③ 闇医者の診立て
ランダとの二人旅も様になってきた頃、ようやく知り合いの医者がいる村に着いた。
村の外れ、他の家から少し離れた場所に、その小屋はあった。
壁板は色褪せ、窓枠は歪み、煙突からは薄く灰色の煙が漂っている。
見覚えのある、くたびれた光景だ。
普通の人間なら全く以って世界的名医の医者などいる様子が無いように見えるだろう。
だが、それこそが奴の目論見なのである。
少し傾いた扉を無遠慮に拳で叩き、中の者をせっついた。
少ししてそれに応えるように扉の奥から聞こえてきたのは、潰れたような声だった。
「今日は休みじゃ。生憎だが、帰って――」
「嘘を吐け。面倒なだけだろ?」
「んん? その声……」
しばしの沈黙の後、金具が外れる音がして扉が開いた。
出てきたのは小太りの初老――ゴージ。
禿げかけた白髪は中心を除いて伸び放題で、随分と髭も蓄えている。
それだけ生えてくるなら頭にも生えてくれば良いのにな、と他人事のように思う。
だが、そんな姿をしていても奴の鋭い瞳には多くの闇が宿っていて、その眼光には威圧感すら伴っていた。
しかし、それも相手が分かると一瞬で終わり、すぐに普段のやる気のない様子へ戻った。
「おぉジャック…、やはりお前か」
「あぁ、俺だ。ゴージ。相変わらずのようだな」
「お前さんもな――と言いたいところじゃが、そちらさんは?」
すぐ後ろにいた見慣れない女に気づくと、不思議そうに首を傾げた。
「お初にお目にかかります。私はジャック様の従者、ランダと申します」
「……従者、とは。こりゃまたどういう風の吹き回しじゃ?」
「さぁな、そこまで答える義理は無い」
「ふむ…それもそうじゃ。…それで、もうろくに怪我もしなくなったお前さんが久しぶりにわざわざわしの下へ尋ねてきた用件を聞こうか?」
「あぁ、相変わらず話が早くて助かる。ちょっとこいつを診てくれないか?」
半歩後ろで控えていた彼女を前に来るよう促すと、ゴージはまじまじと彼女の肢体を見始めた。
「ほほぅ…、これはなかなかの上玉じゃな、一体どこでこんな良いおなごを捕まえて…」
「いや、爺のボケはいらん。ホントに耄碌してるのか分からなくなるからやめてくれ…」
「はっはっは、スマンスマン。久しぶりに会ったから少しは揶揄ってやろうと思うてな」
「えぇっと…?」
「まぁ冗談はこれくらいにして、どこを診てやれば良いんじゃ?」
「一通り全部だ。こいつは俺と出会った時には同族に毒を盛られていてな」
「何? 毒じゃと? 酷いことをする者がお前さん以外にもいたものじゃ」
「おい、冗談は終わったんじゃなかったのか?」
「おーおー、怖いのう。年々わしの扱いが雑になっている気がする」
「一応毒を盛った奴から解毒薬を奪って飲ませたし、現状見た限りでも特に異常は無さそうなんだが、傍に置いておく以上は念の為な」
「ほぉ…、まあ解毒薬を奪って飲ませたとお前さんが言うからには、実際に力づくで奪ってことが済んだんじゃろうが、何の毒かは覚えとるか?」
「確か、毒キノコだったのは覚えているんだが…、まんざら…? まんだら…」
「マダラドクダケです」
「そう、それだ」
「おいおい、もうお前さんもボケてきたんか? まだ若いのに…」
「他人のことより自分のことを心配しろハゲ」
「ハゲじゃと? 誰がハゲじゃ!?」
「十分ハゲとるやないかい!」
「あの…すみません、話が進まないんですけど…?」
「おぉっとそうじゃった、スマンスマン」
初対面でも緊張感の「き」の字すら無い相手に、おずおずと申し出たランダのおかげで脱線していた話が戻った。
「ごほんっ…。マダラドクダケといえば、一口食べただけでも身体中に紫の斑点が浮かび上がって全身に痛みが生じ、三日三晩苦しむと言われている毒キノコじゃ。面白半分で盛るにはちとやり過ぎなんじゃが…」
「いや、面白半分どころか相手は本気で消そうとしていた可能性があるぞ。奴の部屋に行った時、毒々しい色の抽出液がまだ残っていた」
