林恵の相談
ヒロイン視点と成増(七回目)
「ねえ、今週の土曜日、ちょっと出掛けてもいい?」
山本の枕を抱きしめたまま、あたしは女の子座りをしながら山本に尋ねた。
「おう。いいぞ。どこ行くんだ?」
「……ちょっとね」
気付けばあたしは出掛ける内容をぼかして伝えていた。
伊藤とか太田とかはどうでも良いが、灯里と一緒に遊ぶことはあまり伝えたくなかった。なんでだろう。わからない。
「そっか」
「詮索しないの?」
「してほしいのか?」
「したら許さない」
「だったらなんで聞いたの?」
山本は少し困った顔をしていた。
確かにそうだ。さっきからあたしの発言は矛盾に矛盾を繰り返している。
「うるさいなあ。そんなんじゃ女の子にモテないよ」
事実を伝えられて、あたしは不機嫌な顔で言った。
矛盾を伝えられ、それに不機嫌になって。今のあたしの織りなすムーブは、さすがにちょっと酷い。
「とりあえずさ、俺の枕そろそろ離さない?」
あたしは山本の言葉を無視して、もう一度彼の布団に寝転んだ。
山本はため息を吐いた後、またテレビに注目し始めた。
深くは聞いて欲しくなかったとは、確かに山本に言ったのだが……。相手にされないのはされないで、寂しい。
「……ちょっと友達と会おうと思って」
構って構って。
内心でそう懇願しながら、結局あたしは山本に土曜日にすることを伝えるのだった。
「そっか。じゃあ俺はおじゃま虫だな」
最近では、どこかに出掛ける度に、あたしは山本にも同行をしてもらっていた。だから、山本も付いてきてくれる気が多少あったらしい。余計、申し訳ないことをした。
あたしは罪悪感をかき消すように、一層山本の枕を強く抱きしめた。
「良かったな」
「何が」
「高校の友達、お前のこと心配してくれていたんだな」
「……そんなことないと思うよ」
「でも、会うんだろ?」
「……そうだけどさぁ」
高校時代の伊藤とか太田は、多分あたしの威を借りていただけの人達。権力にすがる腰巾着と言ったところか。そんな人達と再会を果たして、彼女達に今のあたしの惨状を伝えたら、一体どんな反応を示すのだろうか。
多分、言葉上はあたしの状況に同情を示す。
だけど、きっと内心では……。
「まあ、笠原にしっかりサポートしてもらえよ」
「……なんで、灯里が来るって知ってんの?」
一瞬、あたしの内心に邪な感情が溢れた。
一体どうして、山本は件の場に灯里が来ると知っているのか。まさか、裏で繋がっていたのか?
少し彼を睨むあたしを前に、山本は困ったように首を傾げた。
「え、だってお前……高校の友達と再会しようだなんて質じゃないじゃん」
確かにそうだ。
特に前の恋人と同棲を始めて色々あって以降は、その思考は一層顕著になった。
「今のお前をそんな場所に誘うの、笠原くらいしかいないと思ったんだ」
「……そうだね」
不服そうに、あたしは言った。
「あんたに言い当てられるの、なんかムカつく」
「……それはごめん」
なんで、こんなに山本に対してムカつくのだろう。
ああ、あれか。
ここまではっきりあたしの気持ちを言い当てられた。つまり彼は、それだけしっかり毎日、あたしを見てくれていたのだ。
それだけしっかり見られていたことにあたしは……わずかな羞恥を覚えた。
だから、恥ずかしかったしムカついた。
これは所謂、ツンデレってやつなんだろう。
「寝る」
あたしは言った。
「そこ俺の布団」
「うっさい」
「最近のお前、ちょっと高校時代っぽくなってきたよな」
うっさいうっさい。
……バーカ。
呆れた顔で言う山本に背を向けて、あたしは目を閉じた。
そうしてそれから数日の夜を経て、灯里達と会う土曜日がやってきた。
 




