来訪者
翌朝、それなりに早い時間にチャイムが鳴った。
さっきまでひと悶着あった林が玄関の方へ行き、扉を開ける音が聞こえた。
「メグー」
来訪者は笠原。
昨日、ひょんなことから俺が毎日林にご飯を作ってもらっていることがバレてしまい、どうやら笠原は直接林に朝ごはんを振る舞ってもらう約束を取り付けたらしい。
「玄関先でやると迷惑でしょ」
林の冷めた声が聞こえた。
本当だよ、と思った。
扉が閉まる音がした。
「メグ、ご飯作ってるなら言ってよー」
「ここであたしを断罪する? というか、前に話さなかったっけ?」
「ご飯作れることは聞いてたけど、毎日作ってるだなんて聞いてない!」
「なんで怒ってるのさ」
しかし、なんだ。女子同士のイチャイチャトークを盗み聞きしているようで、なんか嫌だな。
「ともかく、さっさと朝ごはん食べなよ。大学遅刻するよ」
「アハハ。メグ、お母さんみたいなこと言うねえ」
「うっさい」
パタパタと二人がこちらに向かってくるのがわかった。
「おはよう、山本君」
「ん」
「ちゃんと朝起きてて偉いね」
「バカ言え。俺を誰だと思ってるんだ」
「確かに。山本君だもんね」
「その通りだ」
「いつも無意味に早起きしてるくらいで偉ぶらないでよ」
キッチンから林に言われた。
俺は返事をしないことにした。
俺達の顔を交互に見るのは、板挟みにされつつある笠原だった。
「もしかして、喧嘩中?」
「俺は別に喧嘩している認識はないぞ」
「あたしだってそうだよ」
「いやだったらそんな刺々しいこと言う必要ないでしょ」
「は? あんただってしょっちゅう偉そうなことばっかり言うじゃん!」
「いやどう見ても喧嘩中じゃん」
笠原は何故か少し楽しそうだった。
「何が発端?」
「別に口論なんてしてないが?」
「山本君」
「……まあ、もしこれが口論に見えるなら、発端は昨日の件だな」
「あんた、灯里に懐柔されすぎでしょ」
林から呆れた声が聞こえてきた。
「……あー」
そして、納得気味なのは笠原だ。
昨日の件。
笠原にも相談していたことだが、昨日俺は、林と一つの約束を交わしていた。内容は、俺の大学の学生誰かと話せ、というものだ。
「実はお前と話した後、俺はあの約束を果たすことが出来たんだ」
「えっ、そうなの? どんな話をしたの?」
「ふふふ。実はな……風で舞って足元に落ちてきたハンカチを拾って、呼び止めて渡したんだ。お礼も言われたぞ」
笠原はポカンとしていた。
「どう思う? 灯里」
「え? あー、まあ、嘘っぽいなあって」
笠原は少し合点がいったようだ。
「つまり二人は、その約束が嘘か本当かで揉めたってこと?」
「いいや?」
「違うよ」
「えっ、違うの?」
「だって山本って、嘘なんてつかないじゃない」
「し、信頼が厚い……!」
「あたしが腹たってるのは、こいつ折角約束を果たしたっていうのにご褒美は要らないって言い出したことなの」
「お前のお財布事情を考えたら仕方ないだろ」
「それでいて、罰ゲームになってた掃除用具は少し整理しようとか言い出すの!」
「掃除用具がごった返してきてるんだから仕方ないだろ!」
「仕方無くない!」
「二人って、二人きりだといつもこんな面倒なこと言い合ってるの?」
「おいおい、面倒なことだと!? これは大事なことだろ」
「本当だよ。灯里の発言でもそれだけは頷けないよ」
「うわめんどくさ」
笠原は辟易していた。
一旦やり取りを止めて、俺達は林が振る舞ってくれた朝食を食べ始めた。
しばらくして、再開された。
「なんとなく話はわかったよ。でも二人ってすごい頑固だから、このままだと一生話決まらないよ?」
契機は、突然の笠原の正論だった。
「ふむ」
「確かに」
頭に血が昇っていて口論中には気づかなかったが、確かにその通りだ。
当事者二人の話が平行線。
だったら、頼るべきは第三者の意見か。
「笠原はどう思う?」
「そうだよ。灯里、教えてよ」
「え……?」
うーんと笠原は唸った。
「……」
「笠原……?」
「灯里……?」
「どうでもいいかな」
笠原は苦笑した。
作者と作中キャラの見解が一致した稀有な例
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