ダイエットをする女王様
皆様のおかげで、本作の第二巻が7/25に発売させて頂けることになりました!
本当にありがとうございます。
ご購入頂けますと、作者は嬉しくなります。短絡的な人間なので。
高校時代の俺には、端から見て水と油な関係と言われるほど、不仲な相手がいた。
そいつは女で、日陰者な俺とは違い、クラスではよく目立つやつだった。
不仲になった原因は、なんてことはない。相手が一方的に俺のことを嫌ってきたから、俺からしても特別絡みに行きたくないと思ったというだけだ。
そんな相手とも、高校生活が終われば二度と会うことはないと思っていたのだが……ひょんなことがきっかけで、今、俺達は何故か同棲生活をするに至った。
あいつとの同棲生活は、正直前途多難だった。喧嘩もしたし、口論もしたし、泣かせたこともあったし、論破してやったこともあった。
……あれ、なんか俺、最低男みたいだな。
ともかく、そんな前途多難な同棲生活を送っていく中で、最初はすぐに終わるだろうと思ったこの生活もまもなく半年が過ぎようかと言った頃にもなると、俺達の関係にも僅かに変化が生まれつつあった。
具体的に言えば……。
喧嘩の回数は……減ってない。
口論した回数は……減ってない。
あれ、もしかしてあんまり変わってない?
いやいや……そんなことはないだろ?
だって……。
泣かせることは……ちゃんと減った。むしろ泣きたくなることが増えた。
論破することは無くなった。最近では戦いを仕掛ける回数が減った。ボコボコにされるから。
なんてこった。
俺にとってプラスの変化が一つもないじゃないか。
あいつとの同棲生活の末、今ではすっかりと俺はあいつの尻に敷かれる日々を送っていた。
やはり、あいつとの……林との同棲生活は前途多難の連続だ。
ただ最近は、もう少しこの生活が続けばいいのに、と考える気持ちも少しは芽生えつつある。
つまり、そう……。
『高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない』
今では少し、楽しくなりつつある林との生活に……今日も俺は身を投じていく。
「林、お前最近、ちょっと太っただろ」
「デリカシー拾ってきてくれる?」
良い感じにまとまったというのに、早速俺は林に何故か叱られるのだった。
「あんた、女の子相手にいきなり太ったとか言っちゃ駄目って、お母さんに教わらなかったの?」
「むしろ体重に気をつけたいから、ガンガン指摘してって言われたぞ」
「あんたのお母さんなら、確かに言いそう」
「それはどうだろう?」
「……どんな流れで言われたのよ」
「確か……母さんが高校の同級生と同窓会に行った日の夜のことだ。酒に酔ったあいつにうざ絡みされてな。三段腹って罵ったんだ」
「サイテー」
「そしたら、母さん大爆笑でな。もっと言えよって煽ってきて……それで言われたんだ。体重に気をつけたいから、もっと言え。ガンガン言えって」
そういえば……。
「そういえば、後日実際に太っただろと指摘したらめちゃくちゃキレられた。何なんだろうな、本当」
「サイテー」
林が最低botと化した。
なんということだ。これではまるで、俺が最低男みたいではないか。
あ、最低男なのか。
「……悪かった。だからどうか、許していただけないだろうか?」
とりあえず俺は頭を下げることにした。
「……本当だよ。ったく。いきなり人に向かって、太っただなんて言うだなんて」
「悪いな。……ただほら、この部屋に来てからのお前、外に出る機会がメッキリ減っただろう? しかも最近、ポテチとかチョコとかを食べている姿をよく見かける気がしてな」
「それは……まあ、あるかも」
「だろ?」
「でも、あたしあんまり太らない体質なんだよね」
林は楽観的だった。
どうやら自覚症状はないようだ。
「……まあ、そこまで言うなら今晩、体重計乗ってみようかな?」
「そうしてみたらどうだ?」
「うん。……ま、大丈夫だと思うんだけどね」
林は楽観的に笑って言った。
そして、その日の晩。
「ぎやあああああああ!」
脱衣所から、大きな悲鳴が鳴り響くのだった。
「おい、林! どうした!」
脱衣所と扉一枚隔てて、俺は林に尋ねた。
「おい? おい! 林!」
いくら呼びかけても、林から返事はなかった。
「……山本」
ようやく、脱衣所から林の声がした。しかしその声は、何故か憔悴しきっていた。
「山本、しばらくご飯、味気なくしてもいい?」
……俺は全てを察するのだった。