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第一章 ⑩ キノコ狩りのお礼

 地元民の協力が得られたこともあり、思っていた以上に容易くキノコ狩りを完遂し、日が傾きかける中、こんなことを押し付けてきた少女のいる町へ戻った。

 ただ、やはりまだランダの格好は、多くの人間が暮らす町中では浮いてしまい、悪目立ちしている気がしたので、先に呉服屋へ立ち寄ることにした。

「へへっ、旦那。どんな物をお探しでやすか?」

 大きな通りに面した店なので、そう可笑しなものは出てこないだろうと思っていたら、品物以上に癖が強い男に出迎えられた。

 金づるがやってきたとばかりにいやらしい視線を向ける男は、まさか布が掛かった籠の中に、毎日見ているモノと同じようなキノコがゴロゴロと入っているとは、夢にも思うまい。

「こいつに合う着物を見繕ってくれ。すぐに用意できる物が良いが、丈は膝上の短めが良い」

「へへぇっ、分かりやした。旦那も良い趣味してやすね、へっへっへ…」

 俺とランダを交互に見つめる男の視線は、邪推な考えを抱いたようだが、あながち間違ってもなければ、一々訂正する必要も無い。

「あの…私、あんまりお金持ってませんよ」

 一旦、店員が奥へ消えたところで、こそこそと耳打ちしてきたランダは、何やらそわそわしていた。

「気にするな。俺が払うから」

「良いんですか?」

「ああ、俺の為でもあるからな」

「ありがとうございます、ジャック様。大事に着させて頂きますね」

「せいぜい、俺以外の男に汚されないように気を付けることだ。…それと、あまり町中で俺の名前を呼ぶな」

「どうしてですか?」

「それは…まあ、嫌でもそのうち知ることになるさ」

「はぁ…?」

 彼女が得も言われぬ疑問を浮かべているうちに、店員の男が戻ってきて、要望する品が並ぶ棚のところまで店内を案内された。

「そうなりやすと、この辺の物になりやすね。それと、それに合わせる帯が、こっちにありやす」

 着物というと、従来は袖や裾も長い印象があったそうだが、ヨーチオの洋風の文化など、別の国の文化も浸透し始めてきたことで、その凝り固まった印象を変える物が出始め、街に住む若い女の間で流行り出した。

 それがきっかけとなり、今では若い女ほど裾を短くした着物を着る傾向があり、洋服を着るよりは抵抗なく着れることから、それほど大きな街でなくとも、その傾向が根付いているそうだ。

 また、着物を仕立てるには、数日掛かるのが当たり前だったが、出来合いの物を売る洋服の文化が広まると同時に、呉服屋でもある程度大きさを分けて既製品を作り、店頭に並べて売るようになったらしい。

