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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
蚊帳の外の女王様

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フラグリメイク

 少しずつ人が集まりだしたキャンパス内を歩き、俺達は講義棟へ入った。


「それじゃあ」


「ん」


 短い会話をして、俺と笠原は別れた。

 これから始まる講義は、学科の違う俺達では異なっており、講義棟は一緒だが講義室は別々だった。二階の講義室へ向かう彼女に背を向けて、俺はまだ階段を昇っていた。

 これから俺が受ける流体力学をやる講義室は、この講義棟の五階にあった。

 一応、講義棟の中にはエレベーターも設置されているが、講義の時間が近づくにつれいつも混み合うそれを使ったことはあまりない。


 運動がてら階段で行こう。

 いつもそう思って、少しだけ息を切らして階段を昇っていくのだ。


 講義室には、まだ誰もいない。

 まあ大学生ともなれば代弁も当たり前だし、講義室にやってくるのは大抵の奴が講義ギリギリだ。


 勿論俺は、教壇の目の前の席に陣取る。

 早めに登校することの特権だよな、これ。


 などと、むふふとドヤ顔で考えていた時のことだった。


「一番前の席って、目立って嫌じゃないですか?」


「ぎゃあっ!」


 いきなり声をかけられて、俺は大声をあげてしまった。

 のけぞりながら隣を見ると……。


「お、お前は……っ」


 そこにいたのは、さっき出会った竹下とやらだった。


 どうしてここに……?

 わかりやすく、俺は警戒した。

 さっきあれ程、お礼は要らないと言ったはずだ。なのに講義室まで追ってくるだなんて……。


 これは……さすがに疑わないといけないだろう。


「……あの」


「マルチ商法に興味はないぞ、俺は」


 は?

 と、言う顔を彼女はしていた。


 ……あれ、違ったか。

 可愛らしい女性が、一人の男を誘い出す。そんな行為をする理由といったら、マルチ商法の勧誘くらいしかないと思ったんだが。


「……じゃあ、新興宗教か?」


「さっきから何を言っているの?」


 竹下とやらは困った顔で首を傾げていた。

 

「……あたしはただ、同じ学科で同じ講義を受けるから、声をかけただけだよ」


 同じ学科?

 同じ講義……?


「……ん?」


 んんん……?

 はて……。


 言われてみると確かに、どこかで彼女に見覚えがある気がする。


 一体、どこで……?


 あ、同じ学科で、同じ講義で。


 いやでも、昨日彼女は、俺が向かう講義とは別の講義棟に向かっていたはず……。

 ああ、選択科目の時間だったか。


「君、同い年だったのか」


「……そうだね」


「こんな早くに講義室に来るだなんて、予習か? 感心だな」


「……うん」


「じゃあ、お互い頑張ろうぜ」


「あの……っ」


 二人きりの講義室。

 彼女の声はよく響いた。


 ……個人的には、彼女との会話はこれで終わりなのだが、一体、彼女が今、俺を呼び止めた理由は何故なのか。


 ……まあ、なんとなくわかる。

 さっき、しつこく俺に不要なお礼を迫ってきたことを思い出していた。


 あれは……まあ、あれだ。

 お礼をしたい。という口実の元、俺に恩を売って、何かしらのお願いをするやり口だ。


 じゃあ、彼女が俺にしたいお願いは何なのか。


 ……思い当たらない。

 俺って、友達は少ないし、トラブルメイカーだし、笠原曰くフラグクラッシャーらしいし。

 そんな俺にお願いをして……彼女が得するようなことがあるのだろうか?


 いや、ない。


 ……やっぱりマルチか?

 それか、新興宗教。

 闇バイトの誘いとか?


 どの道碌な話じゃねーな。


「……お願い」


 唐突に、竹下とやらは俺に頭を下げた。

 ……この切羽詰まった感じは。


 やはり、ノルマ未達成なんだろう。

 だから、決死の覚悟で、俺みたいな男でも見境なく……。


 なんて不憫なんだ。


「勉強を教えてください」


 一人、彼女に感情移入している最中、彼女が俺に申し出たお願いは……。


「勉強……?」


「……うぅ。はい」


「情報商材を買えってこと?」


「さ、さっきからなんでグレーの商売に話を繋げるんですか! 違います! 大学の勉強を教えてほしいんです!」


 大学の勉強を……?


