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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
蚊帳の外の女王様

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どっちつかず

 一日の講義が終わり、俺は帰路に着いた。

 いつもなら一人、のんびりと音楽でも聞きながら、電車に揺られるところなのだが、今日は生憎、俺はとある女子と一緒に乗車していた。


「……ね、ねえ、山本さん? あたしも本当に行かないといけないの?」


 今、怯える顔で上目遣いに俺を見るのは竹下とやら。

 俺の大学の、同じ学科の同級生。

 そんな彼女と俺が、どうして一緒に電車に乗っているのか?

 しかも、相手はさっきから怯えた様子で。


 もしかしたら、端から見たら思うかもしれない。

 犯罪の臭いがする、と。


「すまんな」


「……あたし、まだ死にたくないんだけど」


 あ、犯罪の臭いどころか一歩手前まで来ていたわ。

 涙目の彼女に居た堪れない顔を作りながら、俺は次の言葉を考えていた。こうして、泣きそうな女子相手にかける言葉を、俺は持ち合わせてはいなかった。


「すまん。俺も背に腹は代えられないんだ」


 上の人間に歯向かえず、犯罪の片棒を担ぐ。

 まるで、末端やくざにでもなった気分だった。

 

 今、俺達は俺の家へ向かっていた。

 本来、ほぼ今日が初対面の彼女を連れ込むような場所ではないのだが……俺の同居人が、今朝、どうしても彼女を今日、家に連れてこいと迫ったものだから、こうなっている。


「もし本当に嫌なら、逃げてもいいんだぞ?」


 一応、俺は尋ねた。


「いいよ。元はと言えば、あたしが山本君に無理に勉強教えてって言ったことが原因だもの」


「それは……」


 まあ、そうかもしれないが。

 言葉に詰まった。


「ま、まあ、暴力とかは振るわないと思うから、安心してくれ」


「本当?」


「ああ」


「すごい怖そうな人だったけど……?」


「外見はな。中身は……」


 最近はおとなしいが、高校時代はそれはもう酷かった。

 暴力……は、ないが、嫌った相手は徹底的に嫌うような奴で、俺も嫌われていた。


 とは、言えないなぁ……。


 これ以上、竹下とやらを不安がらせるのは、可哀想だ。


「仕方がない。ご機嫌を取る方針で行こう」


 俺は提案した。


「ご機嫌を……?」


「そうだ」


「どうやって? お菓子でも貢ぐの?」


「あいつ、今、ダイエット中だからなあ」


「そんなことも知っているんだ」


「同居人だからな。当然だろう?」


 竹下とやらは不自然に黙ったが、俺は気にせず、林のご機嫌取りの策を考えた。


「女子って、どういうこと言われたら嬉しいんだ?」


 そして、考えた結果、俺は答えを導くことが出来なかった。


「なあ、お前は、どんなこと話している時が楽しいんだ?」


「え……?」


 うーん、と竹下とやらは唸った。


「嫌いな人の陰口を言っている時……?」


「性根が腐った回答だ」


「う、うっさいよ!」


 しかし、嫌いな相手の陰口を言っている時、か。

 ……確かに、高校時代の林は、俺の悪口を言っている時はいつも楽しそうだったな。


 よし。


「竹下。もし話に困ったら、俺の悪口を言うんだ」


「え」


「きっとあいつ、大喜びするぞ」


「……同居相手の悪口を言われて?」


「ああ」


「あなた達、そんな関係なのにどうして同居なんてしているの?」


「そりゃあ、やむを得ない事情があって」


 大真面目に言ったのだが、竹下とやらは目を細めていた。

 

「まあ、わかった。考えておく」


「おう」


 そんなやり取りをしていく内に、電車は最寄り駅に到着した。

 俺達は電車を降りて、アパートへ向かった。


 道中、会話はない。

 会話をするような間柄ではないし、友達が少ない(いない)俺達が、相手の気持ちを察して会話をするなんて無理な話なのだ。

 

 ただ、竹下とやらの足取りは歩けば歩く程重くなっていった。

 どう見ても、俺の家に来ることを躊躇っている。

 それが見て取れた。


「着いたぞ」


 しかし無情にも、俺達は無事、家へとたどり着いてしまうのだった。


「……ねえ、山本君?」


「何だ」


「帰っていい?」


「ここまで来て……?」


 臆病風を吹かすにも後の祭りすぎるだろ。


「もっと早く言えよ」


「……だって」


「いいよ」


「え?」


「言える雰囲気じゃない状況を作ったこっちも悪いんだ。むしろ、すまない。……来たくないのなら無理強いはしない。こっちのことはこっちで何とかする。だから、帰って大丈夫だぞ」


 竹下とやらは、目を丸くしていた。


「山本くぅん……」


「今にも泣きそうな顔をしている」


 そんなに嫌だったのか……。

 まあそうだよな。

 林、怖いよな。


「あたしが帰って、山本君、ぼこられない?」


「されようがされまいが、お前が気にするところじゃないだろ?」


「……本当にいいの?」


「ここまで来てどっちなんだよ」


 今朝出会った時もそうだったが、どっちつかずな奴だ。


「竹下。お前、帰りたいのか? 帰りたくないのか?」


「……帰りたい」


「わかった。なら帰れ。でも、とか、だって、とかそんなことはいい。お前がしたいようにしろ。お前が決めなきゃ、意味がない」


 そう言うと、竹下とやらはしばらく俯いて黙った。


「ごめん」


 そして、謝罪をして踵を返した。


「おう。すまなかったな。気をつけて帰れよ」


「うん……!」


 一先ずこれで竹下とやらに何かが及ぶことはなくなっただろう。

 今はとりあえず、それでいい。


 そう思ったのだが……。


「扉の前で何やってんの?」


 家の扉が開かれ、出てきたのは林だった。

 

 ……バッドタイミング。


 まるで錆付いた歯車のように、ギィーギィーと音を立てるかのように、竹下とやらは林の方を向いた。


 ……折角、帰そうと思ったのに。

 どっちつかずな状態だから、タイミングを逃したんだぞ?


「け、今朝ぶりです」


「ん」


 林は、竹下とやらから目を逸らした。

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