第二章 エピローグ
サンドウジの大通り。
貴族の行列が通るという噂を聞きつけ、俺は新たな暗殺者集団『スカーレット・リップス』を試す場を設けた。
その夜、護衛の隙をつき、赤い口紅を引いた女たちが彼らの前に現れた。
彼女たちは微笑みながら貴族の護衛に身を寄せ、囁くように耳元に言葉を落とす。
次の瞬間、髪に差していた簪が閃き、護衛の喉を切り裂いた。
悲鳴と血飛沫の中、女たちは舞うように敵を屠っていく。その姿はまるで血に濡れた花だった。
全てが終わった後、彼女たちは無傷で戻り、ポーラの前に跪いた。
「よくやった。お前たちの名は今夜からサンドウジを駆け巡る。スカーレット・リップスの名を恐れぬ者は、この町にはもういないわ」
俺はその光景を眺めると、上々の成果に思わず笑みもこぼれる。
この様子ならそのうち俺がこの町を離れることがあっても、ポーラと共に町を任せられるだろうと思わせてくれる。
数週間の間に、ダスク・ファングやアッシュ・クロウに代わる裏社会の派閥は次々と潰されていった。
スカーレット・リップスの奇襲、ポーラの策略、そしてジャックの暴力が三位一体となり、サンドウジの影の頂点は完全に塗り替えられた。
酒場ではこんな噂が囁かれる。
「最近、この町で逆らう奴はいなくなった。逆らえば“紅の唇”に口づけされるからな」
民衆は恐れ、同時に抗えぬ魅力を感じていた。
町は静かに、しかし確実にジャックの色に染められていった。
サンドウジの夜は、もはや静けさを取り戻していた。
かつて「ダスク・ファング」が牛耳っていた娼館は潰れ、彼らに従っていた商人や用心棒たちの姿は町から消えている。代わりに広がっているのは、恐怖と服従の気配だった。
路地を歩けば、誰もが頭を垂れる。裏社会に生きる者たちですら、ベルベット・ロータスという存在を避けて通るようになった。
人々は「支配者が変わった」と悟り、そしてその名を口にするだけで血の匂いを思い出す。
ポーラは娼館の最上階から、夜の町を見下ろしていた。
ジャックの横顔を盗み見るたびに、彼女の胸には熱が灯る。参謀として彼に策を献じ、組織を整えることができる。その事実こそが、彼女にとって最大の歓びだった。
同時に、女としての自分も確かに存在している。ジャックに抱かれる夜ごとに、彼の冷酷さと強さを肌で知り、ますます深く惹かれていくのだった。
ランダは従者として、常にその側に控えていた。
彼女にとっては、ジャックが全てだ。彼に仕え、彼に従う。
彼が残虐を楽しめば、血に塗れた未来さえ祝福のように思えた。
そんな彼らの手の中に、ポーラの調べによって一つの新たな情報がもたらされる。
「不老不死に至る可能性……それは『賢者の石』と呼ばれるものに関わっているようです」
静かな報告に、彼の口元がわずかに吊り上がる。
彼はただ酔狂で町を掌握しようとしたわけではない。血の遊戯も、支配も、すべては『不老不死』という頂きに至る為の通過点に過ぎないのだ。
ようやく掴んだ情報は、彼の心を大きく震わせる。
「よくやった、ポーラ。この町を掌握した価値があったな」
その笑みには、次なる標的を求める捕食者の残酷さと愉悦が宿っていた。
こうしてサンドウジは完全に沈黙し、彼の足掛かりとして賢者の石への道を開く拠点となった。
ジャックの道のりは遠く険しい。
しかし、彼はずっと昔から同じような道を歩んできた。
だから、これからもその生き方を変えず、その道を進むだろう。
例えそこに――数多の命が転がっていたとしても。