「私が選んで良いんですか?」

「ああ、好きにしろ」

 思わず、そう言ってしまったものの、あの服選びの感性では、また変な物を選びかねないが、ここに並んでいる物から選ぶ分なら、さっきよりは幾分かマシだろう。

 最悪、我慢できなければ、また口出ししてしまえばいい。

「じゃあ、これにしようかな」

 意外と早くに決まった着物は、黒を基調とした物で、襟首や裾などの端が髪と同じ紫色に染まっていた。

 彼女の持っていた服を思えば、随分趣向が変わっていて、どちらかといえば、俺寄りの好みな気もする。

「それなら、同じような色の帯の方が合いそうでやすね。はい、これ」

「どうですか?似合いますかね?」

「ああ、良いんじゃないか」

 試しに自分の身体にあてて見せてきたが、今に比べたら、格段に良いのは間違いない。

「一応、袖を通してみたらどうだ?」

「良いんですか?」

「へい、構いやせんぜ。どうぞ、こちらへ」

 品の無い笑みを浮かべる男についていく様子は、悪い男に騙されて売られていく女のようにも見えたが、彼女自身は至って楽しそうに頬を緩ませていた。

 彼女より先に男が戻ってくると、さらに下品な面をして俺の前にやってきた。

「今、着付けをさせてやすから、少々お待ち下さいやせ。へへっ…なぁに、心配いりやせんぜ。着付けをしてるのは、女ですからねぇ、ひっひっひ」

「その言われ方だと、むしろ怪しく思えるから、言わない方がいいかもな」

「へへぇっ、忠告痛み入りやす」

 楽しくない会話をして暇をつぶしていると、しばらくして着付けが終わり、ようやく彼女が姿を見せた。

「あの…どう、ですか?」

 着慣れない着物を身に付けているのは、不安なようで、頻りに身体を動かしていた。

 しかし、そんな彼女の考えは、杞憂以外の何物でもない。素材が良い上に、服もまともになれば、鬼に金棒というわけだ。

 暗い色の着物が色白の肌をより強調させて、屈めば中が見えてしまいそうなほど短い丈から伸びる細くしなやかな脚は、容易に男の目を奪う。

 帯の上に乗っかって主張する胸も、昔は悪しき考えだったらしいが、俺としては色気の無い真っ平らにされるより、この方が劣情を煽られて好ましく思える。

 ついでに、髪も弄ってもらったらしく、さらに綺麗に整っていたので、もはや一言の文句も付けようが無かった。

「そうだな…。強いていうなら、一緒に居ても恥ずかしくなくなった――といったところか」

「へへっ、旦那も素直じゃありやせんね…ぐふっ!」

 店員に余計なお世話まで掛けられる筋合いは無いので、腹部にちょっと拳を叩き入れ、鬱憤を晴らすと同時に黙らせた。

「んふふっ…。そう言ってもらえて、良かったです」

「ちなみに、なんでその色を選んだか、教えてくれるか?」

「簡単ですよ。黒は、ジャ…あなたとお揃いですし、紫は私の髪の色と同じというだけです」

「なんだ。その髪、元々その色だったんだな」

「ええ、そうですけど…。あっ…、あれの所為だと思ってたんですね。大丈夫です、違いますから」

 てっきり、毒に髪まで染められたのかと思っていたが、違ったようだ。

 よくよく考えれば、解毒薬のおかげで身体に現れた症状も消えたのだから、髪にも症状が出ていたのなら、もう抜けていて当然だ。

「お取込み中申し訳ないんでやすが、もしよろしければ、こういった髪飾りなんてのも、どうでやすか?」

 手加減したとはいえ、痛みが伴う腹を抑えながらも、ふらふらと髪飾りが並んだ棚を指差す男の商魂逞しいことよ。

 彼に免じて、もう少しだけ付き合ってやるとしよう。

「色々あるんですね…あ、これ可愛い」

「どれ、付けてやるか」

 自分で付けるのも難しいだろうと思って、彼女が言った暗っぽい色のリボンのような髪留めを適当に付けてやれば、店員がすかさず鏡を持って来る。

 この男、見かけや口はあれだが、商人としてはなかなか腕が立つようだ。

「あぁ~、よくお似合いでやすね」

 誰に対しても言っていそうな安っぽい台詞だったが、実際その通りでもあった。

