林恵と風呂上がりの男
志穂ちゃんの言葉を聞き、あたしはゆっくりと考えることにした。
どうして山本がかつての文化祭で本気を出したのか。
どうして山本が親元を離れ上京をしたのか。
どうして山本が、中々実家に帰ることを嫌がったのか。
確かに、志穂ちゃんの言っていることは一理あると思った。
山本からしたら、疎外感を覚えるこの家に、無理をしてまで帰りたくないと思うのは仕方ないのではないだろうか。
山本、過去にそんなことがあったのか。
あたしは思った。
灯里と山本が交際していたこと然り。
今回の一件然り。
結局あたしは、山本のことを全然知らなかったのだな、と。
あんなにも好きだと思っていた男のことを全然知らない、というのは、正直少しショックだった。
でも、こんな感情は抱くべきではない。
山本ならきっと言うだろう。
良かったじゃないか。
全然、わかっていなかったことがわかって。それがわかったのなら、最良の結果を導くためにどうすれば良いか、わかるじゃないか、と。
……おかしい。
あたしは顎に手を当てて、眉をひそめた。
「……メグちゃん、どうしたの?」
「なんか、おかしいなあって」
「何が?」
何がって言われると……。
まあ、強いて言えば山本のことなんだけど。
なんというか、今あたしは違和感を覚えていた。
さっきまでは、志穂ちゃんの言っていることに、山本の状況なんかも加味して納得したのだけれど、よくよく考えてみると、少し違和感を覚えたんだ。
……だって、そう。
山本は、超がつくくらいに細かく、こだわりの強い男だけれど、意外とサバサバした男なんだもの。
そんな山本が……父親と血縁関係でないくらいで実家に寄り付きたくないと思うようになるだろうか?
いや、くらい、と付けれるような軽い話では勿論ないんだけれど……でも、あの山本だもん。
だって、山本はあたしに言ったんだ。
ドメスティック・バイオレンスの被害に悩むあたしに……普通、口を挟みたくないような悩みを抱えるあたしにさえ、あいつは……立ち向かえと言ったんだ。
マインドを変える。
それは山本の、口癖というか金言というか、とにかくあいつが大切にしている言葉だ。
そんな意識付けをしているあの山本が……家族から距離を置きたいがためだけに、家に寄り付かなくなるのだろうか?
それが、あたしが感じた違和感だったのだ。
……あいつは、誤解されやすい男だ。
それと同時に、誤解を解く努力を面倒くさがる男だ。誤解されたのなら、その程度の関係だった。そんな割り切りがあっさり出来てしまう男なんだ。
だから、あいつ……。
もしかしたら今、志穂ちゃんに誤解をされているのではないだろうか。
ただ、だとしたら不思議だ。
もし、志穂ちゃんの言っていることが全て誤解だったとするなら、山本はどうして実家に寄り付こうとしなかったんだ?
……わからない。
きっとそれは、山本にしかわからない。
知りたい。
デリケートな内容だけど、知りたい。
知ろう。
これでもあたしは、他人を慮ることが出来る女だ。
そりゃあ、高校時代は少し配慮に欠ける時もあったけど、基本的にはその姿勢は一貫しているのだ。
そんなあたしでも、ただ一人……。
あいつに対してだけは、そのタガが外れる。
それは、あいつのことをもっと知りたい。
そう思っているからに他ならない。
そしてもう一つ。
あいつなら、あたしの疑問にはきっと全て答えてくれる。
あいつに対してあたしは、全幅の信頼を寄せているのだ。
「良いシャワーだったぜ」
丁度、山本がお風呂場から出てきた。
「山本」
「ん?」
「あんたの部屋に行きたい。ふたりきりで」
山本は口をぽかんと開けていた。
しかし少しして、戸惑い気味に、濡れた髪を少し気にしながら返事をした。
「わかった」
「じゃあ、行こう」
振り返ると、そこには志穂ちゃんが立っていた。
志穂ちゃんは口元を両手で覆い、頬は少し赤くなっていた。
「ごめん。また後でね」
「あ……ひゃぃ」
志穂ちゃんの返事は、どこか上の空だった。
サブタイトルがドラえもんの映画タイトルみたいになっているのよ
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