フランクフルト
本作のコミカライズ2巻、本日発売となります!
本当に皆様には感謝しかありません!
今回も買ってくれると嬉しいです!
「うわー、高いー!」
ロープウェイに乗り込んだ俺達は、ぐんぐんと高度を上げていくロープウェイの窓辺から外の景色を眺めていた。
窓から見える景色は、木々で囲まれていたが、左端にはダムのような建造物。右側には甲府市街が少しだけ見えた。
ものの数分で、ロープウェイは山頂に到着をした。
「ほらほら、山本! 早く行こう!」
「落ち着け林。乗客の中で一番はしゃいでるのお前だぞ」
一応言っておくと、俺達が乗り込んだロープウェイには、まだ年端もいかない少年少女も乗っていた。
ただ、林はその子達以上にハイテンションに、外の景色を楽しんでいた。
別に、旅行に来た身なのだから、絶景を楽しんでいけない、というわけではないが……そろそろ成人間近の女性が見せる反応にしては、少し子供っぽいことは否めない。
「いいの! だって折角の旅行だよ?」
「恥ずかしいとかないの?」
「あはは。山本、旅の恥は搔き捨てって言うでしょ?」
「言うけど……?」
だからと言って、自ら恥を掻きに行くのは……どうなんだ?
「よし。とりあえず、ソフトクリーム、食べようぜ」
林は舌をペロッと出して、ウインクをしてきた。
……マジでこいつ、ずっと食い意地張ってるな。
「とはいえ、こんな山頂にアイスを買えるような場所は……」
「あるよ」
日頃は方向音痴な癖に、林は俺よりも早く山頂にある売店を見つけていた。
正直、少しだけ呆れた。
「山本は何味食べたい?」
「そうだなぁ」
呆れたものの、俺も少し小腹が空いてきていたから、甘味を摂取すること自体は構わなかった。
売店にある看板を見て、俺は何を注文するかを考えた。
「じゃあ、とりあえず……フランクフルトかな」
「ソフトクリームじゃないし」
「仕方がないだろ。小腹が空いているんだ」
「……まあ、小腹が空いているんじゃあ、しょうがないよね」
林は意外とこういうところは寛容的だった。
「すみませーん」
林は店員を呼んで、ソフトクリームとフランクフルトを注文してくれた。
お代は何故か持ってくれた。
俺が払うと言ったのだが、運転を任せている分だからと言って、絶対に受け取ってくれなかった。
「うん! 美味しい!」
「そうだな」
快活な笑みを飛ばす林に同意しつつ、内心、俺は……まあ、所謂観光地で食べるクオリティのフランクフルトだな、と思っていた。
要は、味は普通、ということだ。
ただまあ……観光地という特別な場で食べるからこそ、味により深みが増すというところもあるのかもしれない。
「ね。山本」
そんな考察をして一人盛り上がっていると、気付いたらソフトクリームを食べ終わっていた林から声をかけられた。
っていうか、ソフトクリーム食べるの、早っ。
「……なんだ?」
少しだけ嫌な予感がした。
「あんたのフランクフルト、美味しそうだね」
……まったく。
どうして良い予感をした時は一切的中しないのに、嫌な予感をした時は毎回的中するのだろう。
「じゃあ、もう一個買えば?」
「いやいや、だってあたし……ダイエット中だよ?」
「アイス食った後に言う?」
「そうなんだけどさぁ。そうじゃないじゃん?」
「いや、そうだよ。絶対にそう」
まあ、気持ちはわかる。
甘いものを食べた後って、無性に塩辛いものを食べたくなるよな。
「……どうしても駄目?」
「駄目駄目。もう一個買いなさい」
「えー。……まあ、仕方がないか。そうするよ」
「ん?」
なんだか嫌に聞き分けがいいな。
「……おう。そうしろ」
「隙ありっ」
「あ」
俺が油断した隙をついて、林は俺が持つフランクフルトにパクリとかみついた。
「……おい」
「おいしー!」
そうか。美味しいか。
「ごめんね。どうしても食べたくなっちゃって」
「……謝っても遅いぞ」
「ごめんって」
「お前、そんな思い切り顔を寄せて、ついうっかり俺が手を動かして、串の先が目にでも入ったらどうする」
まったく。
危ない真似をしやがって……。
「……そっち?」
「は? 他にどっちがあるんだよ」
「いやだって、あんたのフランクフルト勝手に一口もらったんだよ?」
「それが?」
「……あんたもさっき、あたしにもう一個買えって言ったじゃん」
「それは、どうせお前のことだから、一口で我慢できなくなると思ったからだ」
「まあ、それはある……」
あるんかい。
「じゃあ何? 一口で我慢出来るなら、食べるのは全然問題なかったの?」
「ああ」
「あっさりと……どうしてそうなるの?」
「は?」
一体、俺、なんで断罪されているんだ?
「そりゃあ、このフランクフルトはお前の金で買ったものだからだろ」
俺はフランクフルトを恵んでもらった立場の人間。
購入者である林が一口欲しいと望むなら、従うのが筋ってもんだ。
「だから、一口で我慢出来るのなら、俺のホットドッグを食べることは問題ない」
「……ほへー」
「次からは危ない真似はすんなよ」
「……わかった」
あまり納得いってない様子だったが、林は頷いた。
「はは……」
「なんだよ林、急に笑い出して」
「いや、あんたは相変わらずだと思ってさ」
「は?」
林が俺の何を見て相変わらずと思ったのかがわからなかった。
「ま、それもあんたの良さだよ」
「……そりゃどうも」
「……ふふっ」
林は可笑しそうに口元を抑えていた。
「まあ、とりあえずさ……」
そして、俺に微笑みかけた。
「フランクフルトもう一個買ってくるね!」
「やっぱり一口で我慢出来ないじゃないか」




