林恵の出会い
志穂ちゃんの隣にいる女性は、少し固い顔をしているあたしに対して優しく微笑み返した。
「はじめまして。あなたが噂の恵ちゃん?」
山本のお母さんはあたしに声をかけた。
どうやら、事前に志穂ちゃんが話しておいてくれたのか、彼女はあたしの存在を認知しているようだ。
「はい。よろしくお願いします」
あたしは丁寧に頭を下げた。
……さて。
山本はいつか言っていた。彼女のお母さんは、放任主義な人だって。果たして、あたしに対して彼女は、どんな感じで接してくれるのだろうか?
「あ、あんた帰って来てたんだ」
「おう。ただいま」
山本が、あたしの背後から顔を見せた。
そうして、言葉少なく山本達は再会を祝していた。
しばらくの無言。
「ごめん。二人共、一旦外してくれる?」
そして、山本と志穂ちゃんに向かってそんな提案をしたのは、山本のお母さんだった。
「え、なんで?」
「志穂。行くぞ」
「え、なんで?」
「いいから。こうなったこの人の話は聞いておいた方が良い」
山本は少し呆れ気味に、志穂ちゃんに向けてそんなことを言っていた。
……そんな話を聞いて、二人にここから立ち去られるの、すごい怖いんだけど。
飄々とした山本。
心配げな志穂ちゃん。
二人は、別々の顔でリビングを後にした。
「どうぞ。座って」
「あ、はい」
山本のお母さんに促されて、あたしは食卓の椅子に腰を落とした。
対面に、山本のお母さんが腰掛ける。
……一体、山本のお母さんは何のために、あたしだけをここに残したのか。
もしかしたら、誤解をしているのかもしれない。
あたしが、山本のひもみたいな……とにかく山本から搾取する悪女だと思っているのかもしれない。
あいつの契約する部屋に勝手に住まわせてもらっているあたしは、十分悪女だった……。
どうしよう。
ここは一発、景気づけに謝罪をしておくべきだろうか。
そして、あたし達の関係が如何に清く正しいかを、懇切丁寧に伝えるべきかもしれない。
山本とあたしは、まだ未成年。
親が心配するのは、当然の年齢なのだから。
「恵ちゃん。質問いいかしら?」
「……はい」
あたしは、頭を下げる準備をしていた。
臆することはなかった。
頭を下げたくないプライドなんかより、今では山本と一緒にいる時間の方が、あたしは大切だったのだ。
だから、平気だ。
頭を下げることだって。
罵倒されることだって。
山本と一緒にいれるのなら、ためらうことなんかではない。
山本のお母さんは、ゆっくりと口を開いた。
「あの子は、元気に生活をしている?」
「……え」
思ったよりも素朴な疑問。
思ったよりも、普通な質問。
「はい」
あたしは答えた。
「た、多分実家にいた頃と何ら変わりません。あいつの実家での生活振りは知らないけど……暇さえあれば掃除をして。隙を見つけると掃除をして。そんな感じです」
「……そう」
優しく、山本のお母さんは微笑んだ。
その顔は……山本の言っていた彼のお母さん像とは結びつかない。
「あの、どうしてあたしに聞くんですか?」
「あなたに聞いた方が正しそうだったから」
「……それは、どうでしょう?」
あたしなんて、数ヶ月山本とちょっと一緒に暮らしているだけ。
そんなあたしが、山本の現状を正しく伝えられているのかだなんて、あたしはまるで自信がない。
「大丈夫。合っているわよ」
「……どうしてそう思うんですか?」
「あの子の人を見る目はね、無駄にいいから」
「……無駄に?」
「そう。無駄に。そんなあの子が一緒に暮らしている子なんて、悪い子なわけないじゃない」
「……そうですか」
あたしは、俯いた。
今、山本のお母さんに顔を見せるわけにはいかなかった。
少し、泣きそうだった。
だって、山本のお母さんの言うことはつまり……山本があたしを認めてくれているってことだから。
どんなものでも捨てれる覚悟だった。
山本と一緒にいるためなら。
それくらい好きな相手に……もし、山本のお母さんの言う通り、認めてもらえていると言うのなら。
もし、本当にそうならば……。
嬉しい。
嬉しくて……泣き出しそうだった。
真人間になっていくヒロインがどんどん知らない人になっている。
今は大体0.7知らない人
日頃見てる動画もスカっと系から猫動画になってると思う
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