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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
心配する女王様

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林恵のくしゃみ

 穏やかな光景が目の前に広がっていた。高校の夕暮れの教室。喧騒とする校内に、あたしは一人補習のために残っていた。

 高校時代のあたしは、皆から女王様だなんて言われていたけれど、他人に傍若無人な態度はあっても、勉学はそれなりに頑張ってきていた。だから、今回のこの補習も、あたしの勉強不足が原因というわけではなく、体調不良によって学校を休んだことが原因のものだった。


 結果、あたしは、不貞腐れて補習を受けていた。

 具合が悪かったのなら仕方がないだろ。多少は融通を利かせろよ。先生サイドからしたら、謂れのない文句を考えていたものだ。


 補習を終えると、もう灯里やいっちゃん達は帰宅しただろう時間で、あたしは渋々一人で帰宅することにした。

 そんな時、校門前であたしは出会った。


「おう、林じゃないか」


 山本はあたしに声をかけてきた。

 そんなあいつに、あたしは返事も寄越さず真横を通り過ぎていこうとしていた。あの時のあたし達の関係は、最早語る必要もない。

 無視を決め込むあたしに固執する様子は、山本にはなかった。


「気をつけて帰れよ」


「先生か。キモ……」


 今じゃ考えられないが、あの時のあたしは山本と会話をするだけで不快な気分になってしまい、何度あいつにキモ、と言ったのかはもうわからない。

 その日も、別にこのままその捨て台詞だけを残して帰宅すれば良いだけの話。


 しかし、あたしは少しだけ、山本があの時、どうして学校に残っているのか興味が湧いた。あいつの帰宅時間は、クラスでもいつも早い方だった。


「あんた、帰らないの?」


「ん? ああ、そうだな」


「なんで帰らないのよ」


「別にいいだろ。俺の勝手だ」


 確かにその通りだ。

 しかし、あたしの言葉に従わない山本が、当時のあたしは酷く気に入らなかった。


「よくない。あんたのことだから、またよからぬことを考えてんでしょ」


 山本からしたら、謂れのない文句だったと思う。


「よからぬことかそうじゃないか。それをお前に語る必要があるのか?」


 今なら、部外者は首を挟むなと思想を持つ山本らしい発言だと思えるが、当時のあたしはその言葉が癪だった。


「やっぱり、変なことする気なんじゃない」


 山本は黙った。多分、黙った、というより話す必要がないと思った方が強いんだろう。

 こんなことなら、あたしに声をかけなければよかったとでも思っていたかもしれない。


「先生呼ぶよ」


 山本が渋い顔をしたのがわかった。

 どうやら、効果は覿面だったらしい。


「……ラブレターが入ってたんだ」


 山本は観念したように言った。


「は?」


「だから、ラブレター。恋文ってやつだ」


「何それ」


「放課後、部活終わるこの時間まで待っててくれだってさ」


「……きっとそれ、嘘告白だよ」


 あの山本に、告白する相手がいるだなんて。

 当時のあたしは、そもそも山本に好意を寄せる人さえいないと思っていた。だから、そうだと疑わなかった。


 まあ翌日、山本への嘘告白での話題は学年中で広まったのだから、あたしの考えは間違いではなかった。


 ただ後々思うと、このあたしの発言は酷く失礼なものだったと思う。

 相手に対して誠意を見せようとする山本の気持ちを傷つける、最低な発言だったと思う。


「嘘なら嘘でいいんだ」


「強がってさ」


「……人を傷つけるくらいなら、貶められた方が気が楽だ」


 当時のあたしは、それが山本の強がりだとしか思わなかった。

 気丈に振る舞う山本が不快で、鼻を鳴らしてその場を後にしたんだ。


 ただ、後になって思う。

 山本の嘘告白騒動があったのは、高校三年の夏頃。丁度、山本が灯里と交際をしていた頃だ。


 だとしたら山本のあの発言は、強がりなどではなくやはり……。


 どうして今更こんな夢を見たんだろう。

 わかっている。これは夢だ。時々あるんだよね、今自分が見ている景色が、夢だってわかる時。


 これは夢。

 どうして今、こんな夢を見るのか。


 それはきっと、あの時と違ってあたしは、あたしの中では……日々、山本への思いが肥大しているから。

 山本との時間を尊く思うようになっているから。


 ……そして。


 目を覚ますと、山本はまだ眠っていた。

 いつもならとっくに起きて掃除をしながら奇声を発している時間。


 久しぶりの実家で、山本の気も緩んだのだろうか。

 それとも、いつもの時間に起きれないくらい疲労が溜まっていたのか。


「なんで起きてないのよ、バカ」


 昨晩は結局、山本と一緒のベッドで眠りについた。

 あいつが先に。

 あたしを置いて。


 ……寝てしまったから。


 腹いせのつもりだった。

 いつも、先に起きるのはあいつだから。


 朝起きた時、あいつが狼狽えればいいと思ったんだ。

 なのに、どうしてこんな日に限って……。


 どうして、さっきあんな夢を見たのか。


 山本への思いが肥大していくから。

 山本との時間が尊いものだと思うようになったから。


 そして、昔も今も……。


 ずっと、あたしの思い通りになってくれない山本が、腹立たしいから。


「くしゅんっ」


 恐らく数ヶ月単位で使われていなかったベッドで寝たためか、鼻がむず痒い。

最近、ミスチルの乾いたキスと口がすべってをよく聞きます。去年くらいから良さがわかった。大人になったんだなってしみじみ思った。


あとがきって作者の好きなアーティスト、曲を教える場所だっけ?


評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] さあさあ、続きが気になり始めた今日この頃。 朝も起きれません。
[一言] 歌の良さがわかって大人になった気分になれる気持ち すごくよくわかるよ 多分、やっと大人への入口なんだろうけどね
[一言] 信じられぬと嘆くよりも人を信じて傷つく方がいいって金八先生も言ってるよ
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