長い自問
最後の策を林に封じられ、俺は食堂で腕を組みながら唸っていた。
笠原は駄目か。
あいつの示したご褒美の条件は、俺の大学の学生の誰かと話すこと。それであれば、笠原も当然その条件に合致する一人なのだから、頑張ればごねれそうなもんだったが、それでごねるのは子供の屁理屈みたいでさすがの俺でも躊躇してしまった。
その結果、唯一にして最大の好機を逃したわけだが……さて、どうしたものか。
まあ、答えは出ているな。
今日帰ったら何を売るのか。林と一緒に考えるとするか。
仕方ないではないか。
俺は自分の生き方がまずい生き方だと思ったことはないが、自分がトラブルメイカーではないと思ったこともない。
不思議と、他人と話していると口論になることが多いんだよな。敵視を孕んだ目線を向けられることも多いし、そういえばそれが原因で林に、俺の人生が良い人生だと思ったことはないとまで言われたことがあった気もする。
ただ、自分の人生の良し悪しを決めるのは他人ではない。
だから、他人にどう思われようが、自分の人生が良いと思えればそれで良い。俺はそう思っている。
……話が逸れた。
ともかく今は、林との約束事に対する方針を決めよう。
といっても、俺の中での答えはさっき思った通り。
正直、対価と労力が見合ってない。
さすがの俺もそろそろ掃除用具を整理しなければならない状況。そんな状況で、林がぶら下げてくれたものは言ってしまえば整理のための大義名分。
だったら、それに乗っかるのも一つの手だ。
……と、まあ、そこまでが俺の導いた方針だけれど。
多分、林はそんなことを望んではいないんだろうなあ……。
そもそも、俺に嫌われるかもしれないリスクを背負ってまで……部屋から追い出されるかもしれないリスクを背負ってまで、林が俺に発破をかけた理由は何故か。
さすがに、トラブルメイカーと思しき俺でも、それはわかる。
「やるしかないかぁ」
結局、俺は仕方なく重い腰を上げることにした。
が、困った。
この大学の学生に話しかけると決意したまでは良いが、一体誰に話せば良いのだろうか。
さすがに、キャンパス内にいる適当な人にいきなり話しかけるのは、不審者と間違えられても文句は言えないし……。
となると、やはり頼るは知り合い、か。
そんなことを考えている時だった。
丁度食堂に、顔見知りの少女が一人入ってきたのだ。
笠原灯里。
今俺の部屋に住む林の高校時代の親友であり、高校時代は俺の恋人だったそんな人。
俺は、静かに彼女に歩み寄る。
ふと、気づいた。
そういえば、石田の結婚式で会って以来、笠原と話した機会はなかったな。
いや思えば、あの時、俺達の側には林がいた。
二人きりで笠原と話すのは……あの合コン以来、か。
「どうしたの、山本君?」
彼女に話しかけるより先に、俺は微笑む笠原に声をかけられた。
こんなこと言って良いのか。
一日一回投稿キツくない?




