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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
荒療治な女王様

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林恵の諦め

ヒロイン視点となります(五回目)

 朝、きっと山本が学校に着いた頃に、彼からメッセージが送られてきた。そのメッセージに驚き、返事をしていく内にあたしは、彼が今日、同じ科の男に唆されて合コンに出向くことを知った。

 まあ、こうなる日はいつか来ると思っていた。

 あたしは山本の部屋で生活をさせてもらっているとはいえ、別にあいつの恋人でもなければ、あいつに恋心を抱かれているわけでもない。


 なんだかんだあいつも十九歳。

 なんだかんだあいつも、遊びたがりな大学生。


 いつか、恋人を求めて合コンに参加しても別に、何らおかしい話ではないではないか。

 仕方ない。こう言うこともある。割り切ろう。


 あたしは山本に返事を返すことはなく、一人ホームセンターに行っていた。買ってきたのはラッピング入の包装紙を数個。


 家に帰ってくるなりあたしは、包装紙の入ったレジ袋を乱雑にリビングに放り投げて、開けたのはクローゼット。


「バーカ」


 そうしてあたしは、彼の大切な掃除用具を包装紙で包んでいく。


「山本のバーカ」


 一層な恨みを込めた口調で、あたしは山のように詰まった掃除用具を包装していく。


「……山本のバカ」


 仕方ない。こう言うこともある。割り切ろう。


 なんとかそう思おうと思った。

 でも、そんなことが出来るはずがなかった。


 あたしのこれまでを思えば、そんなことは当然だった。


 地獄のような日常から救ってくれた山本に。

 なんだかんだこの部屋に匿ってくれた山本に。

 あいつに法の裁きを与えてくれた山本に。


 ……未だに、この部屋に住まわせてくれている山本に。


 あたしが抱くこの思いは、そんな一朝一夕で諦められるようなものではない。当然じゃないか。


 だから、彼に友達を作ってほしいと思った。

 目を閉じれば思い出すようになったあいつの笑顔。あたし以外の人でも、あいつを笑顔にさせてあげれる人が一人でも増えればいいと思った。


 だからあたしは、あいつに嫌われる覚悟で掃除用具を人質にあんなことを言ってみた。

 ただまさか、その結果、墓穴を掘ることになるだなんて思ってなかった。


「バカ」


 結局、買ってきた包装紙も余らせて、あたしは掃除用具を包む作業を打ち切った。

 最初から、これらを通販サイトで売る気なんて更々なかった。全ては帰ってきた時、あいつが驚く顔を見たかったからしたことだ。つまりは、ただの嫌がらせ。あたしを放って、一人合コンなんて行って女を誑かしたバツなんだ。


 そんなバツを与える資格、勿論あたしにはありはしない。

 罪悪感にも駆られた。だけど、そんな罪悪感をも凌ぐくらい、今あたしは彼に恨みを持っていた。


 彼からしたら身に覚えのない恨みだろう。

 でも仕方ない。

 嫉妬深いあたしを助けた。それがあいつのミスだったんだ。


 高校時代は、顔も見たくないくらい嫌いだったのに。

 今ではもう、あいつのいない時間なんて考えられないくらいになっている。

 

 全部。

 全部全部。


 あいつがあの日、あたしを助けたから悪いんだ。


「……早く帰って来てよ、山本」


 あんたの好きな牛たん買って来るから。

 掃除用具、売らないから。


 ……だから。


 早く帰ってきてほしい。

 そんなあたしの願いとは裏腹に、時間は刻一刻と過ぎていく。

 一応、夕飯は二人分作った。だけど、よく考えればあいつは合コンの時にご飯を食べているだろうし必要はなかっただろう。夕飯いらないくらい連絡してくれてもいいじゃない、と、あたしもあいつに返事をしていない状況を棚に上げて内心で文句を言った。


 一人の夕飯は、いつもよりも美味しくなかった。

 どんな調味料にも負けない調味料が、あたしの側にはいたんだな、とその時あたしは気がついた。


 勿論こんなこと、当の本人の前では言えっこない。


 あいつから未だに借りているタブレットを見る気にもならない。

 気付けば、時計の針を五分おきに確認しながら、テレビの音だけ聞いて、山本の枕に顔を埋めていた。


 足をバタバタさせてみた。こうすれば山本が早く帰って来るかもと思った。だけど、そんなことはなかった。

 時間がどんどん過ぎていく。

 時間がどんどんどんどん過ぎていく。


 そうして気付けば、時間は十二時を過ぎた。終電もない時間だ。


 あたしはこの時、ついに諦めた。

 終電を逃した山本が……それくらい遅い時間まで出掛けた山本が。


 今、どこで何をしているのか。

 それは、わかりたくなくてもわかってしまった。


 こんなことなら、あいつに友達を作れだなんて、言わなければよかった。

 そうだ。そもそもあいつに友達が出来たら、あたしはあいつを独占出来なくなる。あたしにとって、あいつに友達が出来ることは、不利益しかなかったではないか。


「バカだなあ、あたし」


 山本の枕を抱きしめながら、あたしは呟いた。

 枕からは山本の匂いがする。なのにこの部屋に山本はいない。

 あたしは、いつもこうだ。取り返しが付かなくなってから後悔をする。


 前の恋人のことも。

 お父さんのことも。

 そうしてついに……あいつとのことでも。


「……山本ぉ」


 もう一度、あたしはここにいやしない男に懇願した。


 お願い。

 お願いだから。


 もう、友達を作れだなんて言わないから。

 もう、掃除用具を売るだなんて言わないから。

 もう、迷惑かけないから。


 だから、帰ってきて。


「ただいま」


 彼の声が、玄関から響いた。

多分、絶対、林だけ解像度高いわ。俺のめんどくさい性格ととてもマッチしている。でも俺はここまで嫉妬深く他人を愛したことはない。


もしかして俺は今、自分の描くキャラに敗北を喫したのか?


評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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― 新着の感想 ―
終電、、、無くなっちゃったね。 帰るんかーい。
後書きも含めて好きだよ。
[良い点]  面白すぎて時々「ぷっ」と声が出るほど笑える点。 [気になる点]  笑った際に「ぷっ」と声が出たら家族に気持ち悪いと睨まれた点。
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