林恵の再会②
寝る前に読んでって!
俺は寝るけど
翌日、あたしは学校にいるはずの加古川先生、通称カコちゃんに電話をした。電話番号は、前夜に灯里に聞いておいた。
数コールの後、カコちゃんは電話に応じてくれた。
「もしもし。加古川先生の電話でしょうか?」
『はい。そうですが』
「先生。あたしだよ。林恵」
『えー、メグ? あれ番号変わった?』
「うん。ちょっと色々あってさ」
『そうなの? 凄い久しぶりよねえ、どうしたの?』
「今日さ、ちょっと実家に帰ってきてて。ちょっと久しぶりにカコちゃんの顔を見たいなあと思ってさ」
『うん』
「学校、行ってもいい? 一年ぶりにさ」
カコちゃんは、あたしの要望に快く応じてくれた。
昼前の一時間くらい、カコちゃんは担当の授業がないらしく、そこで会おうと約束を取り付けた。
あたしは、久しぶりに地元の鈍行電車に乗り込んだ。
そうして、学校へと向かった。
学校に到着すると、丁度これから体育の授業であろう学生達が校庭の方へ体育着を着て走っていっていた。
何人かの生徒と目があった。見知った顔もいる。彼女らは多分、今年の三年生。あたし達の一個下の代だ。
学校で来賓用のスリッパを履き、あたしは職員室へ歩いた。
久しぶりの学び舎は、巣立ったこともあってか、少しだけ懐かしい。胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「失礼します」
「はーい。あ、メグ。来たわね」
「うん。久しぶり。カコちゃん」
……今更ながら。
カコちゃんは、あたし達の三年生の時の担任の教師だ。年齢は今年で四十二歳。笑顔がとても綺麗で、多分昔は相当モテただろうなあって、昔はよく仲間内で盛り上がっていた。
「さ、応接室に行きましょうか。お茶菓子あるから」
「え、いいの? なんだか悪いなあ」
「いいの。あたし今、ダイエット中だから」
「それなら……お言葉に甘えちゃおうかな」
応接室。
あたしとカコちゃんは、重厚なソファに向かい合って座りあった。机にはカコちゃんが持ってきてくれたお菓子とお茶。
「本当、久しぶりね。あなた達が卒業してから、まだ半年と少し? くらいしか経ってないのにね」
「本当だねー。あたしも久しぶりに学校歩いたら懐かしくて泣きそうだった」
「駄目よう? 卒業式の時みたいに、化粧が落ちるくらい泣いちゃあ」
「あ、あれは忘れてって前も言ったじゃん……」
あたしは少し不貞腐れた。
カコちゃんは、なんだかとても楽しそうに笑っていた。
「それにしても、本当どうしたの? あたし、これでもまあまあ心配してたのよ? あなた、突然電話に出てくれなくなったから」
「……あー」
あたしはカコちゃんからの詰問に戸惑った。
一体、どこまで話して良いのか。
……あたしがドメスティック・バイオレンスを元恋人にされて、大学も辞めて、山本の家にいることを知っているのは、四人だけ。
両親。
灯里。
そうして、山本。
それだけだ。
……信頼出来る人にしか、このことは話したくない。
でも、思えばカコちゃんは……高校時代、反抗期が酷かったあたしに親身に接してくれた、親代わりのような、そんな人。
つまりは、信頼に足る人だった。
「あたしさ、恋人と同棲してたの」
「……あらぁ」
「でも、別れちゃった。ドメスティック・バイオレンスされてたの」
……もう大丈夫だと思っていた。
山本のおかげで、ある程度昔のトラウマを克服出来つつあると思っていたんだ。
でも今、あたしは語りながら、顔を上げられない。泣きそうな顔を、カコちゃんに見せたくなかった。
「大学も辞めちゃってさ。……酷いもんだったよ。あの時は。……でもね、あたしある人に救ってもらっちゃったの。それで今、ようやく先生とも再会出来たってわけ」
「それは良かった」
先生は、優しい顔で言ってくれた。
「その相手の人って……あたしも知っている人?」
「……どうだろう」
「曖昧。でも否定しないってことは、ウチの生徒?」
「うん。偶然再会したの。頑なで、屁理屈ばっかり言う奴でさ。高校時代は大嫌いだった。でも、今では感謝しかしていない」
それ以上の感情があることはまだ、あたしは言えなかった。
「ねえ、メグ?」
カコちゃんは、半信半疑と言った顔だった。
「もし間違っていたら申し訳ないんだけど。……その人って、もしかして、違うかも知れないけれど……」
「……カコちゃん?」
「もしかしてその人って、山本君?」
あたしは率直に驚いた。
第一の驚きが、先生が山本のことを覚えていたことに、だ。
山本は高校時代、明らかに目立つ方の人間ではなかった。そりゃあ、カコちゃんが受け持ったクラスの生徒ではあったけど、それでも意外だった。
第二の驚きが……あたしと山本をカコちゃんが結びつけたことだ。
カコちゃんは多分、高校時代のあたしが山本のことを嫌っていることはわかっていたと思う。しかもその関係は、犬猿なんて言葉では生ぬるいような間柄だ。そんなあたし達の仲を知るカコちゃんが、そこに思い至るだなんて。
そして、第三の驚きは……。
恐らく、カコちゃんが山本のことを買っていたこと。
ただ、思えば不思議なことではない。
あいつは高校時代、テストではいつも好成績を収めていたし、授業態度だってマメだった。
先生達からの心象は……これ以上は、山本の尊厳にも関わるから止めておこう。
「うん。よくわかったね」
あたしは驚きを素直に口にすることにした。
あたしの知るカコちゃんなら、これで喜ぶと思っていた。
しかし、カコちゃんの顔はなんだか感慨深そうなものだった。
「……そう。そっか。良かったわね、メグ。山本君に助けてもらえて」
「……カコちゃん?」
「ごめんね。懐かしい名前を聞いて、思い出しちゃっただけなの」
「何を?」
「……山本君には本当、悪いことをしたわ」
カコちゃんは寂しそうに呟いた。
この章は今日中に終わらせる!
次章書くネタはない!!!
困った! 結構マジで!!!!!
評価、ブクマ、感想、オナシャス!!!!!




