めてよっ。ハズい!」
本気で嫌がるあたしを見て、カコちゃんはニコニコしていた。嫌がらせしようってことではないと思う。ただ、ニヤけずにはいられないくらい微笑ましい……とでも言うのだろうか?
「本題に戻りましょうか。……と言っても、その話となると、あたしもあなたに謝らないといけないの。ごめんなさい。結局あれは、学校側の不手際よ」
「学校側の?」
「あなたも言っていたじゃない。組織で起きたミスは、担当レベルの責任にはならない。担当のミスは委員長のミス。そして、委員長のミスは文化祭実行委員担当の先生のミス。文化祭実行委員の担当の先生のミスは、学校のミスなの」
……つまりカコちゃんは今、学校を代表してあたしに謝罪をしている、ということか。
「……あたしに謝られても困るよ。あの時、あたしだって山本を責めたんだから」
「……そうね」
この一件で、唯一他人から謝罪されることが権利があるのは、多分、先んじて皆に謝罪をして嫌われ役を買って出た山本だけだろう。
「それで一体、何があったの?」
「……まあ、メグの大方の予想通りよ。あの年の文化祭実行委員は、とりわけ学生達のモチベーションが低かった。理由はいくつかあるでしょうね。受験も迫る中、文化祭実行委員長に指名された三年生の意欲が特別低かったこと。文化祭実行委員を担当する教員が境川先生で、右も左もわからなかったこと。通例で、文化祭実行委員は教員の中でも最年少の人に押し付けられるの」
境川先生とは、歴史の授業も務めていた若い先生だ。いつも気だるそうな態度で授業を教えてくれていたことをよく覚えている。
カコちゃんは随分と優しい言い方をしたが、理解した。
つまるところ文化祭実行委員は全員、境川先生のやる気のなさを見て増長したんだ。
発奮させる側の教員がやる気がないとなれば当然、士気は下がる一方だ。
「あいつのせいで、山本は」
「それは違うわ。メグ」
「なんでよ」
「……境川先生を責められる道理はあたし達にもないわ。彼に一人大役を任せて、フォローもせず、有耶無耶にしたあたし達だって同罪なの」
「……そんなの」
「でも、結局そうじゃない? 組織での仕事って言うのは結局、皆が皆同じ方向を向いて仕事をするから、結託するから強固になるの。指導者も作業者もやる気がない。やることといえば、責任逃れとか言い訳を連ねることのみ。そんなの上手くいくはずがない」
あたしは黙った。
「そして、それを外で指を咥えて見ていたあたし達にも、それを責める権利はない。だって、傍から見て失敗するとわかっているなら、声をあげればいいだけだったんだから。これじゃあ駄目だぞって。これじゃあ失敗するぞって。そう言って、危機感を植え付けて、皆で一致団結して頑張るようにさせるべきだったの」
カコちゃんの言う通りだ。そう思って、ただ黙った。
「……あの当時の学校には、本気で文化祭を成功させようと思っていた人はたった一人。たった一人しかいなかったの」
……だから、上手くいかなかった。
カコちゃんの声は少し寂しそうだった。
その唯一の一人とは。
あたしには、心当たりがあった。
その人は多分。
校長でもない。
文化祭実行委員長でもない。
境川先生でも、カコちゃんでも、あたしでもない。
……その人は、多分。
「それが、山本君だったの」
前田が言っていた。
たまに文化祭実行委員の仕事に行けば、山本が文化祭実行委員長に食って掛かっていた、と。
普通、出来ることではない。
一年生の分際で、上級生に歯向かいやがって。
前田が言っていた通り、仲間内でワイワイやっていた連中に現実を突きつけて、空気が読めないと身に覚えのない非難だって浴びたことだろう。
それでも山本は……。
あの時。
この学校ではただ一人……。
ただ一人、山本は文化祭を成功させようと本気で思っていたんだ。
「山本らしいね」
あたしは苦笑した。苦笑でもしないと、罪悪感に押しつぶされそうだった。
なんか主人公の株が上がっている?
掃除バカなのに?
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