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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
荒療治な女王様

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合コンの誘い

 同じ科の男子と話せだなんて、林もとんでもない要求を俺にしてきたもんだ。まったく。俺はこれまでの人生、友達がいないことを憂いたことなんて滅多にないと言うのに。今更友達なんて、求めていないと言うのに。


 まあ、彼女の気持ちはなんとなくわかる。

 元恋人から彼女を匿ったり、先日の実家への帰省の件だったり、俺はこの一月でそれなりに彼女に対して恩義を感じさせてきた。

 きっと、その恩義を少しでも返したいと思ったんだろう。

 話の流れで、俺に友達がいないことは共通認識となり、だったらそれを解消させてやろう。いやはや、実にオカンめいた林らしい発想だ。

 

 そんなオカンめいた林の発想を、俺はどうするべきなのか。

 ……正直。

 正直に言えば。


 ……絶対、イヤだ。

 俺と同じ科の男子と話す。俺と同じ科の男子って……あいつらだろ? あの、講義中騒がしい奴ら。まったく、講義中くらい静かに勉強しろよと思った回数は、最早数え切れない。なんでそんな奴らとこれから友達にならないといかんのだ。

 まあ、一部騒がしくない連中もいるにはいるが……机の下でスマホをイジっていたり、机の上でスマホをイジっていたり。それ以外だとゲームをしているような輩もいる。


 ……ちょっと待て。碌な奴いなさすぎないか、ウチの科の男子って。


 まあ、親元を離れ大学生活を送り始めてしばらく。ようやく彼らも大学ライフを楽しみ始めた頃なんだろう。ただ、夏休み明け早々から羽目を外すのは違うと思うぞ、学生諸君。


「くっそ、どうしたもんか」


 大学へ向かう道中、俺は歯ぎしりをしていた。

 このままでは……俺の掃除用具が売られてしまう。確かにあれは、林から見たらガラクタ同然だろう。


 だけど。

 だけど……っ!


 あれらは俺にとっては、我が子同然なんだ。


 そんな大切なあいつらを売られるだなんて、言ってしまえば寝取りみたいなもんだ。俺の脳が破壊されてしまう。だから絶対に駄目だ!


 しかし、だったら一体どうすればいい。

 林は言っていた。ただ男子に話しかければいいべきだと。

 ただ、俺は思うのだ。

 話したって騙れば……良くね? と。


 俺は嘘が嫌いだ。

 これまでの人生、付いた嘘は多分、ダウトを除けば片手で数えられる。

 そんな俺が真剣に嘘をつくか悩んでいるのだから、事態の深刻さを把握してもらいたい限りだ。


 ……まあ、林の言う通りなんだ。

 簡単なことなんだ。

 林は俺に、男子とどんな話をするかまでは要求してこなかった。必ず友達を作って帰ってこいとも言わなかった。

 ただ、話してこいと言っただけなんだ。


 確かにそれは、特別難しい要求ではない。


 ……でも俺は今、特別友達を欲しがっていない。それは本当なんだ。

 さっきは同じ科の男子をなじるようなことを内心で思ったが、友達がいらないと思っている理由はそれだけではない。


 俺は、人といるより一人でいる時間の方が好きなんだ。

 一人でテレビを見て、一人で本を読んで、掃除をして。掃除をして。


 そうしている時間が、好きなんだ。


 今更、そんな生活スタイルを変えたいとは思わない。だから俺は、今友達を欲していないのだ。


 ……仕方ない。

 今日、家に帰ったら林に言おう。

 俺は今、友達を欲していない。だから今日、お前の要求を、望みを叶えなかった。

 掃除用具を売るなら売ってくれ。ただ最後に……最後に、写真を一枚、撮らせてくれ。


 それだけ、土下座でもしてお願いしよう。


 ようやく大学にたどり着き、これから講義が始まっていくというのに、俺の気分はブルー一色だった。

 いくつかの研究棟を横切って、一限目の講義が行われる棟に入り、講義室へ向かった。


 そんな時だった。

 俺に、奇跡が起こる。


「あっ、えぇと……ヤマギワ君?」


 講義室に入るやいなや、ヤマギワ、という男子を呼び止める男が一人。その人物の顔は知っていた。こいつはさっき内心で毒づいた、講義中騒がしい男グループの一人だ。

 そんな男に急に呼ばれたヤマギワという男を、俺は少し不憫に思った。


 ただすぐに違和感に気付いた。

 さっきから件の男は、俺の前から動こうとしないのだ。


 俺は、耳にしていたイヤホンを取った。

 ……ヤマギワという名に聞き覚えはない。


「俺のこと?」


 ただまさか、俺のことを呼んでいるわけではないよなと思い、そう言った。


「そうそう」


「俺は山本だ」


「あー、ごめん。山本君」


 謝罪の色を感じさせない、軽い声だった。

 しかし、俺はまもなく気付いたのだった。目の前にいる茶髪の……同じ科の男に、俺は話しかけられた。

 これはつまり、俺は林のミッションをコンプリートしたってことになるではないか。


「ありがとう」


「え、何が?」


「お前のおかげで俺、命より大切なものを守れたんだ」


「へぇ、凄いね!」


 俺は微笑んで頷いた。

 うんうん。そうだ。凄いだろう?


「じゃあさじゃあさ、山本君、ちょっと俺のお願い、聞いてくれない?」


「ああ、勿論だ。困った時はお互い様だからな」


「うわー、山本君やっさしい! じゃあ、今晩お願いね」


「任せろ」


「合コンだから」


「ああ、わかった」


 しばらくの沈黙。


「えっ!?」


 俺は声を上げた。


「皆ー、山本君オッケーだって」


「マヂ!?」


「山本パイセンぱねえ!」


 待て待て待て。

 俺今……友達以上に不要だと思っているのが、恋人だぞ?

 そんな俺が、合コンに参加?

 いや、そんなの困るよ!


 ……ああ、でもあれか。

 俺、ただの数合わせか。


 ……だったらまあ。


 まあ、しょうがない……かな?


 最早断れる雰囲気でもなくなった状況を鑑みて、俺は一人大きめのため息を吐いていた。

 講義が始まる前、俺は林にメッセージを送った。


『早速男と話したぞ』


『はや。どんだけ掃除用具捨てられたくないの?』


『それで、今晩予定が出来た』


『どっか行くの?』


『合コン』


 メッセージを送った後に思ったけど、合コンに行くこと林に言って大丈夫だっただろうか。

 林からの返信は返ってこなかった。

主人公こんなデリカシーなかったっけと思って読み返したけど、こんなにデリカシーなかったわ。


評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 林が部屋で死んでそう
[良い点] テンポが良すぎて星5億個付けた。作者が天才ですねこれは……
[一言] 林もまさかこんな展開になるとは思わないよなぁ
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