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連絡先

「山本、友達の連絡先知りたいんだけど、わかる?」


 お古のタブレットを渡していたにも関わらず、おニューのスマホを買ってから、林はそれにずっと付きっきりになっている。まあ、設定とか色々あるのだろうが、この疎外感みたいなものはなんだろう。

 そんな得体の知れないし知らなくて良い感情と戦っていると、林は俺の気も知らずに声をかけてきた。


「愚問だな、林よ」


「そう?」


「ああ」


 俺は、微笑んだ。


「ほとんど知らない!」


「得意げになるところが違うっしょ」


 林はコツン、と俺の頭を軽く叩いた。痛みはない。むしろ、ツッコんでくれてありがとう。


「……とりあえず、俺のスマホだ。ほれ」


「よく普通に渡せるね、自分のスマホ。個人情報の塊だよ」


「やましいものはないからな」


「消したもんね」


「ああっ!」


「だから、得意げになるところが違うっしょ」


 再び、俺は林に頭を軽く叩かれた。


「……じゃあ、ちょっと借りるね」


 林は、一言俺に断って、俺のスマホを操作しだした。

 俺は林の様子も気にすることなく、テレビを見ながらあくびをかましていた。


「ちょっと」


 しばらくして、林は変な声を出していた。大層意外なものを、俺のスマホから見つけたらしい。


「何?」


「あんた、なんで灯里の連絡先知ってるの?」


 あった。あのスマホで俺がまだ、林に知られたくなかったこと。

 驚いた顔をしている林。今彼女がその顔をしている理由は、一体何故か。


 灯里、とは……笠原灯里。高校時代、林の一番の親友だった女子である。彼女らの出会いは高校二年生の時。二年、三年と彼女らは同じクラスで勉学を共にした。

 どうしてそんなことを俺が知っているか。キモい。俺は無実だ。……まあ、そこまで言われることはないのだが、俺と笠原もまた、二年、三年は同じクラスで勉学を共にした。


「意外だったか?」


「意外でしょ」


 林は意図したのか、どうして意外だったのかを俺に教えてくれなかった。

 まあ、彼女の気持ちはわかる。笠原は、林とつるむ女子というだけあって、学年でも林と比肩するくらいの美人だった。性格もどっかの林とは違いとっつきやすく、男子からの人気がむしろ、林よりあった気がしないでもない。


 林は思ったのだろう。

 人気者だった笠原の連絡先を、どうして当時日陰者だった俺が知っているのか、と。

 勿論、その理由を俺が林に与えることはない。


「……とりあえず、教えてもらっちゃうけどいい?」


「ああ」


「そうだ。あたしの連絡先、入れとくから」


「あ、うん……」


 俺はどもった。高校時代では、林の連絡先を知ることなんて一生ないと思っていた。人生、何があるかわからない。

 俺のスマホに林の連絡先を入れて。自分のスマホに、俺のスマホから知った笠原の連絡先を入れて。林は、俺にスマホを手渡した。


「ありがとう」


「他にめぼしい人はいたか?」


「ううん。でも、灯里の連絡先があれば、後はなんとかなると思う」


「……そうだな。俺から知るより、間違いなく確実だ。……後は、彼女にはまず、謝罪からしたらどうだ?」


「謝罪から?」


「彼女のことだから、しばらく音沙汰がなかったお前のこと、心配しているだろう」


「あー、そっか。あんたにしては気が利くこと言うじゃん」


 あんたにしては、は余計だ。

 俺は難しい顔をしたまま、そっぽを向いた。


 その辺繊細そうな人なのに、林は自分のことで頭がいっぱいなのか、俺に訝しげな視線を寄越すことはなかった。もっと追求されると思っていた。俺と、笠原の関係を。……勿論、聞かれないなら聞かれないに越したことはないのだが。


「うん。そうするよ」


「おう」


 俺の返事を待たず、林はスマホに向き合い、笠原に連絡を送り始めた。それからものの数分後、林のスマホが騒がしくなった。


「電話。灯里から」


 林は電話に出て、俺はテレビの音量を下げた。


「うん。久しぶり。うん。うん。あー、ごめんね。本当、ごめん……」


 それから林は、しばらく笠原との会話を楽しんだ。俺は最初は少し緊張を覚えたが、女子特有の長電話に緊張の糸が切れて、気付けばうたた寝を掻いていた。


「起きて、山本」


「んが」


 俺が林に起こされたのは、笠原と林の電話が終わってしばらくした後だったようだ。


「もうっ、布団も敷かずに寝て。風邪引いたらどうすんの」


「オカン」


「オカンって言うな。長電話、ごめんね」


「いいさ。久しぶりの旧友との会話、どうだった?」


「うん。すっごい心配された」


 林は苦笑して答えた。


「これからはあまり心配させないようにしてやれよ」


「うん。そうする」


「……そう言えば、どこまで話したの?」


「大体全部かな。恋人にドメスティック・バイオレンスされたことも、あんたに匿われたことも」


「……俺のこと、なんか言ってた?」


「ん? ……んー。とりあえず驚いてた」


「……そっか」


「うん」


 しばらく、部屋に沈黙が流れた。そろそろ眠気が飛んだ俺は、再び眠るために歯を磨こうと、立ち上がった。


「寝るの?」


「おう。そう言えば、明日俺は深夜バイトだから」


「それじゃあ、今日はちゃんと寝ないとね」


「日頃ちゃんと寝てないみたいな言い方やめてくれ」


「ごめんごめん」


 呆れて笑う林に俺も微笑んで、俺はシンクに歩いた。

15話のストックを土日で使い切りと宣って、結局10話使用という最も中途半端な結果となった。まぢごめん。

基本的に1日2話(7時、18時)投稿を予定しています。どうして"基本的"にと謳ったかは察してくれ。

そうだよ。また唐突にストック全使用という暴挙に出るかもしれないからだよ。ストックは使うためにあるんだからしょうがないね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず、無料のネット小説とは思えない完成度です。 流石のミソネタ・クオリティ。
[一言] アップルは世界二位ではありません。アップルの市場はアメリカ、日本、韓国位です。 他の国の市場は二割以下一割にも見た居ない所がほとんどです。
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