助っ人
「山本君、今日はあんがとね」
五限までの講義が終わり、俺はさっき合コンに誘われたパリピ男子達に拉致られ、一人の男に肩を組まれて道を歩く。
まったく、この俺が合コンに呼ばれる日がやって来ようとは、まるで思ってもいなかった。
まあ、四千円というまあまあの会費も取られたし、今日はたらふく飯を食ってやらないと気が済まない気分だった。
それにしても、俺は今回の合コンで気になったことが一つあった。
「お前達、今日の合コンの助っ人に呼ぶの、俺なんかで良かったのか? もっといただろう。チャラい奴」
「アハハ。なになに山本君、もしかして臆病風に吹かれてる? 大丈夫、ちゃんと紹介するから」
「おおう? おう。おおう?」
会話が成り立たなくて、俺は首を傾げていた。
俺の質問に対する回答は? こういうの、一番苛つくんだよな。政治家かよ。
「……き、今日の相手方は同じ学校なのか?」
「そうだよ。文学部の女子達」
「へえ」
「同級生だよ。しかもすっごい可愛い子がいてさ。あ、変な態度見せたら駄目だかんね! もう合コン組めなくなっちゃうから」
「あ、はい」
「あ、そろそろ着くよ。先んじて言っておくけど、一応未成年だから、お酒は駄目だよ?」
へえ、健全な合コンなんだな、と思ったら、連れられた場所はチェーン展開している居酒屋だった。
まあ、お酒を頼まなければ済む話か。
俺は一人、納得していた。
俺はそのまま、男子達に連行され居酒屋に入店した。
座敷の個室に、俺達は案内された。四名二列の、合計八名が座れる部屋だ。
俺達男子は、まずは一列に座った。
「後々、席は変えれるから」
「あ、そう」
俺をこの合コンに誘った……茶髪君は、意外と面倒見よく、俺に色々なことを教えてくれた。
ただ、席に座ってしまえば仲間内で楽しげに会話を始め、俺は一人除け者にされてしまった。まあ仕方がない。連中の会話に混じって、合コン前に冷ややかな空気を作る方が申し訳ない。彼らは俺にとって、命の恩人でもあるわけだしな。
しばらく時間まで、俺はスマホを開いて日課である通販サイトで掃除用具の商品情報を眺めていた。
「こんばんはー」
まもなく、室内に甲高い声が響いた。
そしてそれから少しして、男達も盛り上がる。
一人。
二人。
三人。
……どっかで見たことがあるような気がする女子が、次々と個室に押しかけてきた。そして、俺達の向かいに少し話をした後座っていった。
「あれ、もう一人は?」
「お金おろしてから来るって。多分、すぐ来るよ」
「ごめんっ!」
「ほら来た」
息を切らしながら、女子が一人個室の扉に手をかけて。
「げ」
俺は、変な声を出す。
「あー、げ、とは何よ。山本君!」
同じ大学。文学部。くそう。もっと早く気付くんだった。
今、個室に入店してきた最後の女子。
その人は……。
「か、笠原」
「うん。お疲れ、山本君」
「お、お前なんでここに」
「え? あたしは今日、君が来ること知ってたよ?」
「なんで」
「だって、あたし達からリクエスト出したんだもん。山本君も呼んでって」
俺はゆっくりと男子陣に目を向けるが、彼らは目を背けて合わせようとしない。
……別に咎めようってわけじゃない。
ただ事情は話してほしいってだけなのだが……答えはどうやら、頂けそうもない。
いや、でもよく考えて見ればわかりそうなもんだった。
彼らには合コンの助っ人を頼めそうな男は他にもいたはずなんだ。それなのにも関わらず、あの講義室で彼らは俺を狙い撃ちにしてきた。
つまり、彼らにとっては今日の合コンには、俺が絶対に必要だったんだろう。
「もしかして、二人って知り合いだった?」
男子の一人が、俺達に尋ねてきた。
「え? ……あー、アハハ」
笠原は、はぐらかすように笑っていた。いつもならからかい混じりに元恋人ですって言いそうなもんなのに、不思議なもんだ。
「まあ、それは良いじゃない」
笠原をフォローしたのは、笠原の隣に座る女子だった。
そう言えばこの人、食堂で笠原と話した時に色々聞いてきた人だ。
「えー、なになに、気になんじゃん」
「そうだよ。教えてよ、ヤマギワ君!」
「山本君」
笠原の声に、個室の空気が少しピリついた気がした。
「……だよ?」
苦笑する笠原を見て、皆が乾いた笑みを浮かべていた。
まあ、今回の件は彼らが悪い。人の名前を平然と間違えたら、不快になる人だってそりゃあ当然いる。
俺?
俺は別に、そんなことは考えていない。
ただ、思っていた。
思っていたのだ。
……帰りたい。
今日も3話投稿と決めてたので、4話目を投稿しました
評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!