 もちろん、無くても十分良いと思っていたが、あった方がより締まって、見栄えが良くなった気がする。

「うむ、悪くないな」

「じゃあ…、これもお願いして良いですか?」

「…まあ、良いだろう」

「へへっ、毎度ありぃ~」

 胡麻をする姿が妙に似合う店員が鼻についたが、良い買い物はできただろう。

「このまま着ていっても、大丈夫か?」

「へい。問題ないでやす」

 一度、元の着ていた服を取りに行く為に彼女が姿を消しているうちに、男の提示した額を支払うと、今度は軽い足取りで彼女が戻ってきた。

「へへっ、毎度ありやとございやしった~」

 最後まで不愉快な顔を浮かべる男に見送られ、新たな衣服に袖を通したランダと共に店を後にする。

 懸念を晴らす為の雑事も済ませたので、あとは収穫したキノコが入った籠を持って、例の少女のとこまで届けるだけだ。

 とりあえず、人に仕事を押し付けてきた少女の家まで向かいつつ、上機嫌の彼女と並んで町を闊歩していた。

 一応、行き違いにならないように、その少女の影が無いか探していると、不意に隣から声を掛けられる。

「ところで、なんでこの服だったんですか?」

 傷や毒から本来の美しさを取り戻し、さらに着飾ったことで、よりその様が際立ったランダは、純粋な瞳を向けながら小首を傾げていた。

 彼女が疑問に思う通り、この町で見かける人間の中では、着物は珍しいものではないが、洋服を着ている男女も多い。

「その方が、よりこの国の人間らしく見えて、違和感が無くなるからさ」

「なるほど。そこまで、お考えだったんですね」

 町を歩く人間たちにすっかり溶け込んだ彼女は、感服したように何度も頷いていた。

「まあ、確かに着物を選んだ場合、着方を覚えていないと、上手く着られないっていう懸念は少しあったが、着付けの仕方もなんとなく分かったか?」

「はい、大丈夫だと思います」

 物覚えは良いらしく、俺が着せてやる必要は無さそうだ。

「今の着物は、だいぶ簡易化されてるらしい話は、さっきの男から聞いたから、左側が前に来るように着て、後は帯が結べれば、最低限の格好はつくだろう」

「はい。ご迷惑を掛けないように、気を付けますね」

 ブヒ族の流行りや傾向かは分からないが、これまでの彼女の格好では、人間が集まる場では浮いてしまって、些か悪目立ちするということもあり、服を買い与えたのは事実だ。

 しかし、それ以外にも、単に自分が気に入らなったという私情が絡んでいたり、傍にいても違和感が無い姿にすることで、もう一つ別の意味での偽装をも果たせることが大きい。

 今まで、『切り裂きジャック』には同行者などいなかったのだから、女を連れ歩いているだけでも、その存在を思い浮かべる世間的な心象から大きく外れることになる。

 とはいえ、長い間一人でいたのに、突然それを覆してしまったことは自分でも不思議に思う。それだけ、彼女に同行するよう命じた今回の出来事は、異例なのだ。

「…でも、そのわりには、先程から結構視線を感じませんか?」

「ん…?おかしいな」

 警戒するように身を寄せてきた彼女の言い分通り、こちらへ向ける目は確かにいくつもあった。

 そして、その大半は男からのものであり、惚けて鼻を伸ばした者からの視線か、妬みを含んだ刺々しい視線ばかりだった。

 特に、彼女が身を寄せたことで、より敵意の籠った視線が増えたこともあり、おかげで理由をおおよそ察することができた。

「はぁ、そういうことか。要は、ランダが良い女だから、飢えた男どもが狙ってるのさ」

「そうなんですか?…きっと、昨日までの私なら、嬉しく思えたかもしれませんけど、今となっては鬱陶しく思うばかりです」

「今の私は、あなたのものですし…もうあなた以外の男性なんて、どうでもいいですから」

 そういってしな垂れかかってくる彼女は、まるで恋人のように頭を俺の肩に預け、さらに腕を絡ませて着物越しに膨らみを当ててくるものだから、当然周りの男からの顰蹙ひんしゅくを買った。

