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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
再会する女王様

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とっても優しい女の子

「改めてお久しぶり、メグ、山本君」


 俺が振る舞った麦茶を三人で飲み、リビングで一段落付いた頃に、笠原は言った。

 本当に、彼女との再会はとても久しぶりだ。こうして顔を向き合わせていると、高校時代の記憶がおぼろげながら蘇る気がする。


「うん。久しぶり。悪かったね、心配かけて」


「本当だよ。いきなり連絡取れなくなるんだもん。あたし、毎日連絡してたんだよ?」


「そっか。ごめんね、スマホ壊されちゃってさ」


 笠原には事前に、高校を卒業してから今日まで、林の身に起きたことを全て話してある。ドメスティック・バイオレンスの話も、その恋人が逮捕されたことも、全てだ。

 だから、彼女のスマホが元恋人に破壊されたことも伝えてあるのだが、笠原は話を聞いた途端、少し顔を歪めた。親友の身に起きた辛い体験に、感情移入をしているのだろう。そりゃそうだ。高校時代はほぼ他人だった俺でさえ、彼女の身に起きた話を聞いた時は途方もない怒りを覚えたくらいだからな。


「いやあ本当、山本にあの時会えなかったらやばかったよ」


 今ではすっかり乗り越えたのか、若干冗談めかして林は笑った。


「うん。うん。……それは良かった。ありがとうね、山本君」


「いや、まあ……当たり前のことをしたまでだ」


「いやあ、でも本当、驚いたよ。ドメスティック・バイオレンスの話もそうだけど、その後まさか、山本君の家に匿われてるだなんて、思いもしなかった」


「それも同じだ。こいつ、行く宛なかったからな。まあ、こいつはこんな狭い部屋嫌だろうが、状況が状況だったからな」


 難しい顔で、俺は俯いていた。ふと、俺は隣にいた少女の訝しげな視線に気がついた。


「何?」


「別に」


 林に視線の意味を尋ねたが、まともな答えは得られなかった。まあ、彼女が別に、と言うのであれば、気にするだけ無駄か。


「それでさ、一番気になるのは……もうメグは、ドメスティック・バイオレンスの被害に遭う危険性はないのかな?」


「相手は逮捕されたし、まあ、しばらくは大丈夫だろう」


「しばらく……って?」


「これから先、向こうさんが警察から解放された時、報復行為に出ないとも限らんってことだ」


 俺は肩を竦めて冷静に言った。最初は相手が逮捕されれば、林はもう大丈夫だろうと思ったこともあったが、時間を経て相手がシャバに出てきて、そんな時に林への恨みを募らせているかはわからない。

 林にはそのことに気付いた時点で、一応話はしておいた。その時林は、少しだけ怯えるような顔をしていた。


 ここで笠原にその話をした理由。

 それは彼女がその話を尋ねてきたからということもあるが、一番は彼女にもまた、林を守ってもらうようお願いするためだ。


「可哀想なメグ」


「ちょっと、あたしそんな弱い女じゃないけど?」


「でも、元恋人相手には殴られても大人しくしてたんでしょ?」


 笠原の奴、痛いところを突くな。

 ドメスティック・バイオレンスの被害が拡大するのは結局、被害者が加害者を増長させてしまったからという面もあるのだ。無論、ならば被害者にも責任の区分があるかと言えばそういう話ではない。ただ、自衛のためにももっと最善を尽くすべきだった。そんな酷いことを言ってくる連中も少なからずいる。笠原の言葉は、まさしくそれだった。


 林は、わかりやすく落ち込んでいた。

 彼女は彼女なりに、ドメスティック・バイオレンスされていたにも関わらず、元恋人が逮捕されたことに対して、責任を感じていた。当時のその気持ちを掘り起こされ、内心は穏やかではなかっただろう。


「その辺で止めておけよ。笠原」


「うん。ごめんねメグ。いじめたかったわけじゃないの」


「……なら、そんな酷いこと言わないで」


「でも、こうでも言わないとメグ、また同じ目に遭うかもしれないでしょ? だってメグ、とっても優しいから。時には心を鬼にして、自衛しないと」


 俺も笠原も、いつでもどこでも林を守れるかと言ったら答えは否だ。笠原は既に一度、林を守れなかった過去があるし、俺はと言えば、そもそも広い交友関係を持つ林視点で見れば、掃いて捨てれる程度の間柄なのだ。

 だから、いつでもどこでも俺達を頼れるわけではないから、自衛をすべきなんだと笠原は言った。


 唯一の意外な発言があるとすれば……笠原が林のことを、優しいと言ったことだろうか。林という女性が優しいことを、俺が否定したいわけではない。

 ただ、高校時代の彼女を知る俺は、あの当時の彼女が優しいだなんて思えた試しはなかったのだ。一番近くで見てきたからこそ、笠原は林の優しさを見抜けた、というわけか。

 果たして、高校時代、林の側にいた彼女の友達の何人が、彼女の優しさを見抜けていたか。今更それはわからないが、何となく少数だっただろうことはわかる。


「お腹すいちゃったね。ご飯食べに行く?」


「いい。作るよ」


「え、メグご飯作れるの?」


「バリバリ。山本は料理、大雑把だから」


「……まあ、成り行きでな」


「へー。食べたい食べたい」


「……あーでも、冷蔵庫の中ほぼ空だった」


「じゃあ、買い物行こうよ」


「そうしようか」


「男手がいるだろう、俺も行くよ」


 立ち上がった女子二人に続く、俺も腰を上げた。

 その時、俺はまた林から訝しげな目を向けられた。


「何だよ」


「……別に」


 プイッと、林は俺から視線を逸した。一体、何だったのか。わからない。ただ、まもなく俺達は買い出しのため、三人で部屋を出た。

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