表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

第一章 ② 俎板の鯉(まないたのこい)

 とぼとぼと先に町へ戻る男たち3人を見送ると、日も傾いてきたので、そろそろ夕食の調達を始めなければならない。

「あんたは、町に戻らないの?」

「ああ。今日は野宿でいいかと思ったんだが、ベッドの上の方が好みだったか?」

「そういうことを言ってるんじゃないわよ」

 ちょっとした軽口を言っただけのつもりだったが、女は心底嫌そうに表情を歪めた。

 どうせなら、彼らの後を追って同じ宿を取り、隣からお仲間の雌声が聞こえてくる苦痛を味わわせてやるのも、乙なものだったかもしれない。

「今日の任務で倒したアグレッシブルを途中で放って置いたままだから、どうせ持ってかないなら、食べようかと思って。あんたも食べるでしょ?」

 中身がどれだけ酷いものだとしても、一応人間なんだから――とか思っていそうな口振りだ。

 嫌味のつもりで言ったのかもしれないが、そんなことを言われ慣れていれば、何とも思うことはない。

「少しは気の利く女じゃないか。手間が省けて助かる」

「そう、それなら良かったわ。行きましょ」

 実に素っ気ない態度でぷりぷり歩く女は、俺に構わずさっさと足を進めて、後ろに束ねた朱色の髪を揺らしながら、ブーリッシュタイガーからひたすら逃げて来た道をゆっくりと戻っていく。

 見たところ、胸も大きくなければ、尻も小振りなもので、身体は冒険者として活動しているおかげもあって、引き締まっているようだ。

 弓を引く際に、胸が大きいと邪魔になるので、そういったものは、自らの乳房を切り落とす者もいるというが、彼女は胸当てをしていれば大丈夫なサイズなのだろう。

 片乳だけでかいのをぶら下げて、もう片方が絶壁になっている姿は、自ら女として生きることを放棄しているようにも感じられて、個人的にはあまり好きではないので、それに比べればまだマシといった具合だ。

「…なんか、すっごい視線感じるんだけど」

「気にするな」

「気になるわよ…」

 女は視線に敏感だという話も聞いたことはあるが、後を追いながらじろじろと値踏みしていれば、余程防衛本能が薄い女でもなければ気づくことだろう。

 冒険者や弓使いとして活動しているのならば、尚更だ。

「あんた、女にモテないでしょ?」

 不意に振り返ったと思ったら、随分失礼なことを口走った。

 きっと、もうこの女の中では、俺の気まぐれで命拾いしたことを忘れてしまっているんだろうと、なんとなく察した。

「どうして、そう思う?」

「視線がねちっこいからよ」

「ふぅん…。初めて言われたかもしれないな」

 嫌悪感を隠そうともしない女に続いて森に入り、しばらく歩けば、彼女の言う通りアグレッシブルが力なく横たわっている姿を発見した。

 まだ死臭を発していないので、食べる分にも問題無いだろう。

「丸ごと持っていければ、それが一番だけど…食べる分だけ取ればいいか」

「妥当だな。あまりのんびりしていると、嗅ぎつけた他のモンスターまで寄って来かねない」

 彼女の尤もな意見に賛同して、剥ぎ取り用のナイフで肉を切り分けていく。

 全身の色と似たような赤身が顔を出すが、こちらの方がより鮮やかな赤色をしている。

 これだけの量の新鮮な肉があれば、人間よりも優れた嗅覚を持つモンスターであれば、涎を垂らしてやってくるのも無理はない。

「へぇ…。あんたでも、そういうこと気にするんだ」

「ああ、それなりにな。とはいっても、俺の心配というより、今日味わうはずの肉が無くなってしまう心配をしているだけだがな」

「…助けるつもりは無いってことね」

「頼まれても無いんだから、当然だ。お前たちだって、報酬もないのに任務を請け負うことはしないだろう?食べる前に無くなってしまうのは惜しいが、女はお前一人だけじゃない。代わりは、いくらでもいる」

