表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
帰省する女王様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/164

鼻声

 俺達の通う高校は一緒だったが、林と俺の最寄り駅は二駅違う。都内の二駅差なんて歩いて数分程度の区間もあるが、田舎の二駅差は歩いて一時間以上もザラだ。

 林の最寄り駅に降り立って、俺の目の前には知らない世界が広がっている。


「行こ」


 しかし、当然ここは林の良く知る世界。

 一切の迷いなく、林は俺を引っ張り駅改札の方へと歩き出した。


 そう言えば俺達は、未だ手を繋いでいる。


 ミーンミーンと遠くでセミが鳴いている。俺の地元は都心よりも気温が高く、九月になった今でも昼間になれば額に汗が滴るくらい、暑くて暑くてたまらない。


「お前の家、ここから歩いてどんなもん?」


「三十分くらいかな」


「それは歩くの無理だ」


「そうだね」


 改札の前、一旦手を離さなければいけない状況に置かれ、林はなんだか少し名残惜しそうに手を離した。俺なんかの手でも握っていたいくらい、実家に帰るのが嫌ってことなんだと思う。

 ただそう思うと、林をここに連れてきたことに少しだけ罪悪感を覚える。


「タクシーで行こう」


「そうだな」


 林の提案に、俺は乗っかった。

 駅のロータリー。そこのタクシー乗り場にいたタクシーに乗り込み、俺達は彼女の家を目指した。


 俺達以外の人がいる環境だからか、林の口数はめっきりと減った。最近、林は他人がいる環境で俺といると、中々口を聞いてはくれない。俺への嫌悪感からだと思っていたが、多分、今日は別の気持ちだったと思う。

 タクシーの窓越しに外の風景を見ている林は、ノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。しばらく前、林は男と同棲し故郷を捨てる選択をした。もう、ここに戻ってくることはないとも思っていただろう。だからこそ、再び見たこの景色に、余計にこみ上げる思いもあるのだろう。


「千五百円です」


 タクシーの運転手に運賃を払い、俺達はタクシーを降りた。

 住宅街の一軒家の前に、俺達は佇んだ。


「……ここか?」


「うん」


 さっきとは違い、林に重い雰囲気が立ち込めていた。緊張しているのは、見ていればわかった。


「……押すよ」


「おう」


 林は意気込んで実家のチャイムに手を伸ばす。……しかし、彼女の人差し指は中々チャイムに触れない。チャイムと指の間に、途方もない距離があるかのように、まったく触れないのだ。


 林の手は、震えていた。

 覚悟はしていたのだろうが、やはり……。


 俺は、代わりに押すかという提案はしなかった。

 ここまで付いてきた身ではあるが、林と、林のご両親の問題はあくまで俺は部外者なんだ。彼女の選択を促さないなんて、あってはならない。


 林は、悔しそうに唇を噛み締めていた。押したいのに押せない。彼女の顔には、そう書かれていた。


 そんな時だった。

 彼女の実家の扉が、開いたのは。


「……恵?」


 彼女の実家から出てきたその人は恐らく……。


「……お母さん」


 何の気なしで家から出てきた林の母は、もう会うことのないと思われた娘との再会に、口元を抑えていた。目尻には涙がうっすら見えた。


「どこ行ってたのよ、もうっ」


 林の母は、林を抱きしめた。声は震えていた。


「……ごめん」


 林の謝罪の声も、震えていた。何となく、今の林の気持ちはわかる。一月も一緒に生活をしていたからだろうか。

 いいや、泣きそうな林の顔を見れば、それは一目瞭然だった。


「ごめんなさい。お母さん」


 ……電車の中で林は、彼女の父への恨みは口にしていた。だけど、彼女の母への恨みは特別、何もなかった。林は結構態度に出る人だし、彼女の母への恨みを口にしなかった辺り、恨みはまるでないのだろう。

 だから、素直な心境を吐露出来たんだ。


「……良いのよ。良いの。だってまた、帰ってきてくれたんだもの」


「……うん。ぅん」


「それで、そちらの方は?」


 突然話を振られて、俺はビクッと体を揺すった。

 ……達観していて忘れていたが、そう言えば俺、これから修羅場に巻き込まれるんだった。


「……もしかして、前言ってた恋人さん?」


「違ぅ……」


 林は鼻をすすりながら、滝のような涙を流していた。


「え」


 林の母の俺を見る目が、途端に警戒するものに変わった。

 ……まあ、そりゃあそうなる。

 俺は苦笑した。早速の修羅場だぜ。俺も泣きそう!


