宅配便
玄関の方へ向かい歩きながら、俺はぼんやりと考えていた。
最近何か買い物はしたかな、と。
通販サイトは、よく掃除用具を買ったりすることに利用する。基本的には自らの足でお店に赴き、使用感を確かめてから購入する口なのだが、どうしてもお店で取り扱っている物だけでは俺の欲求を満たすものはなく、通販サイトに頼らざるを得なくなるのだ。
ただ最近は、ひとしきり欲しい物は買ったせいか通販サイトを新たに利用することはなかった。
いくら思い出してもやはり、宅配便が届くようなことをした記憶がない。
「宅配便です」
「ありがとうございます」
荷物を受け取りサインをし、宅配便の青年は去った。
玄関先、俺は青年が去った後、荷物の送り元を確認した。
「げ」
そうして俺は、少し嫌な声を出した。
この荷物の送り元は……。
面倒なことになったな。
俺は頭を掻いた。
どうやってこれ、林を誤魔化そうか。
そんなことを考えていた。
「どっからの荷物?」
が、そんな俺の策略は、ひょっこり背後に迫っていた林のせいで計画前から頓挫することになった。
ぎゃっ、と小さなうめき声を上げる俺を無視し、林は目を細めて段ボールを凝視していた。
「……山本、郁恵?」
林は呟いた。依然として怪訝そうな顔は崩さない。
「……俺の母さんだ」
「実家からの荷物ってこと?」
「そうなるな」
「……とりあえず、いつまでも玄関先にいないで、開けてみたら?」
「そうだな」
段ボールを持ったまま、俺達はリビングに移動した。
カッターナイフを手に取り、段ボールの封を開けた。
段ボールの中には、レトルト食品やお米が入っていた。
一番上には封筒。
「仕送りっぽいね」
林が言った。
「そうだね」
「優しい親じゃん」
「そうだね」
「封筒の中身は?」
「……手紙みたいだ」
俺は手紙に目を通した。
まあ、手紙の内容を要約すると、母は俺の身を案じて仕送りを送ってくれたそうだ。
「優しい親じゃん」
「……そうだね」
「ウチなんて結局一度も仕送りしてくれなかったよ。あーでも、あんたもこれが初めて?」
「そうだな。そうなる」
「……ねぇ山本、さっきからあんた、なんか変じゃない?」
図星だった。
俺は動揺から体を揺らす。
「そ、そうか?」
「うわっ、わかりやすい反応」
林の視線が疑り深いものになる。
俺は居た堪れなくて、林から目を逸らした。
「……そういえばあんたさ、実家にちゃんと帰ってるの?」
林は言った。
「この前の結婚式の時もこの部屋から行ったし、そう言えば全然帰ってなくない?」
「……そんなことはないぞ」
「じゃあ最後に帰ったの、いつよ」
「……今年の三月だ」
「上京前なんですけど。何サラッとしょうもないこと言ってるの」
「べ、別にいいだろ。俺がちょっと実家に帰らないくらい」
「普通の人ならいざ知らず。あんたあたしにあれ程実家に帰れって言ったじゃない」
「俺とお前じゃ事情が違う」
林はドメスティック・バイオレンスの被害に遭い、心身共に傷ついた経緯や、その恋人のせいで両親に勘当された経緯があった。
だから彼女は一度実家に帰るべきだった。
ただ、俺は勘当をされたわけじゃないし、実家に特別帰らないといけない用事があるわけじゃない。
「……とりあえず後で電話して、お礼を伝えておきなよ」
「わかった」
一先ず林が引いてくれたことに安堵して、俺はため息を吐いた。
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