「いくらでもって…。あんた、まさか何の罪もない人まで…」

「わざわざ話すことでもないが、お前は何か罪を犯して、罰としてここにいるのか?…違うだろ?だったら、そういうことだ」

「ホントに、とんでもないクズ野郎ね」

「よく言われる。まあ、言った奴らは、大抵もうこの世にはいないがな」

「……」

 死刑宣告を食らったような重苦しい女と、それぞれ肉塊を持って来た道を戻る。

 今度は俺が先行する形になって、女は重たい足を動かしながらついてきているようだが、こういう時、偶に追い詰められて血迷った者が、背後から奇襲を掛けてくることもある。

 後ろから感じる視線からも、殺意を感じる節はあるが、それより不安に駆られている雰囲気の方が圧倒的に重い。

 一晩我慢すればいいと思っていたものが、そうでなくなった時のことでも考えていることだろう。

 再び森を後にすると、開けた場所に戻ってきたので、今晩はそこで野営することにした。

「薪でも拾ってくるわ」

「ああ」

 一人分ほどの大きさしかない小さめのテントを張り始めると、その間に焚き火をするのに必要な物を見繕う為、彼女は再び森へ入って行った。

 魔法によって、火を起こすことができるとしても、長く燃やし続けるには、やはり燃料が必要だ。

 なので、冒険者や旅の者は、野営する度に近くに落ちている木の枝などを拾い集めることが当たり前になっており、彼女もその端くれならば、慣れたものなのだろう。

 設営が終わった頃に、女も首尾良く焚き物を集めてきたようで、森から姿を現した。

「そのまま逃げても良かったものを…よくもまあ戻ってきたもんだ」

「逃がしてくれるつもりがあるなら、そうしたけど…そうじゃないでしょ?」

「さあ、どうだろうな」

「下手したら、地獄の底まで追ってきそうだもの」

「それは、過大評価しすぎだな。お前如きの為に、わざわざ死んでやるつもりなど無い」

 文句を言いながら、渋々戻ってきた彼女は、そのまま薪を組んで、その下や周りにマツギの葉を敷き詰めた。

 燃えやすいマツギの葉に点いた火が、薪に燃え移るようにするお手本のような組み方だ。

「手慣れてるな」

「いつものことよ。それより、あたしは火の魔法も使えないんだけど、あんたは?」

「…これを使う」

「火打石…。あれだけ強くても、魔法の才は無いみたいね」

「ああ、そうかもな」

 他人の弱点を見つけたようで妙に嬉しそうな女は、一矢報いたくらいの面をしていたが、確かに火の魔法が使えるのであれば、こんなものを持っている者はまずいないだろう。

 火打石を慣れた手つきで打ち合わせれば、火花が散って、マツギの葉が燃え始める。

 一瞬の命を燃え上がらせるように、勢い良く火が起こると、周りの葉にも燃え移って、そこからさらに薪まで着火した。

 火が安定したことを確認すると、今度は平たい石を探して、まな板代わりにすると、肉を食べやすい大きさに切る。

 それも終わると、熱くない程度に火の傍へ腰掛け、いよいよそれを焼き始める。

 生憎、しっかり調理するような道具まで持ち合わせていないので、ナイフを突き刺した肉を直火に当てて焼くという品の欠片も無い焼き方だ。

 生の肉をそのまま食うと、色々と危険だという助言も聞いているので、焦げ目がついて色が変わるまでよく焼いて、しっかりと火を通してから口に運んだ。

「んぐもぐ…」

 うん、肉だ。味の感想なんて、そんなものだ。

 食に微塵も興味が無い俺と同じように、大して美味しそうな表情をするわけでも無く、彼女も同じように肉を口にしていた。

 仏頂面はともかく、きっと冒険者の女たちは、こうして逞しく育つのだろう。

「そういえば、テントは無いのか?」

 自分の分は、滞りなく設営を終えたが、その一つしか建っておらず、彼女が設営する様子も無かったのだ。

「気を利かせたのか、気が回らないのか知らないけど、ザンの奴が持ってっちゃたんだもの。どうせ、一緒に寝るなら、一つあれば良いでしょ?」

「ごもっとも」

 一晩付き合え、と言ったところで、夕食を共にしたくらいで返すつもりは毛頭無い。むしろ、本番はこれからだ。

 ただ肉を焼いて食う。黙々とそれを繰り返し、腹が満たされるまで行う頃には、すっかり日も落ちて、辺りは暗くなっていた。

 暗闇の中で、光をもたらすのは、焚き火と月明かりくらいなものだ。

 夜目を頼りに、近くの川まで足を運んで水分を補給し、ついでに水を調達してきた。

 水筒も持っているが、日々消耗してしまうので、取れる時に取っておくのが一般的であろう。

「はーあ。水浴びでもしてこよっかな」

「ご自由に」

 平然と彼女の言葉を受け流したが、当人は随分気掛かりなようで、釘を刺して川へ出かける際も、覗きに来るなと再三言い聞かせているような睨みを利かせていた。

 確かに、それも面白い趣向ではあるのだが、今回は後のお楽しみということにしておいた。

 まあ、単に彼女からそれほど魅力を感じなかったから、という理由もあったのかもしれない。

 俺が知る限りでも、他に良い女はいくらでもいる。

 だったら、なぜ彼女に褥を共にさせるのかと思う者もいるだろう。

 その答えは、単純明快。腹が減ったら、飯を食う。眠くなったら、眠る。それと何ら変わらない。

 ただ、あまりにも守備範囲から逸脱してる女を食うほどゲテモノ好きではないので、その場合はそれを女と見なさずに無視することもある。

 今回でいえば、まあまあ妥協した上で、食えないほどではないという判断だ。

 この事を伝えたら、きっと失礼なことだと憤慨することもあるだろうが、一般的な考えでいえば、物凄く美味しい肉の味を知ってしまうと、チンケな安物の肉を食べても嬉しく思えないのと通ずるところがある。