「その恋人とは、別れた……。DVされたの。彼は、あたしを助けてくれたの……」


 娘からのとんでもないカミングアウトに、林の母は口をあんぐりとさせていた。まあ、いきなり情報を全て理解しろって言っても無理があるよな。自分の娘がドメスティック・バイオレンスの被害に遭っていただなんて、信じたくもないだろうし。


「彼がいなかったらあたし……あたしぃ……。もゔ……ここにモドってごれなかっだ」


 鼻をすすりながら涙ながらに林は言った。

 今の林の顔は、それはもう酷いものだった。

 俺が彼女を部屋に匿った時でさえ、ここまで感情を露わにすることはなかった。


 ……やはり、なんだかんだここが、彼女の家、ということだったんだろう。


 林の母の俺を見る目は、みるみる軟化していった。


「……そう。そう……。良かったわね。素敵な人に出会えて」


 林の母は、泣いて俯いた林の頭を優しく撫でた。


「あなたも……えぇと」


「あ、山本です」


「山本君。……そう言えば、高校の授業参観で見たことあった気がするわ」


「それは……よくご存知で」


 俺は苦笑した。


「そう。……本当、ありがとう。ありがとうございました」


「や、やめてください」


 林の母が丁寧に頭を下げて、俺はあわあわした。それからもしばらく、俺は林の母に頭を下げるのを止めてと言ったが、彼女は気が済むまでそれを止めなかった。

 とりあえず林には、持参していたティッシュを渡してやった。

 チーンと鼻をかむ娘を見ながら、林の母はどこか嬉しそうだった。


「……それで、お母さん。どこ行こうとしていたの?」


 未だ玄関先にいる俺達の中で、目を真っ赤に腫らした林は彼女の母に尋ねた。


「ああ、そうだった。うっかり」


 林の母は、お茶目に手を叩いた。

 そして、少し寂しそうに俺達に微笑んだ。


「折角だし、あなた達も行く?」


「え、どこに?」


「病院」


 嫌な予感が過ぎったのか。林の顔色は、スーッと青くなった。


「お父さん、今入院しているの」

 

 そして、林の母は言った。

俺は皆に真摯でいたいと思う。でもただ一つ、俺はずっと皆に嘘をついてきた。

言うべきか言わないべきかずっと悩んでた。でも、言うしかないんだって最近思い始めてる。

今回の一件を真摯に受け止め、反省して、今後は一層皆さんに真摯に作品を書き続けていきたいと思ってる。

だから、どうか怒らないで聞いてほしい。


1日2話投稿するってやつ、あれ、嘘なんだ。


本当、ごめん。なんて謝罪していいかもわからない。でも、許してくれると言ってくれたら嬉しい。

本当にごめんなさい。

1日2話投稿、1日坊主でごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >1日2話投稿、1日坊主でごめんなさい。 1話をもっと短い2話に分けて投稿すれば、約束は守れます(笑)。 1日一回でも投稿を続けてくださってありがとうございます。
[一言] いつもあなたの作品を楽しませて貰っている。 たくさん更新してくれて本当にありがとう。 ストーリーのテンポがよく、キャラクターそれぞれの魅力を持っていて見てて面白いと感じる。 今後も無理せず更…
[一言] >1日2話投稿するってやつ、あれ、嘘なんだ。 いいんだよ……誰にだって色んな訳も事情もあるさ…… こんな優しい嘘って……素敵やん? 1日5話……何という……感謝! ……欲しがりさんかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