「なんとっ! それは酷い。しかし、この容姿ではそこまでの反感を買ってしまうのも無理もないのじゃろうか…」
「…ゴージはブヒ族って知ってるんだったか?」
「もちろん、あのわしより太っていて醜い一族のことじゃろ? …まさか、彼女はブヒ族の?」
「あぁ、そうだ」
「ということは陰湿な虐めがエスカレートした結果といったところじゃろうか。何にせよ、酷いことするのう」
「あぁ、全くだ」
「…ふむぅ、その相手もお前さんにだけは言われたくなかったかもしれんなぁ」
何度も脱線しながらもようやく経緯の説明が終わると、ゴージはランダを手近な椅子に座るよう促し診察を始めた。
「よろしくお願いします」
「ふむ、ではまず服を脱いでもらおうか」
「はい…」
分かりきっていたことだが、診察してもらうには裸になる必要がある。
俺が見守る中、他の男へ肌を晒すということに抵抗があるのか、ランダは心苦しそうにこちらへ視線を送っていた。
「事前に言っておいたが、こいつの腕は確かだ。ちゃんと診てもらえ」
「…はい」
「なぁに、わしに任せれば大丈夫じゃ。痛いのは最初だけじゃから、へへっ…先っちょだけ、先っちょだけじゃぁ…」
「お前のそういう余計な冗談がこいつの不安を煽るんだよ、ロリコンハゲ」
「ロリコン…?」
「そうさ、何も心配はいらない。こいつはお前みたいな胸が大きい女よりも、つるぺたの幼子に興奮するようなロリペド野郎だからな」
「そ、そうなのですか…?」
「あぁ。ブヒ族がどうの言っていたが、人間の中にもそういった変わり者は少なからずいるもんさ」
「あー、いや…お恥ずかしい。君もあと10年くらい若ければわしの守備範囲内じゃったんじゃが…」
「んふっ、そうでしたか。それなら、少し安心しました」
「変な安心のされ方をしてしまったな」
「まあ良い。リラックスできるならそれに越したことは無い。それに、もし仮にわしの性癖が偽りだったとしても、わしのチカラでは変な気を起こしたところでジャックの刀の錆にされるのがオチじゃよ」
安心して医者に身を預ける彼女を診てもらい、毒の後遺症などが残っていないことは分かった。
ただ、ブヒ族の同胞から受けた打撲痕などの傷は残っており、彼女への仕打ちが度々行われてきたことを物語っていた。
しかし、それもこの闇医者に掛かればあっという間に治療されて、その影も無いほどキレイな肌を取り戻した。
それ以外にも性病や魔法適正についても調べてもらうことにして、前者は特に異常が無いと告げられて俺も一安心。
魔法適正については俺よりも高い部分があり、俺にできないことを補う補佐的な役割という方向性で育てる考えは間違っていなかったらしい。
その日の晩はその村の宿に泊まることにして、早速有効利用させてもらった。
自分に性病が無いと分かれば、お互いに変な遠慮や躊躇が無くなり必然的に肌を重ねることになったのだ。
少女が女になった破瓜の日からもしばらく経ったこともあり、もはや痛みもなく彼女も快楽を得ることができていたように見えた。
戦闘技術の面を見ていても思っていたことだが、彼女は理解力があり器用なようなので、その才に気持ちが乗ればさらに飲み込みは早くなる。
戦闘面よりも余程早く上達している男を喜ばせる技術をみれば、それは明らかだった。
もちろん、毎日のようにさせているからというのもある。
実際、随分昔俺が女を飼っていた時もそうだった。
最初は嫌々行っていても、毎日やれば嫌でも覚えて次第に早く終わらせるために技術を磨いて必死に生き延びようとしていた。
そのまま従順に従っていればいいものを嫌気が差したのか俺に反旗を翻した途端、その女の命は尽きた。
当然、俺が処分したからだ。
女なんてものは食い物と同じだ。
その辺にいくらでも転がっている。
代わりなんていくらでもいるのだから、わざわざ俺に歯向かうような奴を置いておく理由もない。
さて、隣でスヤスヤと眠りこけているランダは一体いつまで今の調子を続けられるのだろうか――。




