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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
蚊帳の外の女王様

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穏やかな時間

 ぼんやりとテレビを見て、就寝一時間前くらいのことだった。


「ふう」


 ため息を吐いたのは林。

 女の子座りのまま机に向かって勉強を続けていたが、どうやら今日はここで一区切りらしい。


「おつかれ。なんか飲むか?」


「んー。いい」


「そっか」


 机を片す林を見て、俺は立ち上がった。部屋の隅に寄せていた俺の布団を広げるためだ。


「悪いね。こんな時間まで部屋占領して」


 林は申し訳なさそうに謝罪をした。

 

「別に。お前が勉強に励む傍ら、俺は掃除が出来て満足だったぜ」


「ありがと」


 微笑む林。

 俺は布団を広げ終わって、毛布を敷いた。

 彼女と出会ったのは夏休みの頃。あれから三ヶ月。すっかり季節も変わりつつある。


 彼女をこの部屋に匿って、最初の方は彼女がここにいる環境に違和感を感じることもあったし、緊張するようなこともあった気がする。

 だけどすっかり、今では緊張、どころかこの生活を日常として捉え始めている自分がいる。


 慣れってのは、怖いもんだ、と思うばかりだ。


「ねえ、山本?」


「ん?」


「あんた、バイトがある日以外は、帰ってきたら掃除掃除って……他にやることはないの?」


「突然鋭い刃物向けるのやめてもらっていいか?」


 高校時代は嫌われていたこいつとの関係も、この家に匿って以降は良好。それ故、こいつのこともそれなりに知れたが……こいつは時折、こういうお節介な発言を俺にする。


 本当、お節介だ。 

 何がタチ悪いって、俺がバイトがない日の帰宅時間が早い理由なんてこいつはわかっている癖に、こんなことを言ってくるのが最高にタチが悪い。


「仕方ないだろ。俺、友達いないんだから」


「じゃあ作ればいいじゃん」


「作ればって、そんな簡単に作れるもんじゃなくね」


「簡単でしょ」


「この問答、一生噛み合うことないだろ」


 呆れたように、俺はため息を吐いた。

 林の奴、自分基準で物事を語り過ぎだ。こういうタイプが将来管理職になると、現場のことがわかってないって愚痴を言われるんだ。


「……この前の人とはどうなのよ」


「この前?」


「……一緒に合コンに行った男ども」


 嫌悪感を隠そうともしない声で、林は尋ねてきた。

 

「あれ以来は全然だな」


 仕方がない。

 だって、あいつらと合コンに行った日の帰宅後に、俺の掃除用具がキレイに梱包されている現場を目の当たりにしたのだから。

 男と話せとこいつに言われて話して、それを報告した結果あの仕打ち。どこにこいつを怒らせる導線があったのかわからないのだから、距離を置くのは当然だろう。


 まあ、そうじゃなくても向こう側も俺との関係はあの日限りだったみたいだしな。


「……だめだよ」


 林が呟いた。


「あいつらと絡まないことがか?」


「違う」


 林は唇を尖らせていた。


「……友達作らないこと」


 そうは言われてもなあ。

 俺は黙った。


「そうだ」


「まさか、また俺の掃除用具を売るとか言い出さないよな?」


「ち、違うよっ! というか、実際に売ってはいないし!」


 売ってはいずとも……。

 まあ、これ以上は止めておこう。


 オホン、と林はわざとらしい咳払いをした。


「山本、明日学生とまた話してきてよ」


「……えー」


「嫌な顔しないの。もし話せたら、そう……ご褒美上げるよ」


「ご褒美?」


 ……これは、つまりそういうことか?


「そう。あたしもあんたみたいに、あんたの目標達成のために、一肌脱ぐよ」


 ふふんと胸を張る林。


「友達を作ることは、別に俺の目標ではないが?」


 そんな林の胸から目を逸らしながら、俺は言った。


「うっさい!」


「うわぁ、結局ゴリ押し……」


「いいからやるの! やるったらやるの!」


 こいつは本当に……一度言い出したら聞かないんだから。

 ……まあ、そのなんだ。

 こいつの思惑に乗っかるのが少し癪ってだけで、ご褒美、とやらに魅力を感じていないわけではないんだがな。


「わかった。じゃあそれで頼むよ」


 パーッと林の顔が晴れた。


「じゃあ、そのご褒美は……」


「それなんだが、実は俺ほしい掃除用具あるんだよな」


 俺はスマホを操作し、通販アプリを開き、ほしいものリストに入れていた掃除用具のページを林に見せた。

 林は、仏頂面で俺を見ていた。


「……それ、買えばいいの?」


「……おう」


「わかった。じゃあ学生の誰かと話せたらそれ買うよ。上限まで」


「いや、そんなには要らないが?」

 

 なんだその些細な嫌がらせ。

 いや、よくよく考えればこれは中々高度な嫌がらせだ。

 もし上限まで掃除用具を購入されれば最後、俺の部屋が掃除用具に圧迫されるか、もしくはそれを捨てるかの悪魔の二択を迫られるわけだ。

 もし俺が、命の次の次、そのまた次くらいに大事な掃除用具を売るだなんて鬼畜な所業を迫られたら、罪悪感に押しつぶされるかもしれない。かといって、捨てない、という選択肢も物理的に取れない。

 そして何より、こいつの身銭が減る。


 くそう。

 林の奴、一体どうしてそんな鬼のような非道な真似を……!?


「……寝る」


「いや、待て林。待つんだ。今は寝ている場合じゃない。今のお前の話を頭の中で反芻してみろ。とても寝ている場合じゃないだろ」


「全然」


「林っ! 気は確かか!」


「……すぴー」


「……寝付き良いんだよな、こいつ」


 俺は部屋の電気を消した。

これが穏やかな時間には俺には到底思えない

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― 新着の感想 ―
[一言] あとがきが書き変わっているなあ。 投稿お疲れ様です。 掃除用具だからおかしく聞こえるだけで、それが鉄道模型とかなら、よくある話なんだよなあ。
[良い点] めっちゃ穏やかですよ? 会話の内容は完全に熟年夫婦のそれでしたけど。 こういうまったりとした恋愛、大好きです。
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