 俺に……?


 ……。


「なんで俺?」


「だって山本君。ウチの学科で成績一番じゃないですか!」


 なんでそんなことを知っているのか。

 問いただしたくなったが、


「ウチの学科の周知の事実です」


 先に答えてくれた。


「ウチの学科の周知の事実なの?」


「はい」


「……え」


「いつも講義室に来るのは一番で、教授達への質問も熱心。教授達も学生のやる気を引き出すために、よくあなたを引き合いに出しますし、それにあなたはいつもクールに応対する」


「いや気まずいから黙っているだけだが……?」


「付いたあだ名が孤高の努力家」


「美化されて独り歩きするには痛いあだ名だ」


 そもそもそんなあだ名……いつか合コンに無理やり誘ってきた茶髪男は言っていなかったぞ?

 まあ、普通はそんなこと本人には言わないか。

 もし本人に言うなら、茶化す時か嘲笑する時くらいしかないはずだ。


「……そんなあなたのこと、同じ学科の女子は虎視眈々と狙っているとの噂もチラホラ」


「それは見る目がないな」


 なにせ俺は、友達は少ないし、トラブルメイカーだし、笠原曰くフラグクラッシャーらしいし、孤高の努力家(笑)だぞ?

 それにしても、高校時代、あれ程人間関係でのトラブルが多かったのに、大学では黙っているだけで評価が上がるとは……。人生、何があるかわからんもんだ。


「あ、あたしは山本君には興味がないです。あたし、もっと中性的な顔つきの人が好みなんです」


「一人突っ走るの止めてもらっていいか?」


「それで、勉強を教えてほしいんです!」


 ブレーキを踏む気がない少女を前に、俺はわかりやすいため息を吐いた。

 ……少しだけ考えることにした。

 彼女のお願いを、どうやって反故にすればいいか。


 俺は端から、彼女のお願いを聞く気はなかった。


 面倒だと思っているから。

 それもある。


 でも、一番は……。


「断る。今、俺、忙しいんだ」


「……」


「大学に入って上京して一人暮らしを始めたばかりでな。とにかく家事に何にと忙しいんだ。他人の勉強にまで構っている余裕はない」


「じゃあ、山本君の家事をあたしがすればいいんですか?」


 いや良くねえよ。

 ウチにはもうおかんみたいな奴がいるんだよ。


「そもそも、俺以外に頼れる奴、もっといるだろ」


「……」


「そうだよ。俺に渾身のあだ名を付けていた女子に教えてもらえばいいじゃないか。俺なんかより人付き合いも得意で、よっぽど適任だ」


「……ですよ」


「あ?」


「いないんですよ!」


 思わず、俺は呆気に取られた。

 


「友達、いないんですよ!!!」



 竹下とやらの決死の叫びに……。


「ああ……」


 俺は納得した。


 ……そうか。

 お前も……。


 お前も、孤高の努力家(笑)だったのか。


「その同情するような目、止めてください!」


 竹下は目尻に涙を溜めていて、しばらく俺は本気で焦っていた。

茶髪男は蔑ろにしていたが、笠原の女友達は目をかけていたり……。

高校時代とは打って変わってモテる土壌はあると思う。

でも、あだ名は主人公をおだてるための嘘だと思う。

作者の気持ち次第で、突然本当になったりするから気をつけろ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「情報商材を買えってこと?」←この流れずるいよ!こちとら40代のおっさんだけど本当に20歳過ぎてからマルチやら新興宗教の勧誘が多くて警戒していた事を思い出しました(笑)テンポも良いし本当に…
[良い点] 一昨日一話から追い出して、もう追いついてしまった…。 山本に好感しか持てない。 めちゃくちゃおもろいのに出会うのがおそかった。
[良い点] ボッチVSボッチ! ある意味では不毛な闘い(笑)
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