「…当たってるぞ」

「ふふっ、当ててるんですよ」

 一応、形式上の注意はしても、周りのことなど気にせず、二人だけの空間を作ろうとする彼女には、全くといっていいほど効果が無かった。

 歩きづらいという点はあるが、腕に当たる感触も悪い気はしない上に、優越感すら感じられたので、彼女の好きにさせることにした。

 どうせ女に押し付けられるなら、面倒な仕事よりもこっちの方が断然良いと改めて思いながら、さらに多く向けられた殺意すら感じさせる視線や波動を無視して足を進める。

「いやぁ~、フェリちゃんのおかげで、良い思いができたよ」

「ふふぅ、そうでしょそうでしょ?あたしも気持ち良かったし、お兄さんのこと…もっと好きになっちゃったかも?」

「そう言ってもらえると、またしたくなっちゃうなぁ…えっへへ」

「えぇ~。そんなにされたら、フェリの身体壊れちゃうよぉ…」

「だ、大丈夫だよ。優しくするからさ…」

「ホント?じゃあ、またお小遣いくれれば、もっとサービスしたげるからね」

「も、もっと…?デヘヘ…」

「やだぁ~。もう、何想像してるの、エッチぃ~」

 小道から出てくる男女が目に入り、見覚えのある少女を見つけたかと思ったら、だらしなく鼻を伸ばした冴えない男を相手に、くどいほど甘く媚びた様子で客引きをしていた。

 しかも、その会話の内容を聞く限り、既に今日の営業は終わったかのような口ぶりだ。

「…?どうされました?」

「あいつだ」

 急に足を止めたので、不思議に思ったランダは小首を傾げると、俺の視線を辿って、その先を見据えていた。

「少しだけ離れてろ」

「分かりました」

 突然声色が変わったことで、ただならぬ気配を感じた彼女は、大人しくその手を放して、一歩身を引いた。

 おかげで、歩きやすくなったこともあり、堂々と歩み寄って、逢瀬に見せかけた客引きの最中にも関わらず、声を掛ける。

「よう、フェリだかフェラリだか知らんが…やっと見つけたぞ」

「ん?」

「げっ!?」

 何事かと不審に思う男の隣で、少女は一人だけ露骨に嫌悪感を剥き出しにしていた。

 他人に頼み事をしておいた癖に、そんな態度を取るとは良い度胸だ。

 大方、別の男とも仲良くしていることを、他の顧客に知られたくないとか、そんなところだろう。

「誰だい、この人?フェリちゃんの知り合い?」

「う…うーん、まあ、そんなとこかな。ママのお姉ちゃんの子供の友達の隣の家の人…だったっけかな」

「えーっと、つまり…よく分からないけど…?」

「ま、まあいいの、気にしなくて。じゃあ、またね、お兄さん!」

「え、あ、うん。また…」

 カモを置き去りにして、逃げるように離れると、今度は俺の元へ近づいてきて、腕を引っ張りながら、耳打ちしてくる。

「こっち来て」

 さっきの客に対する態度とは、まるで違った鋭い視線を投げかけられて、にべも無い。

 呆然と立ち尽くして見送る男の姿を尻目に、仕方なく彼女の後へ続く。

 ランダもそれに遅れぬようついてきて、一行は人目のある大通りを避けるように小道へ回った。

 そこからさらに右へ左へ、町のことなど勝手知ったる様子で歩き回す少女の背中を追っていたら、気づけば全く人気の無い町の端の方まで来ていた。

 活気があって、あちこちから声が聞こえていた大通りと違い、風や木々が鳴らす自然の音くらいしか聞こえないような場所だった。

 廃屋や寂れた建物に隠れている為、視界も悪いので、子供が秘密基地や隠れ家として使っていてもおかしくはない。

「おい、そろそろ…」

「ありがとね、お兄さん。フェリの為に、キノコ狩りして来てくれたんでしょ?」

 振り返った少女は、一瞬ランダに睨みを利かせた気がしたが、そんなことが幻だったかのように、またすぐ媚び諂った表情を見せた。

「…押し付けた、の間違いだろ?」

「やだなー、もう。優しいお兄さんが、可愛いフェリちゃんの為にお願い聞いてくれたんじゃない」

 愛想を振りまく少女に流されもせず、厳しく言及しても、彼女はそれすらあしらう性根の悪さを見せた。

 しかし、ランダはすぐにどちらが正しいことを言っているのか理解したようで、体よく躱そうとする少女へ静かに敵意の籠った視線を向けていた。

「…あくまでもそう言い張るなら、それでいいさ。そのお前のお願いとやらの通り、ブヒ族の集落でしか取れないキノコを採ってきてやったぞ」

「わーい。なんだ、それならそうと、細かいことなんて気にしないで、早く言ってくれればいいのに」

 これでもかと笑顔を浮かべて、早々にブツの引き渡しを要求する少女へ、俺が持っていた布の被ったままの籠を渡す。

「ほらよ。しっかり受け取れ」

「もちろんろん。あれ…?でも、こんな籠だったかな…?まあ、いいや。どれどれ、お兄さんの働きっぷりをあたしがチェックして…きゃぁぁっ!?」

 包みを開いた彼女が、布にくるまれていた無数のキノコを目にした途端、飛び上がって驚き、悲鳴を上げながら、すぐに後退った。

