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林恵の空回り

 えーんえーんと泣く寧々を慰め終えると、あたしは料理に戻った。


「色々、ご迷惑をおかけしました……」


 鍋の沸騰具合を見ていると、リビングから弱々しい寧々の声がした。


「別に、迷惑なんてかけられてない」


 山本が言った。


「うん。だから山本君には言ってない」


 だろうね。

 あんたおろおろしていただけだし。


 ちらりと山本を見ると、彼はしょぼんとしていた。


「……あの。ありがとうございます」


「別に」


 こっちに話しかけられると思って、あたしはそう返事をした。


「……えへへ」


 寧々は笑っていた。


「何がおかしいんだ?」


「え? あ、いや、その……久しぶりだなあと思って。こうして友達と一緒に遊ぶの」


「へー」


 山本は聞く気があるのかないのか、微妙な返事だ。


「まさか、林さんみたいな友達が出来るだなんて思ってもみなかったなあって」


 ……山本は?


「俺は?」


「お料理も出来て、姉御肌で、正直憧れちゃいます」


 山本は微妙な顔であたしを見ていた。

 あたしは、なんと返事をしたものか、少し迷っていた。


 ただ、一つ言っておきたいことがある。


「あたし、別にあんたの友達じゃないけど?」


「えっ」


「えっ」


 お前マジか、みたいな顔で山本がこっちを見ていた。

 寧々は驚いたように目を丸くしていた。


 ただ、はっきり言ってやりたい。


 そもそもあたしが寧々をもてなす気になったのは、彼女が山本の友達になったからだ。

 さっきも言ったけど、あたしは山本に匿われてここにいる都合上、山本の友達は手厚くもてなさないといけない。


 つまり!

 逆を言えば、寧々が山本の友達じゃなかったらこんなことは絶対にしない!!!


 ……むしろ。


「ちっ」


「舌打ちっ!?」


 思わず舌打ちをしてしまった。

 あたしは咳払いをして場をごまかした。

 

 危なかった。

 あと少しで、想い人に新たに出来た異性友達に襲い掛かるところだった。


 まあ別に襲い掛かること自体に問題はないけれど(ある)……。

 ただ、山本にあたしの気持ちがばれるのだけはあってはならない(バカ)。


 まったくあの男。

 いきなり合コンに行ったり、いきなり女友達を連れてきたり、油断も隙もありゃしない。

 

 彼は気づいているのだろうか。

 山本の(女)友達に手料理を振舞おうと思ったわけ。

 勿論、さっき言ったように、数少ない山本の友達をもてなす、という意味もあるにはあるが……一番は、見せ付けるため。

 山本に色目を使う女に、あたしの家事スキルを見せ付ける……!


 そういう意図だってあるんだからっ。


 ただ、更に更に、それ以外にもあるかもしれない。


 ……もしかしたら。

 もしかしたら?


 この献身的な態度に、あの山本も少しくらい何かを悟る可能性だってあったりなかったり……?


 まあ、まあ……ね?

 わかってる。

 わかっているよ?


 あの山本だもん。

 万に一つもそんな可能性はない。


 これで悟ったら逆に引くよ。

 あんた誰って頬をつねるよ。


 体調不良でもあるって、冷えぴた頭に貼るよ。


 そう、思っているけど……。


 わかっている……けど。


 まさか……。

 まさか、ね。


「いい匂いだなぁ」


「ちっ」


 ぼんやりした顔しやがって!

 何なの!?


 何なのあいつ!???


 あんな奴のこと好きになる奴、存在するの???


 ……。


「そろそろ出来るから、運ぶの手伝ってくれる?」


「おーう」


 山本が立ち上がった。

 寧々も、遅れて立ち上がった。


「あー、竹下は座ってていいから。客なんだしさ」


「う、うん……」


 いらっ。


「一々ポイント稼ぎするのやめてくれる?」


「は?」


 文句をお見舞いしながら、料理を終えて、あたし達はリビングのテーブルを囲んだ。


「いただきます」


「頂きます」


「い、頂きます……」


 そうして、少し早めの夕飯を食べ始めた。

 会話はない。

 寧々は気まずそうに。

 山本は料理に満足げに。

 あたしは一人、寧々に対する静かな敵意を悟らせないように。


 静かな夕飯を食べ続けた。


「……なあ」


 口を開いたのは山本だった。

 少しいらっとした。


 あんた、いつも空気を察して口を開くだなんて真似しないじゃん!


 ……と。


「竹下は、休みの日は何してるんだ?」


 付き合いの薄い上司かっ!

 会話をするにも何を話すか困って、あんまり突っ込むとセクハラだとか言われそうで言葉を選んだ結果、当たり障りないことしか尋ねられない上司か!


「えっ、あっと……寝てますね」


 プライベートを晒したくない部下かっ!

 本当は色々趣味があって、実は裏では結構遊んでいるけど、他人に干渉されるのを嫌がった結果、ふと夜寝ていたことを思い出して口にした部下かっ!


「へぇ……」


「……うん」


「……ふむ」


 今更だけど、この寧々って子のコミュニケーション能力、山本とどっこいどっこいね。

 そんな二人が、少し会話をしただけで友達……か。


 今更だけど、もしかして早とちりだった?

 あの山本が、少しの会話だけで友達を作れるはずもなかった?


 ……そっか。

 そうだったか。


 あーあ、いらん気回して損した(歓喜)。


「バイクは乗んないの?」


「……!」


 えっ……。


「の、乗ります……」


 ……山本が。


「へぇ、どこにツーリング行ったりすんの?」


 あの山本が、既に女子から趣味を聞きだしてる!!!


「こ、この前は……」


「この前は?」


「四国に」


「四国っ!?」


「四国っ!?」


 思わず、山本と同じ反応をしてしまった。

 四国て。

 ここ東京だから……一体、どれくらい時間かかったのよ。


「そ、そんなに遠くないですよ?」


「そ、そうなの……?」


「はい。大体二日で帰って来れました」


 寧々は照れながら笑っていた。


「……どんな場所を回ったんだ?」


「四国をぐるっと一周しました」


「ぐるっと一周!?」


「はい。鳴門大橋まで十時間。四国を一周で十二時間。帰りも十時間くらいでした」


「もしかしてほとんど寝ずに回った……?」


「お前、もしかしてバカなのか……?」


「え? アハハ。バイク乗りならこれくらい普通ですよぅ……?」


「主語でかくするのやめろ?」


 山本は呆れたように突っ込んだ。

皆様、クリスマスはいかがお過ごしですか?

作者は例年通り、彼女とデートをしています

本当にデートしていたら次話投稿なんてしないだろ、という事実に気付いた読者は夜道に気を付けろ


評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

また、各通販サイトで本作の書籍版、好評予約受付中です!

是非買ってください!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 寝ずに、ではないけれどうちの子供も四国までバイクで行って八十八か所廻ったり、メルカリかなにかで四国のカブを買って、取りに行ってそのまま下道で帰って来たりしたから… 実際にバイク乗りには普通な…
[一言] バイク乗りなら普通ですね(謎 免許取り立ての嫁と横浜から四国一周弾丸ツーリング行って、 SSの私は無事手首死亡しましたが。
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