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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
帰省する女王様

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ありえた未来

 家に帰ると、林はアルバイトに行っていて部屋にいなかった。笠原の願いを安請け合いして、奮い立たせて家に帰ってきた。それなのに件の彼女がいない状況は、結構俺のやる気を削いだ。

 冷蔵庫に、林の達筆のメモが貼ってある。


『今日帰り遅くなるから、ご飯食べてて。冷蔵庫の中に入れてある』


 メモを読んで、俺は頭を掻いた。

 思い立ったら吉日とは良く言うが、思い立った間にやらないと気が削がれてやる気がなくなる。結果、碌な結果にはならない。それが今回はよくわかった。


 彼女のいない部屋で、俺は一人彼女の作っておいてくれた肉じゃがを温めて食べていた。そう言えば、こうして彼女と一緒に夕飯を食べない日というのも随分と久しい気がする。


 ふと思った。

 もし、林が実家に帰ることになったら、俺はまた一人でここでご飯を食べることになるのか。

 少しだけ寂しいと思った。でも、俺は今までの状況が異常だったんだ、とまもなく気付いた。


 今日までの俺達の関係は酷くいびつだった。

 そもそも俺達が出会った高校時代。俺達は特段仲が良かったわけではない。何なら多分、向こうはかなり俺のことを嫌っていたとさえ思う。

 ただ、大学生活を始めて、コンビニバイト中に彼女と再会をして。彼女がドメスティック・バイオレンスの被害に遭っていると知って。助けて。


 今の状況は、最悪な状況を打開すべく、なし崩し的に形成された。そりゃあ、異常な状態で突き進むさ。当然だ。


 ……多分、ここいらが潮時なんだろう。

 上出来じゃないか。高校時代、仲の悪かった林と今では唯一無二の友だと思えるくらい打ち解けられた。そしてこの一月、林には散々、世話になった。

 これ以上、俺が林をこの部屋に匿って、その先に俺は彼女に何を望む。


 ……やっぱり、彼女は実家に戻るべきだ。


 ……でも。


『つまりさ、そんな自分本位な俺が、俺の意見ではなくお前に意見を求めたんだ』


 ついこの前……俺は、林に言った。

 彼女にこの部屋にいてほしいと。

 ……そうは思えないような言い方になったのは、俺の性格が自分本位な性格だからに他ならない。


 あの時、林は明らかに落ち込んでいた。その理由は未だわからない。ただ今は、その落ち込んだ理由を解き明かしたいわけではない。


 あの時俺は、彼女にこの部屋にいてほしいと遠回しに言った。

 俺は、嘘が苦手な男だ。

 そんな俺が随分と遠回しであれば……彼女にこの部屋に残ってほしいと言ったのだ。


『あたし、この部屋……やっぱり出ていった方がいいかな?』


 あの時、彼女がこの部屋を去った方が良いか尋ねた時、不思議と彼女の意見に賛同する気にはならなかった。

 あまりにも自然に。あまりにも当然のように。

 俺は、彼女はこの部屋にいるべきだと思ったんだ。


 ……それは、どうしてだ。


 あの時の彼女には、俺以外の部屋に行く宛がなかったから?

 ここを去ったら、彼女は路頭に迷うから?


 ……多分、それもある。

 それも大いにある。


 でも、なんだかそれだけじゃない気がするのはどうしてだ。


 わからない。

 自分の気持ちなのに、わからない。


「……うぅむ」


 昔から俺は友達が少なかった。

 だから、いつだって悩み事は一人で解決してきた。親だってあまり頼ったことはない。親は、俺に対してあまり干渉的ではなく、真面目に話を聞いてくれるような人ではなかったから。


 ……だからいつも一人で解決してきた。正しかったこともあれば間違えたこともある。でも大抵のことで言えることは、間違えようが正しかろうが、俺はキチンと悩み事に対しては解決するよう尽力してきたってことだ。


 そんな俺は今、……今、悩み耽るこの問題を一人で解けそうな気がしていない。

 そう言えば俺はいつか柄にもなく、相談事があるなら他人を頼れみたいなことを、ドメスティック・バイオレンス被害後の林に言ったことがあった気がする。


 だったら今、俺も……いいや、駄目だ。


 ……林が。


 この部屋を去るか。

 この部屋に残るか。


 その選択をする時、俺の意見なんて混じってはいけない。


 この部屋に残るか。

 この部屋を去るか。


 それは、林が決めることであり、俺が決めることではない。


 俺が林にするべきこと。

 ……それは、傷心の心が癒えつつある彼女に、選択肢を与えることだ。


 彼女の道は一度大きく閉ざされた。

 元恋人のせいで、彼女の前に広がっていた様々な選択肢が潰えたのだ。


 本当はあったかもしれない未来が、彼女にはたくさんあった。


 大学でたくさんの友達に囲まれる生活を送る未来。

 優良企業に就職してキャリアウーマンとしてバリバリ働く未来。

 結婚して子を授かり、旦那と幸せに暮らす未来。


 全てが全て、もう閉ざされた未来ってわけではない。

 でも、一時は本当に……彼女はそれら全ての未来を、俺が名前も顔も知らない男に閉ざされかけたんだ。


 俺は、林と林の元恋人との間にあったことに関してはまったくの部外者だ。だから、元恋人の悪口を大声で言うことはないし、憤りだって口にはしない。私刑に及ぶことなんて間違いなくないだろう。

 ただ、そんな男のようにだけはなりたくない。


 それだけは確と思う。


 ……だから、彼女の同居人として俺は。

俺にも幸せな結婚生活を送る未来はありえたのだろか?

なんで、もうない前提なの???


評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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