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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
心配する女王様

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林恵の空回り

 翌朝。

 昨晩は少し夜ふかしをしてしまったが、なんとかいつも通りの時間に起きることが出来た。

 あたしは安堵しながら、同居人が今、何をしているかを確認した。


 寝る前、リビングに敷かれていた布団は部屋の隅に丁寧に畳まれている。そして、件の男はリビングにいる様子はない。

 ベランダにもいる気配はない。

 廊下も同様。


 であれば、お風呂場の方か。

 よく耳をすませば、微かに洗濯機が回る音がする。


「おう、おはよう」


 あたしが洗濯機のある脱衣所の方へ向かうと、山本は洗濯機の前でネットを持って立っていた。


 おかしい。

 今日は、山本の実家で泊まりになるはずだから、洗濯機は回さないと山本と昨日話したはず。洗濯カゴの中には、あたしと山本が昨日着た衣類が一通り収められている。


 では、山本は一体、なんで洗濯機を回しているのか?


「最近、洗濯した後の衣類にカビが付いてたろ?」


「全然付いてないけど」


「……あー、俺は白っぽいTシャツばっかり着ていたから目立ったのかも」


「そうなの?」


「……おう」


 山本の手にあるネットに、洗濯物なしで回る洗濯機。

 まさか、この男……。


「あんた、まさかこのタイミングで洗濯槽の掃除をしているの?」


 あたしは尋ねた。

 しかし、尋ねるまでもなく答えは明白だった。


「洗濯槽の掃除、結構時間かかるじゃない」


「で、電車の時間には間に合うさ」


「……あんたまさか、そこまでして実家に帰りたくなかったの?」


「そんなわけあるか」


 山本はいつになく神妙な面持ちだった。


「……ただ、平常心を保つためにだな。その……いつもより気張って掃除をしようと思っていたことは、事実だ」


 つまり、これは逃げではなく……現実逃避のやりすぎ行為だった、と。

 まあ、その方が山本らしいと言えば山本らしいか。


「あと、何回洗濯機回すの?」


「これで最後だ」


「……あ、そう」


 山本は洗濯機を一時停止して、蓋を開けた。

 あたしは山本の隣で、一緒に洗濯槽の中を覗いた。洗濯槽の中は、直前まで回転していたせいか水が渦巻いている。そして、その水の流れに乗るカビ。


 微量なカビを見ていると、確かにこれが最後、と言う山本の言葉にも説得力が増す。


 ネットでカビを掬う山本を見ながら、あたしは気づく。

 一人暮らし用の小さな洗濯槽の中を一緒に覗いたあたし達。

 今、あたしの目の前には、山本の頬が見えた。

 

 ……ち、近い。


 あたしは山本から距離を取った。


「あ、あたし先に着替えてるよ」


「ん? おう」


「……朝ごはん、何か食べたい物ある?」


「え? ……あー、卵焼き」


「わかった」


 これ以上、あの空間に一緒にすると、あたしも山本が実家に帰るのを妨げてしまいそうだったから、あたしはさっさと着替えて、朝食の準備に取り掛かることにした。

 

 朝食を作り始めてしばらく、山本は洗濯槽の掃除を終えて、廊下に出てきた。


「終わった?」


「おう。バッチリだ」


「……そうですか」


 帰省の直前に手間のかかる掃除を始めるだなんて、と文句を言いたくなったが、あたしも昨晩は散々迷惑をかけたことだし、止めておいた。


「なあ、林?」


「ん?」


「きっと、親はお前に対して、何も言わないよ」


「え?」


「すごい似合ってるぞ、その服」


 ……わかってる。

 この男は、灯里に矯正されたから。だから、女子に対して格好を褒める、という男子としての最低限のエチケットが出来ているのだ。


 ただ、それだけなんだ。


 ……だから、綻んだ顔をするんじゃない。あたし。


「林」


「な、何?」


「焦げてる……」


「ぎゃっ」


 あたしは慌てて火を止めた。

もう付き合っちゃえよ!


評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] もう付き合ってますよね?というかもう押しかけ女房ですよね?
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