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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
思い出す女王様

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林恵の違和感

この章は多分、ずっとヒロイン視点となります(まえがきで書くの面倒くさくなった)

 あの当時は、山本の開き直ったような態度が気に入らなくて、それからあたしは一方的に山本を嫌うようになったんだ。


 ……そうだ。

 そうだった。

 そんな過去があったこと、すっかりと忘れていた。

 どうしてだろう。

 まあ、所詮学園祭。後夜祭が一年なくなったくらい、後になればなるほど、どうでも良くなった。そんなところだろうか。


「……ねえ、灯里は覚えていた?」


 伊藤と太田と別れた後、あたしと灯里は帰りの電車に揺られていた。伊藤と太田は、今日は都内のビジネスホテルに泊まるらしい。

 翌日も都内を散策するそうで、あたし達も一緒にしないかと誘われたが、灯里が適当な理由を付けて二人の誘いを断ったのを見て、あたしもそれに乗っかることにした。


 あたしの灯里への問いかけは、主語がなくわかりづらい。

 ただ、灯里も居酒屋で聞いた後から思うところがあったのか、あたしの聞きたことは理解しているようだった。


「一年の後夜祭のことなら、覚えてたよ?」


「……そっか」


 あたしはつり革を掴む手に力を込めた。


「あたし、忘れてたよ。すっかり」


「そうなの?」


「うん」


 粛々として、あたしは頷いた。

 あたしは今、内心で山本への罪悪感を覚えていた。仲良くなったからだろうか。今ではすっかり忘れるようなことで、彼をクラスで吊し上げてしまった。そのことに関する罪悪感だ。


「……まあ、しょうがないよ」


「そうかな?」


「うん。絶対そう」


 灯里にしては珍しく、はっきりとそう断言をした。

 まあ、灯里が言うのならそうなのだろう。

 あたしは内心の気持ちに納得をすることにした。


 ……ただ、いささか疑問が残る。

 それは何より、さっき罪悪感を抱いた原因と同じ理由で生まれた疑問だ。


 今、あたしは山本と一緒に暮らしている。

 今、あたしは山本に恋心を抱いている。


 この一月と少し、あたしはほぼ毎日、山本と一緒にいて、そうして色んなあいつの姿を見てきた。


 助けてくれた姿。

 情けない姿。

 掃除に執着する姿。

 そうして、微笑む姿。


 色んな姿を見て思ったことがある。生まれた疑問、違和感がある。


 あの日、山本は言っていた。

 キャンプファイヤーの木材の発注を忘れた、と。


 ……本当にそうなのだろうか?


 いや、キャンプファイヤーの木材発注が漏れたことを疑っているわけではない。事実あの日、文化祭の後夜祭は行われなかったのだから……その原因がそこにあることは疑いようのない事実。


 ただ、あたしが疑問に思っていることは……。


 その発注漏れは、本当に山本のせいなのだろうか……?


 ……あいつは。


 勤勉で。

 神経質で。

 マメで。

 中途半端が病的に嫌いな男だ。


 そんな男が……後夜祭に使用するキャンプファイヤーの木材発注漏れだなんて、本当に初歩の初歩なミスをするだろうか?


「灯里、山本から何か聞いてない?」


 力弱く、灯里はあたしの問いに首を横に振った。


「……そっか」


「ねえ、メグ?」


「それじゃあ灯里、あんたのクラスの一年の時の文化祭実行委員って誰だった?」


 思わず、灯里の言葉を遮って喋ってしまった。

 言いたいことでもあったのか、灯里にしては珍しく、少し彼女は顔に陰を落としていた。


 しばし、灯里は逡巡していた。


「……前田君。三年の時同じクラスだったよね」


「あいつか」


 前田は確か、サッカー部に所属していた奴だ。面白いことを言えない癖に、声ばかり大きかった記憶がある。


「灯里、前田の連絡先、わかる?」


「何するの?」


「当時のこと聞きたいの」


 灯里は少し驚いた顔をしていた。

 まあ、あたしとしても意外な行動に出ようと思ったもんだと思っていた。

 あたしからしたら高校時代の記憶は、忌むことの方が多かった。それを掘り起こすような相手に再会するのなんて……多分、山本絡みでなかったら絶対に嫌だった。


 ……でも。

 山本のためだったら、それは一切何ら苦でもない。


 わかってる。

 多分、山本はあたしがしようとしている行為を知れば、きっと言う。


 今更そんなことを知って何になる、と。


 あいつは過去を振り返るのが好きではない男だ。

 そんなあいつの精神性に触れられたから、あたしは前の恋人にされた数々の恐怖を克服出来つつあるんだ。


 あいつは言うだろう。

 あたしの行為は無意味だと。


 ……でも。

 でもっ!


 あたしはそうは思わない!


 かつて、あたしが貶めたあいつが。

 今、あたしが好いているあいつが。


 このまま無実の罪で断罪され続けるだなんて、耐えられない……!


 でも多分、あたしの行為はやっぱり今更なんだろう。

 今更同級生達に、あの後夜祭の一件は山本のせいではなかったと言っても、誰も何も思わないだろう。

 あたしだって、昔のことで忘れていたくらいなんだから。


 ……ただ、あたしはあいつに謝罪が出来る。


 真実を知って、あたしは、あいつに謝るべきなんだ。


 あいつを貶めたあたしだけは……。

 これからも、あいつと一緒にいたいと思うあたしだけは……。


 あいつに過ちを謝るべきなんだ。


「妬けるね、本当に」


「……うぅぅ」


「メグ、前はそんな顔出来なかったのにね」


「ど、どんな顔よぅ」


「恋する乙女の顔」


 灯里は電車の車内、あたしを抱きしめた。

 終電間際の車内は、あたし達以外の乗客はほぼいない。いても、残業疲れからか眠っていた。それだけが救いだった。


 まあ、どっちにせよ恥ずかしいことには変わりない。


「ごめんね。あたしは前田君の連絡先知らない」


「……そ、そっか」


「だから、聞いてみるね?」


「え?」


「もしわかったら連絡する。だから、会ってみなよ」


「……灯里、ありがとう」


 灯里との関係は、再会以降ずっと気まずい雰囲気を漂わせていた。

 しかもそれはあたしからの一方的な感情で。


 なのに灯里は……。


 あたしは、灯里を抱きしめ返した。

 彼女だけは本当に……本当に、あたしの親友なんだ。

 かつて灯里が、山本と交際していたからってなんだ。


 それでも灯里が、あたしの親友であることは変わらない。それだけは変わらないじゃないか。


「……いつもごめん」


「ううん。気にしないで」


「……いつかきっと、今度は。灯里の手助けするから」


「……だったら」


 灯里は何かを言いかけた。


「ううん。なんでもない」


 そして、少し寂しそうな顔で苦笑していた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ますます笠原ヘイトがマシマシになってまいりましたw
[一言] 灯里が犯人だったり。 灯里との破局の原因はそこにあったり。
[一言] 復縁の手助して欲しいたな
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