レンタカー
足湯を存分に堪能した俺達は、次に山梨観光の足を手に入れることにした。
「というわけで、レンタカー会社に行くぞ」
「はーい」
俺達は事前に車のレンタルを予約していたレンタカー会社に向かった。
旅行の予定は一泊二日。
頑張れば、石和温泉の徒歩圏内でもなんとかなりそうなものだったが……どうせならとレンタカーを借りてみることにしたのだ。
「あんた、高校の時に自動車免許を取得してたのね」
「まあな」
高校に通っている内は、高校卒業後、東京に行くことが決まっていたこともあり、大学生の間に免許を取得すればいいか、くらいに思っていたのだが……親が免許代をカンパしてくれると言ったことや、証明書として免許は最強であることを加味して、取得しておいた恰好だ。
「ちなみに、運転経験は?」
「あるにはある」
免許取得から高校卒業までの僅かな間だがな。
以前、林にも何かのタイミングで伝えたことがあった気がするが……俺は移動時間が移動時間だけで終わってしまう自分で運転する系の移動があまり好きではない。
「まあ、一方通行とかのトラップに引っかからなければなんとかなる」
「……程ほどに信用してる」
林はいやに疑り深かった。
まあ、俺も逆の立場なら絶対に疑うけどな。
「すみません、今日予約している山本なんですが……」
そんなこんなで到着したレンタカー会社。
いくつかの契約書。そして免許証の提示等、手続きをこなして、俺達は無事にレンタカーを借りることに成功した。
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
俺は担当者に会釈をした。
「それじゃあ、早速移動する?」
「まあ待て。まず、真っ先にやらないといけないことがある」
「何? 安全祈願?」
「お前、ここに置いていっていいか?」
前々から思っていたが、こいつ、根の部分でナチュラルに畜生だよな。
まあ、高校時代に比べてその畜生さもマイルドにはなっているが……。
いや、よく考えれば俺も似たようなものか。
色々と言葉を引っ込めて、俺は車の後方に回り、マグネット式のステッカーを一枚貼った。
「何貼ったの?」
林の言葉には返事をせず、俺はボンネットにも同じステッカーを貼った。
「うわぁ……」
若葉マークのステッカーを見た林は、小さな声で唸った。
「……仕方がないだろう」
「まあね」
俺が車の後方、前方に貼ったステッカーは、所謂初心者マーク。免許取得から一年未満の新米ドライバーが必ず貼らなければならないものだ。
「……少しこの旅行が不安になってきた」
「大丈夫だ、林」
「何を根拠に言っているのさ」
「人間、誰しも初めは初心者だからさ」
「……そうだけど」
「今日は山道もいっぱい走るし、事前予習した限りだと温泉街の道も狭め、さらに言えば土日に来ているから道路交通も混雑が懸念される。だが大丈夫だ」
「あんた、わざと言ってるでしょ」
そりゃあな。
俺も根っこの部分で、ナチュラルに畜生だし。
……まあ、仕方がないだろ?
俺も内心、結構不安なんだ。
「とりあえず、行こうぜ」
「……ねえ、山本」
「なんだ」
「死ぬときは一緒だね」
「馬鹿言え。お前のことは絶対に殺さないから」
……軽い調子で言った後、僕は気付いた。
なんかこのセリフ……すごい恥ずかしいものではなかろうか。
チラリと林を見たら、彼女は頬を染めて俯いていた。
かつては女王様と呼ばれた傲慢ちきな女が見せる姿にしては、大人しいものである。
「……行くぞ」
「う、うん……」
俺達は車に乗り込んだ。
エンジンをかける前、俺はミラーの位置を確認し、角度調整を行った。
シートの位置を調整し……。
アクセルとブレーキ、サイドブレーキの位置を確認し……。
俺と助手席に座る女のシートベルトを確認。
「よし」
俺はエンジンをかけた。
轟音を鳴らし始めた車のアクセルを踏み、俺は車を発進させた。
「とりあえず、昇仙峡に向かうか」
最初の観光地は、昇仙峡だ。




