嫌悪感
山本視点に戻ります
さっぱりした俺はトイレを出て、林を探した。
「あ、いた」
林がいたのは、本屋の出口前。何やら誰かと話し込んでいるようだ。
そして、俺は見つけた。林と話す彼女を。
「……笠原」
つぶやくと、笠原と目が合った。次いで、林がこちらに振り返った。林の顔は何だか少し深刻そうに見えた。
「じゃあね、メグ」
笠原は俺達を放って、本屋を後にした。一体何をしに来たのだろうか?
「……待たせたな、林」
「……山本」
「大丈夫か? 具合悪くなったか?」
林は返事を返さない。
「……悪かったな、待たせて」
「……山本ぉ」
「とりあえず、帰るか」
今の林の状態で、彼女をここに放っておくわけにもいかなかった。俺は林の手を引いて、本屋を後にした。
帰路、やはり林は何も言わない。本屋に一緒に入店した時にはこんなことはなかった。だったら、一体林はいつこんな状態になってしまったんだ。
まあ、考えるまでもない。
林がこんな調子になったのは間違いなく、笠原と会って以降。一体、どうしたって言うんだ。笠原と林は高校時代、いつも一緒にいるような親友だったはずなのに。
……一体、どうして。
「ねえ、山本」
家が近くなった頃、ずっと俺に手を引かれて歩かされていた林が声を発した。いつもの彼女の声は気だるげで、高圧的。なのに今の声は、覇気がまるで感じられない。
「……あんた、灯里と付き合っていたの?」
思わず俺は、足を止めていた。
……笠原と俺の関係。
笠原の家に行った日の帰り道、俺は林に笠原への秘事を見抜かれ、そうしてそれを事実だと認めた。だけどあの時俺は、林に一つ隠し事をした。
いや、言い訳をするのなら、あれは隠し事をしたわけではなかった。ただ、言うタイミングを失っただけなんだ。もっと言えば……あの日、笠原との交際を終えた日、俺が笠原に振られたことはまごうことなき事実だったんだ。
ただ、俺が言い訳の句を述べなかったのは、林が求めているものがそんな言葉ではないとわかっていたから。
「そうだ」
単刀直入に、俺は言った。
「どうして言ってくれなかったの?」
「悪かった。弁明の余地はない」
「……別に、弁明の必要なんてないじゃない」
林は堰を切ったように話しだした。
「そもそもあたしとあんたは恋人同士じゃない。だったらあんたがあたしに謝る必要なんてないじゃない」
「……でも、お前と笠原は親友だったんだろ?」
「……そんなの」
「お前、笠原に聞いたんだな。その話。悪かった。あの時俺が伝えておくべきだった。……俺がそうしなかったからお前が、笠原に不信感を抱く結果になった」
高校時代、笠原と林は親友同士だった。林が元恋人から解放され、彼女達は再会を果たした。だけど俺は知っている。あの日……笠原の家に行った日以降、林は笠原と再び出会うことをしていなかった。
度々、俺は尋ねたりした。笠原に会わないのか、と。親友と遊ばず、俺なんかと一緒にいて楽しいのか、と。
そう尋ねると、林は決まって微妙な顔で曖昧な言葉を繰り返した。
その姿を見たら、嫌でもわかる。
林が、笠原を避けているってことくらい。
「……悪かったな。お前が嫌う俺なんかと、笠原が一時でも交際関係になっていたと知って、嫌悪感を抱いたんだろ?」
「違うっ!」
「……そうとしか考えられない」
林は文句を言い返さない。
「……だけど安心してくれ。俺達の関係は健全なものだった。何より、もう終わった関係だ」
「……あんた、言ったよね」
「何を」
「灯里との関係、少しは引きずっているって」
「……お前が気に病むことはない。気にするな」
「気にしてなんかない。ただ……っ」
ただ……。林はそれ以上は言わない。
「……いつ、付き合っていたの?」
「俺とあいつがか?」
「それしかない」
「確かにそうだ」
俺は苦笑して、歩き出した。林は気落ちしている様子はあったが、俺に続いて歩き出す。
しばらくの沈黙。
俺は一人、悩んでいた。俺達の交際はいつからだったか。それを思い出していたこともある。だけどやはり……思い出すのが少し、辛い。
いつもの林ならきっと気付く。
俺が今、どんな気持ちでいるのかくらい。
でも、今日に限って林は、俺に苦渋を迫る。彼女も動揺しているのだろう。無理もない。彼女が今俺に抱く嫌悪感は相当なものに違いない。
……だったら、事態がこれ以上悪化することはないだろう。
俺の苦しさくらい、この際別にどうだっていい。ようやく立ち直りかけの林を前に、変な不安を煽るほうが、俺は嫌だ。
「……高校三年の夏から。文化祭の直後だったかな」
俺は言った。
「付き合っていたのは、三ヶ月くらい。あっという間の三ヶ月だったよ」
不意に、まぶたを閉じた。
まぶたを閉じると……あの日の記憶が、蘇っていく。
思い出したくない記憶。
思い出したい記憶。
様々な記憶が、蘇っていく……。
一日に何話投稿させるんだ!
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こっから3〜5話くらいの過去編に入ります。
グリッドマ○見たらさ。ちょっとさ。高校生の青春をさ。書きたくなってさ。
だから私は、宝○六花ちゃんの太ももが好き。