 世の中には、もっと上質な物があると知ってしまったが故に、安物では満足できない身体になってしまったということだ。

 しかし、それでも腹が減っているのなら、その飢えを満たす為に、大して美味しくないと分かっていても、口に入れることになるのだ。

 静かな闇夜に、パチパチと火が燃え続ける音を聞きながら、食後の時間をまったり過ごしていると、女がいつの間にか戻ってきた。

 水の滴る良い女…というには些か過大評価が過ぎるが、多少は色気が出てきたようにも見える。

「さて、少し早いが、そろそろ寝るか」

「…ええ」

 彼女のように、汗臭いと思われたくない想いもあって、床に就く前に水浴びをするのが暗黙の礼儀としても知られているが、そもそも最初から嫌われているのに、今更そんなことを気にする必要は無い。

 火の始末をしてしまうと、途端に暗くなったようにも感じるが、かまわずテントに入れば、女も不本意ながら後に続いてやってくる。

 元々、一人用のテントなので、そこに二人入ってしまえば、狭く感じるのも必然だが、相手との距離が取れないというのは、ある意味プラスの要素にもなりえる。

 まともに立つことすら叶わない中、座り込んだお互いの目が合った。

「まずは…そうだな。脱がすとするか」

「…好きにすれば」

 暗がりの中でも見えた顔には、苦虫を嚙み潰したような表情が浮かんでいたが、全く構わずに胸当てへと手を伸ばした。

「んっ…」

 目の前で自ら脱ぐようにさせて、羞恥心を煽りながら屈辱を与えるのも乙なものだが、わざわざ俺が脱がしてやる利点とすれば、ついでに必要以上に相手の身体を触れることか。

 一度胸当てを下へずらす際に、固く守る物が無くなった身体を服の上から撫でて、柔らかな感触の中にある突起を探す。

「ん…んぅ…、んんっ…」

 それを見つけたら、今度はその周りに円を描くように撫でていけば、いつ突起を触られるのか焦らされて、次第に落ち着きが無くなり、息が荒くなっていく。

「はぁ…ぁ…ぁぁ…ん、んんぅっ!」

 そして、不意にギュッと摘まんでやれば、思わず声を漏らしそうになって、固く口を閉じた。

 大方予想通りの反応を得られて満足すると、胸当ての留め具を外す為、今度は母性を感じさせる膨らみに顔を埋めながら背中に手を回すが、すぐに外すなどという無粋なことはせず、頬に感じる独特の柔らかさを堪能する。

「ぅぅ…。ん…んんぅ……」

 やはり、胸が大して大きくない分、物足りない節があったのは否めないが、それを補う為に、顔をあちこちに向けて最善な位置を模索した。

 質量が大きければ、何もせずとも至福の感覚を得られるのだが、それはまた別の女に味わわせてもらうとしよう。

 ようやく留め具を外すと、その辺に胸当てを避けて、そのまま服も脱がしてしまう。

 その際、例に漏れず彼女の身体に軽々しく触れたことで、一つ気づいたことがあった。

「そんなに怖がらなくても、良いんじゃないか?お仲間か誰か、他の男を相手にするのとそう変わらないだろう?」

「違うわよ、全然…」

 微弱に震えている彼女の身体は、少しは鍛えているようで、筋肉はある程度ついており、くびれもあるが、腕や脚は細いとは言い難いものだ。

 肉感的とは程遠い身体は、娼婦にしても売れないだろうし、彼女もそれを望まないだろう。だからこそ、これだけ身体を鍛えて、冒険者として生きていく覚悟を刻み込んでいるのだから。

 しかし、その覚悟がこんな有様になってしまっては、無用の長物だ。

 自分の無力さを知り、強者に身を委ねるしかない己をどう思っているのだろうか。

 是非聞いてみたいところではあるが、今はそれよりも彼女の身体に直接聞いてみる方が良いだろう。

「さて、そろそろ存分に愉しませてもらおうか」

 自ら服を脱いだ俺は、柔らかな敷物の上に寝転び、少しゴツゴツした地面の感触を感じながらも、彼女に奉仕を強要した。

「……」

 だが、ここに来て彼女は固まってしまった。威勢のいい姿が幻だったかのように、身体を強張らせている。

「嫌か。別に、俺はお前の四肢を切り落として続けても良いんだぞ。あいつらに返すとは言ったが、無事に返すとは一言も言ってないからな」

「分かったわよ…。やるから…これ以上酷いことしないで」

「さて、どうだろうな。それは、お前の働き次第だ」

 彼女の身体を張った奉仕は夜遅くまで続き、余すことなく全身を貪り尽くされることとなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