林恵と眠たげな男
山本のお母さんとしばらく話し込み、彼女はそろそろ夕飯時だからと志穂ちゃんを呼んで夕食作りを始めた。
「あ、その、あたしも手伝います」
「そう? ありがとう」
自室にこもる山本を放って、あたし達は三人で楽しく料理をした。
初めての山本の実家。最初は緊張だったり色々あったけど、こうして山本のお母さんと志穂ちゃんと、笑い合って料理を出来る時間がやってきて良かった。
心の底から、あたしはそう思った。
しばらくして、山本のお父さんも帰宅して、あたしは自己紹介の後に山本一家と夕飯を食べた。
「まさか、君が久しぶりに帰ってきたと思ったら、ガールフレンドを連れて来るだなんて」
シミジミと、山本のお父さんが言った。
「そうだろう? まあ、ガールフレンドってわけじゃないんだけどな」
「そうなのかい? お似合いだと思うんだけどなあ」
山本は微妙な面持ちをしていた。
あたしもそうだった。
意外と今のあたし達の関係は、デリケートだから……外部から茶化されると少し、居た堪れなくなってしまうのだ。
志穂ちゃんと山本のお母さんは、山本のお父さんを小突いていた。
痛い、と少し顔を歪める山本のお父さんは、少し不憫だった。
夕食を食べた後、あたし達はしばらくリビングで山本一家からの詰問を浴び続けた。
山本はわかりやすく辟易した顔で質問に答えていた。
深夜。
「俺、そろそろ寝る」
山本はあくびをしながら、眠そうに目をこすっていた。
「目、こすらないの。視力落ちるよ」
「……うぅむ」
久しぶりの実家だからか、山本はいつにもまして緊張感がなかった。だからだろう。ここまで気の抜けた山本の顔は、初めて見る。あたしへの返事も適当だ。
「メグちゃんも遠出してきて疲れたでしょ?」
志穂ちゃんが言った。
「え? ああ、そうかも」
そう言われて見ると……確かに、眠い気がしてきた。
「そうしなよ。お兄ちゃんの部屋でいいよね」
「いや良くないでしょ」
眠気が吹き飛んだ。
志穂ちゃんは一体、何を言っているんだ?
「えー、だって今空いている部屋、お兄ちゃんの部屋しかないよ?」
「志穂ちゃんの部屋は?」
「あたしがいるじゃん」
「ちょっと待って。その考えだと、山本はどこで寝るの?」
「そりゃあ、お兄ちゃんの部屋だよ」
「じゃあ、部屋空いてなくない?」
「お兄ちゃんの部屋は広いから」
そう……だっただろうか?
二人共の部屋に一度行かせてもらったけど、部屋の大きさは志穂ちゃんの部屋も山本の部屋も変わっていなかったと思うんだけど。
「ごめんね。恵ちゃん。一晩だけだから」
……何かを察した山本のお母さんは、顔の前で手を合わせて懇願してきた。
不思議だった。
一体、今あたしはどうして懇願されていて。
一体、今あたしはなんて返すのが正解なんだろうか。
……まあ、山本と六畳一間のスペースで一緒に寝ることは、もう二ヶ月くらいやっているいつも通りの行いなんだけど、ね。
「わかりました」
そんなに望むなら、応えるしかない。
あたしは渋々、返事をした。
途端、パーッと良い笑顔となったのは、山本のお母さんと志穂ちゃんだった。
……なんだか今のこの二人の顔、頑固な水垢が綺麗に取れた時の山本の顔にそっくりだ。
この辺、家族ってことなんだろうか?
「山本、寝るよ」
「え? ……おう」
眠そうな山本の手を引いて、あたしは山本の自室へと歩く出す。
背後から好奇の視線に晒されている気がするのは、多分気の所為ではない。
投稿、三日振りとなります。
一見すると三日サボったように見えるかもしれない。
でもそうじゃない。
気付いたら三日経っていたんだ。
気付いたら三日経っていたのなら、それはサボりではない。
評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!




