旅先決め
林のダイエット開始から一か月。
俺の管理下の元、彼女は無事に三キロの減量に成功した。正直、ここまではかなりいいペース。あまりにも順調に体重が減るもんだから、林のモチベーションも現状はかなり高い。
まあ、大変なのはこれからだ。
ダイエット中にはかならず停滞期がやってくる。
そこでどうモチベーションを保つか。それを考えていかないといけない。
「ふむふむ。石和温泉だとこんなもんか……」
まあそんなことはともかく、俺は先日林と約束したように、現在二人きりでの温泉旅行を計画していた。
スマホを操作しながら、候補地にある温泉地をいくつか吟味していた。
旅行期間は一泊二日。
費用は、一人あたり二万円前後で考えていた。
「ふむふむ」
「あははー」
「……ふむ」
「草」
「……」
「草草の草」
「林、ちょっとこっちに来なさい!」
六畳一間。
ベッドで仰向け状態でスマホを見る林に向けて、俺は怒鳴った。
「……こっちに来いって言う程大きな部屋じゃないでしょ、ここ」
「じゃあ、ベッドから降りなさい!」
「……えー」
林はスマホをスリープにして、上半身を起こした。
「何さ。あんたが怒るなんて珍しいじゃん」
「そうだろうそうだろう。仏の山本こと俺も今回の件はさすがにぶち切れだ」
「えー……あたし、なんかしたっけ?」
どうやら心当たりはないようだ。
やれやれまったく。
「お前も少しは温泉旅行の計画に参加したらどうだ」
さっきから、こっちが必死に色々調べている横で、林ときたらスマホをポチポチとしてばかりだった。
「こうやって、費用を考えて旅行先を吟味する。これも旅の醍醐味の一つだろう」
「あー……確かに、今のあんた、なんかすごい楽しそうだもんね」
「そ、そうか?」
「うん。相変わらずこういうみみっち……細かいことするの好きなんだろうなーって微笑ましく見ていたよ」
「……照れるじゃないか」
……ん?
なんか俺、今、林に話を逸らされかけてないか?
「いいから、折角なんだしお前も少しは考えたらどうだ」
「と言ってもなー。あたし、温泉地に詳しくないし」
「何? 詳しくないのか。だったらまずは、関東の目ぼしい温泉地の説明から……」
「いいよ。興味ないし」
……しょぼん。
「というか、どこ行くかはあんたが決めていいよ。適材適所だよ」
「それっぽい言葉で面倒事から逃げようとしているだろ」
「まあね。でも、実際あんたが決めるのが一番手っ取り早いじゃない」
……そうだけども。
折角温泉地に行くのに……自分の意思が反映されなくてちゃんと楽しめるのか?
後になって、あたし別の場所が良かったな、とか言い出すタイプじゃん。お前。
「……お前、いつもどうやって旅行先決めてたんだよ」
「え?」
「笠原とかと旅行行ったりしなかったのか。高校の時」
「あー……まあ、灯里に決めてもらってた」
聞いておいてなんだが、どうせそんな話だと思っていた。
相変わらず笠原は、林に対して異常なくらい過保護だ。
「わかった。……じゃあ、温泉地で何をやりたいかくらい案をくれないか?」
「やりたいこと?」
「そうだ。温泉に入る以外に、歴史的建造物を観光したいとか、海を見たいとか色々あるだろう?」
「あー……なるほど」
林は少し考える気になったのか、うーんと唸りだした。
「……あんた、優しいね」
「あん?」
「折角の旅行だから、あたしのリクエストをなんとか少しは反映させたいと思って、色々と言ってくれているわけでしょ?」
……質問に答えろよ、もう。
「ありがとっ」
「いいから、早く」
「うーん。……そうだねぇ」
また林は唸りだした。
「あっ」
そして、何かを思いついたようだ。
「いくつかいい?」
「ああ、ドンドン言え」
「じゃあまずは、お饅頭食べたい!」
饅頭……。
なるほど。一か月ダイエットしていたことも相まって、甘味をご所望と言うわけか。
「後は、海鮮も食べたい!」
「饅頭……海鮮……」
「後は後はっ! 焼肉!」
「……ん?」
「グラタン! お寿司! ハンバーグ! 唐揚げ!」
……ダイエットで我慢させすぎたのかな。
林が不憫になった俺は、一人で旅行先の検討を再開した。無論、林の意向は全て無視するつもりだった。
ダイエットガチ勢だけど1日、2日くらいなら好き勝手に食べても大丈夫です
チートデイってやつです
折角なのでこっちも読んでくれると嬉しいです!
『学校一厳しい風紀委員長が、恋人である俺を校則違反を口実に呼び出しては甘えてくる』
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