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不憫な人

「それにしても、可哀想に」


 腕を組みながら、俺は続けた。


「工学部の女子って人数少ないから、仲間意識も強くなってグループに混ぜてもらえそうなものなのにな」


「山本君は、ウチの学部の学籍番号がどういう風に付けられているか知ってる?」


「知らん」


 興味ないし。


「……それは、五十音順」


「へえ」


「あたし以外の女子は皆、学籍番号が近かったの……」


 わなわなと、竹下とやらは震えていた。


「オリエンテーションの頃には、もうグループが出来上がっていたの!」


「……」


「もうどうしようもないじゃん! そんなのっ!!!」


 あたしの気持ちがわかるか、と言いたげに、竹下とやらは何故か俺を睨んでいた。

 これだとまるで俺が、彼女から学部の友達を遠ざけたように見える。勿論、そんなことは一切ない。


 まあ、多少は不憫には思う。

 大学生活は四年間。中学、高校の三年間よりも長く、これから向かう先は社会人生活。

 

 人生最後の学生期間。

 人生最後の遊びたい放題の時間。


 そりゃあ、たくさんの友達を作って、たくさん遊んで。

 そんな時間を、入学当初は夢見るものだろう。


 ……ただ、それにしても。


「うわああーん。あたしが何したっていうんだよー」


 この人、中々感情の起伏が激しいな。


「あたしが悪いのかなぁ。あたしが悪いのかなぁ……?」


 うわぁ、面倒くさ……。


「何か言ってよ!」


「うわぁ、面倒くさ……」


 しまった。声に出てしまった。


「な!」


「思ったことを言っただけだ。俺からしたらうざ絡みされたようなもんなんだ。当然、そう思うだろ?」


「そ、それでも女の子相手にそんなこと言わないでよ!」


 顔を真っ赤にして、彼女は俺に怒ってきた。


「は。山本君、そんなんじゃこのまま、一生孤高の努力家(笑)だよ?」


「孤高なのはお前もだけどな」


「はうっ」


 どうやらクリティカルヒットだったらしい。

 でも、少し考えればそうカウンターを食らうことも、想像できそうなもんなのに。

 迂闊な女だ。


「とりあえず、このままお互いの傷をえぐりあってもしょうがないし、そろそろ本題に入らないか」


「……うん」


「それで……えぇと、お前の依頼は、勉強を教えてほしい、ということだったか」


「う、うん」


「だけど、俺はそれを拒否した。今もその気持ちは変わらない」


「なんでぇ……? 酷いよぉ……」


 今にも泣きそうな竹下とやらを前に、俺は少しだけ良心が痛んだ。

 でも、これは仕方がないのだ。

 何せ、あの笠原との約束なのだから。彼女との約束を破るのは……林との約束を破ることより、後が怖そうだ。


「すまんな。ただ、仕方がないんだ」


「……うぅ」


「ただ、俺も苦しむ人間を一人放置するほど、人間腐っていないのでな。一つ、代案があるんだけど」


「代案?」


「おう。……ここ、大学だろう? 少しだけ頑張れば、友達なんて簡単に出来そうなもんじゃないか」


 竹下とやらの顔には、ぼっちの君が言う? と書かれていた。喧しい顔だ。


「そこでだ。お前、サークル活動とか、部活動とかに勤しんでみてはどうだ?」


「……」


「サークル。部活をすればさ。同学年の友達はおろか、頑張れば先輩とだって交友を深められる。先輩との交友関係なんて、あるだけ良いじゃないか。同じ科なら、過去問とかももらえるかもしれない」


「……入ってたよ」


「ん?」


「バイク研究サークルに入ってたよ」


「……バイク、か」


 それはまた、女子がするには厳つい部活だ。

 ……ん?

 入ってた?


 なんで過去形?


「退部したの」


「え、なんで」


「色々あって」


「色々ってなんだよ」


「それはその……色々」


「いや、色々じゃわからんが」


「……姫状態になったの」


「ん?」


「オタサーの姫状態になったの!!!」


 竹下とやらは叫んだ。

 聞いたことがある単語だ。

 オタサーの姫。

 確か、男子比率の高いサークル・部活に女子が混じった際に発生する現象だ。同サークルの異性を前に、男子はわかりやすくその女子を祭り上げる。それこそ、アイドルみたいな扱いを受ける女子もいるらしい。


「それの何が悪いんだ。異性ばかりな環境の中、向こうがお前を丁重に扱ってくれるんだろ? 悪いことなんてないじゃないか」


「悪いことばかりだったの!」


「……何故?」


「……皆、あたしを姫扱いしてさ。その中でも二人、特にあたしを持ち上げる人がいてさ。気付いたら三角関係みたいになってた」


「……それは」


「山本君にわかる!? 趣味のバイクを研究したくてサークルに入ったら、三角関係の渦中に放り出されてさ! 好きでもない二人から猛アピールされるあの辛さが!」


「うわぁ……」


 ……わからん。

 だが、自分が逆の立場だったらと考えた時、思わず悲痛な声が口から漏れた。


 ……それは、まあ、なんだ。


「すまなかった」


 俺は素直に謝罪した。


「いいんだ。いいんだ。あたしなんてその程度の存在だもの。むしろ今の扱いの方が楽まであるよ。あー、風になりたい」


 竹下とやらはいじけた。


 なんだが……。


 大事なハンカチを風に飛ばされたり。

 オタサーの姫状態になり面倒な事態に巻き込まれたり。


 俺に、まるで相手にされなかったり……。


 今、俺は彼女がとても不憫な人に見えて仕方がなかった。

 もしかしたら、林を部屋に匿った時以上の同情を覚えたかもしれない。

どんな話を書いてきたっけと、先日、本作を読み返してみたが・・・。


あとがき、ふざけすぎちゃう?

この作者、頭悪そうと思いました。

俺に学がないことがまたバレちまったらしい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] この人って、かなり不憫な人だけど笠原が怒るとマジで怖そうだからなぁ(-∀-`; )
[一言] 後書きがあってこその本作品でしょう。 書籍には話毎の後書きないんですよね。はたして、巻末の後書きはどんなことになっているのやらw 着々とフラグ再構築が進んでいるよう。
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