第一章 ⑧ ツチトーの町にて
すっかり、他の女への興味を無くされてしまうほどパラミに搾り取られた翌日、別れを惜しむ彼女に見送られてから刀を取りに鍛冶屋へ寄り、美しいほどの出来栄えを確認すると、その足で街を後にした。
特にどこを目指して歩いていたわけでもなかったが、次の日にはツチトーという町を訪れていた。
先日までコクシムにいたので、それに比べてしまうと、この町はまだまだ人の密集具合は少なく、通りもほとんど整備されていない。
ただ、こちらは洋風の文化が浸透し始めているようで、民家を含め建物は、洋風のものが多く見受けられる。
行き交う人も、和服の者は少なく、洋服に身を包んだ者ばかりなので、随分と毛色が違って見える。
この町がコクシムよりも、さらにヨーチオの国境へ近いことが大きな理由だろう。
「じゃあ、お願いね」
「やだってば。あたしだって、忙しいのに」
「何言ってるの。ちゃんと、採ってくるのよ」
「はぁ…、最悪」
何やら揉め事の匂いが感じられたので様子を見てみれば、娘が母親に仕事を押し付けられているような話だった。
木造でありながら洋風の造り方をされた家から強引に追い出された明るい茶髪の娘っ子は、この町を行き交う住民の例に漏れず、生足を存分に露出した洋服を着ているが、それに全くそぐわない純和風の背負い籠を嫌々持っていた。
「なんで、あたしがこんなの持たなきゃいけないのよ。それに、金ならもっと手っ取り早い方法が……」
誰に言う訳でもない独り言をブツブツと吐き散らして、怒りのやりどころを求めていた彼女と、不意に目が合ってしまった。
絶対に面倒な事になるという直感が頭を貫き、素知らぬフリをして通り過ぎようとしたのだが、遭えなく捕まってしまう。
「ねぇ、お兄さん。ちょ~っと、お願いがあるんだけど…?」
悪態を吐いていた時とは、まるで違った声色で話しかけてきた少女は、あからさまに媚びを売ってきた。
遠慮や恥じらいも知らず、すぐに馴れ馴れしく腕に抱きついてきて、その身体を擦り付けてくるほどだ。
ひらひらと舞う丈の短いスカートもそうだが、胸元もやや無防備になっており、上から谷間が少し窺えるので、男を誘っているとしか思えない。
見た目からすれば、まだ若く、女というより少女という方が適切な表現と推測するが、そのわりにはもう立派に娼婦の真似事染みたことをしているので、きっと将来はろくでもない大人になることだろう。
「籠なら、いらんぞ」
「違う違う。籠は貸してあげるから、採ってきて欲しいものがあるの」
「へぇ。一体、何が欲しいんだ?」
「えっとねぇ…。あれ、なんだっけ?ゴリオ?ん~、違うかな。ゴリ…なんとかダケってキノコよ」
この女は、頼まれた品すら記憶していないというのに、他人に頼もうというのだから、既に程度が知れている。
「ふーん。そのゴリマッチョダケだかなんだかを、採ってきて欲しいと?」
「そうそう、そうなのよ!ねぇ、良いでしょ?カッコいいお兄さぁ~ん」
この女ときたら、思ってもいないことを平気で口に出し、腕を引っぱって離そうともしない。
「そうは言われても、俺にも予定があるからな」
「そんな意地悪言わないでさぁ…可愛いフェリちゃんの一生のお願い!なんでもするから、引き受けて欲しいな?」
「へぇ…なんでも、ねぇ?」
「そうそう。なんでもするから、お願いお願ぁい!」
「それって、こういうことでも良いってことか?」
不用意に彼女の胸元へ手を伸ばし、服に指を掛けて谷間を少し覗いてみると、彼女はしめしめとニヤけて笑った。
「やぁん、お兄さんのえっちぃ~。でも、お兄さんの気持ちも分かるよ」
「フェリみたいにかわいい子なんて、そうそういないからね。フェリのこと気になっちゃうのも、仕方ないし…。フェリのお願い聞いてくれたなら、まあしょうがないかな?」
頼み事をしているのが自分だというのも忘れて、人の足元を見て高慢な態度を取る姿は腹立たしいものだったが、今ばかりは気持ちを抑えた。
「へぇ。出会ったばかりの男でも相手にしてくれるだなんて、随分大らかなことだ」
「そうかな~?フェリは、過ごした時間なんて関係ないと思うんだよね~」
「ふぅん。じゃあ、出会ったその日に関係を結んでも、何ら気にしないってことか」
「うん。気にしない、気にしなーい。でも、それはそう思わせるほど、お兄さんがカッコ良くて、魅力的ってことでもあるんだよ?」
「はぁ、これは一本取られたな」
「ね、カッコイイお兄さん。フェリのお願い、聞いてくれるでしょ?」
「そういうことなら、仕方ないな…」
「わぁい!ありがと、お兄さん。じゃ、これ渡すから、今日中に採って来て。あ、そのキノコが生えてるのは、確かブヒ族の集落の近くなんだって。あとよろしく~」
引き受けた途端に、矢継ぎ早に捲し立てて、籠を押し付けたと思ったら、もう駆け出して町角に姿を消してしまった。
「なんて奴だ…」




