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女王様の登場

 あまりにも竹下とやらが変なことばかり言うもんだから、思わず手厳しい言葉を発してしまった。

 女子相手にこんな言い方は控えねばならない。

 俺は落ち着こうとため息を吐いた。


「とりあえず、勉強は教えてやるから。それでいいだろ?」


「……ほ、本当にいいの?」


「何度も言わすな。大丈夫だ」


 俺は呆れながら頷いた。

 

「タイタニックに乗った気でいてくれよ。豪華客船だぜ?」


「最終的に沈むけどね」


 竹下とやらは微妙な顔つきになった。


「一気に不安になるようなこと、言わないでよ……」


「すまんすまん。冗談でも言って場を和まそうと思ったんだ」


 それと、この生産性のない会話をさっさと終わらせたい気持ちもあった。


「本当にありがとう。山本君に教えてもらえたら百人力だよ」


「そうだぞ? こう見えて俺は、他人に勉強を教えるのは得意だ」


 高校時代、笠原と一緒に勉強をした時も、『うわー、ウチの彼氏教えるの上手! 謙遜しないことだけ玉に瑕だけど!』、と言われたり。

 最近だって、林の簿記試験の勉強の面倒を見ている時も、『あんた、人に勉強教えるのは上手なのに、なんで人の気持ちは理解できないの?』、と言われたり!


 とにかく!

 勉強に対する周囲からの俺への評価は非常に高い!

 それ以外は壊滅的だがな。


「……そういえば、さっきの子」


 ふと、思い出したように、竹下とやらが呟いた。


「あの子……笠原さん、だよね」


「ああ、そうだ。よく知ってるな」


「知ってるよ……。ウチの大学のミスコンに出たら優勝間違いなし! 同学年にめっちゃ可愛い子がいるって、サークルの男の人とかよく言ってたもん」


「……へぇ」


 なんだか、あまり面白くない話だなあと思った。


「ねえ、山本君?」


「なんだ」


「あの子とあなたは、どんな関係なの?」


 俺は言葉に詰まった。

 その俺の様子を見て、竹下とやらは敏感に何かを察知した。


「まさか、恋人?」


「違う」


 即答だった。

 少なくとも、今は……、だが。

 ああ、くそ。

 昔を引きずっているような思考をしてしまっているではないか。


「えー……」


 さっきより幾分か明るい顔をしている竹下とやらが、俺の顔を覗いてきた。


「何だよ」


「じゃあ、どうしてさっき一緒にいたの?」


 ……そういえば、林も俺の色恋事情を探る時はこんな顔をしている。悪戯小僧が悪巧みを企んでいる時みたいな、あまり見たくない顔だ。


「高校が一緒でな。そのよしみだ」


「ふーん……」


 竹下とやらは不服そうだが、まあ、ない話ではないと思ったのかそれ以上の詰問をすることはなかった。

 もしかしたら、俺とあいつが恋人だった、という妄想よりは、ある話と思ったのかもしれない。


「ねえ、山本君」


「何だ?」


「山本君は今、恋人いるの?」


「いると思うか?」


 この話いるか?

 そう言おうと思ったが、また変な誤解をされそうだからそれ以上は何も言わなかった。


「いてもおかしくないとは思う」


「いない。いないよ」


「……へー、そっか」


 ……今更だけど、別に親しくもない異性と恋バナをするのって、変な感じだな。

 気まずさすら覚える。


 早く講義、始まらないだろうか?

 時計をちらりと見るが、まだ時間はかなりある。


「ねえ、山本君?」


「何だよ」


「嘘ついてるでしょ?」


「ついてない」


 俺はため息を吐いた。


「お前、楽しんでるな?」


「うんっ!」


 魅惑的な笑みで、竹下とやらは変なことを言い出した。

 即答したが、信じていない顔だ。


 勉強を教えないと言ったら僻むし。

 勉強を教えると言ったら狼狽するし。

 恋バナをすると言ったら今日一番楽しそうな顔をしているし。


 感情の起伏が激しい女だ。

 少し不憫な環境に置かれていたことも影響しているのかもしれない。

 僅かな幸福でも嬉しくなれ、他人を責めるきっかけを見つけると楽しくなれる。


 そうだとしたら、中々おめでたい奴だと思う。

 ただまあ……俺も同情するくらいに不憫な目に遭ってきたみたいだし、多少道化を演じてやるかと思った。


 ……ただ同時に、少し嫌な予感もよぎる。

 目の前にいる女子は不憫を体現するような人だ。


 そんな人に僅かな幸福が降りかかったとしたら……。

 この後、特大の不憫がやってくるのではないか。


 そんな、嫌な予感だ……。


 ギーィと少し鈍い音を鳴らして、講義室の扉が開いた。

 まだ講義までは時間があるが、他の学生がやってきたようだ。


「……あ、いた」


 聞き覚えのある声だった。

 それも、ここ最近……毎日のように聞く声だ。

 教壇最前列の席で、隣には竹下とやら。


 そこから扉の前にいる女子と目が合った時、その女子は、最初は笑顔。

 だが、すぐに冷たい顔を俺に向けた。


「山本、あんたお弁当忘れたでしょ」


 女子が言った。

 何故か声は冷たい。


 俺は返事をすることが出来なかった。

 こちらに歩み寄ってくる女子に、有無を言わさぬ迫力があったからだ。


「……で?」


 女子は笑った。


「その子、誰?」


 隣にいる竹下とやらは、何故か半泣きだった。

ヒロインを見ていると女王様って何かわからなくなるわ。


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