「ははっ!そんなに喜んでくれたなら、こっちもわざわざ手間を掛けた甲斐があったってもんだ」

「な、何よこれ!?あたしが頼んだのは、こんなのじゃない!!」

 あまりの動揺に、媚びを売ることも忘れ、本性が露呈した少女は、信じられないとばかりに声を荒げていた。

「何言ってるんだ。正真正銘、これはブヒ族の集落でしか取れないキノコ、ゴリなんとかダケ――そうだな、ゴリブヒオダケとでも言おうか」

「う、嘘っ!?知らない!こんなの、あたしが知ってるキノコじゃない!!」

「お前こそ、嘘を吐くな。これは、お前が良く知るキノコだろう?上の口でも、下の口でもたくさん味わった…慣れ親しんだキノコのはずだ」

「バカ言わないで!あ、あんた、なんで…こんなもの…。それに、どうやって…っ!?」

「それこそ、どうでもいいじゃないか。せっかくだから、しっかり味見してくれよ」

 廃屋を背にわなわなと震える少女の首根っこを掴むと、容赦なくその場に叩きつけて、その背中に乗って取り押さえる。

「ランダ、縄を取ってくれ」

「はい」

 地面に這いつくばる無様な少女を目にしても、平然と受け答えて、言われた通り荷物から縄を取り出して準備するランダへ、助けを求める哀れな者がいた。

「ちょっとぉ!?あんたも、素直に従ってないで、助けてよ!あたし、この男に襲われてるのよ!?同じ女なら、分かるでしょ!ねぇっ!?」

「ええ、もちろん。ジャック様に仕事を押し付けるだなんて、失礼なことをするあなたが…如何に愚かな女なのかということがね」

 騒ぎ立てる少女に哀れみの目の向けるどころか、憎悪すら感じさせるランダから縄を受け取り、生意気な餓鬼の腕を縛り上げる。

「イ、イタっ!…ねぇ、今ジャックって言った?もしかして、あなたが…切り裂きジャックだとでもいうの!?」

 知りたくなかった真実に手が届いてしまったことで、彼女の顔は一気に青ざめてきた。

「さあ?どうだろうな。そもそも、俺は名を名乗ったことも無ければ、その名も勝手にお前らが呼び名を付けたものでしかないからな」

 切り裂きジャック。

 いつしかそう呼ばれ始めていて、名前など持たなかった俺も、面白がってその名を使うようになった。

 ジャックは訛ると邪悪とも取れて、『切り裂く邪悪』ともなれば、ある意味俺にピッタリだと感心し、名付けた者へ賞賛と共に死を送りたいものだと思ったこともある。

「や、やっぱり…あなたなんじゃない!うそっ、やめてよっ!酷いことしないで!お願い!なんでもするから!!見逃してよぉっ!!」

「そんなに大きな声で喚かなくても、取り決めを交わして、俺がお前のお願いとやらを完遂した時点で、お前がなんでもするのは決定事項だ」

「そんなの…、ただの口約束じゃない!本気にするなんて、誰も…ぅっっ!!?」

 まだ生意気な口を叩く顔を握り締めて、強制的に話を止めさせた。

 こいつが俺についてどんなことを聞いているのかは知らないが、死の恐怖を目の当たりにして、恐れ戦く姿は俺の心を昂らせる。

 なぜか自分の方が上の立場だと確信し、主導権を握ったつもりで偉そうに驕っていた少女が、今は真の立場を理解し、情けなく助けを請う立場になっているのだ。

 この無様な姿を見て、呆れることはあっても、興奮するなというのは無理な話だ。

「それはお前の理屈だ。お前がお前の理屈を主張するなら、俺は俺の理屈を主張する」

「お前が口約束だと軽んじ、俺が本気で捉えていたように、相容れない意見であれば、お互い無かったことにするのも一つの手だが、既に俺が一方的にお願いを叶えてしまった以上、もうただの口約束では済まされない」

「それでは、あまりに一方が損をするばかりで、不公平だからだ」

「しょんにゃこといぁりぇへも……」

「もし、不公平だからといって相手にも要求すること自体に異論を唱えるというなら、最初からお前の頼みなんてものを聞かずに、こうして力でねじ伏せることもできたのを忘れてもらっては困る」

「しょぅはいっへにゃいりぇふ…」

 聞き取りづらいが、まだ文句を言う諦めの悪い少女へ、さらに言い詰める。

「それとも、何か?俺が悪事を働いているというのなら、取り決めた事すら守れないお前如きが正義を語るとでもいうのか?」

「はっ、笑わせる。だったら、しっかり要望を叶えてやった俺の方が、まだ正しい行いをしていると思わんか?なあ、ランダ?」

「はい、全くその通りかと」

 傍で事の成り行きを見守る彼女に問いかけてみれば、一部の迷いもなく頷いて、狂気に歪んだ顔から怪しげな笑みがこぼれた。

 ブヒ族の里で見た光景と、それに伴う俺の認識が間違っていなかったことを示すようなその姿を改めて見ると、彼女を同行させた判断は妥当だったと再認識させられる。

 かつて、これほどまでに俺の意見へ純粋に共感する者などいなかったのだから、それも至極当然の話だ。

「そうだろう、そうだろう。ならば、取り決め通り、要望と共に提示された対価を彼女から貰うのも、何ら問題は無かろう?」

「はい。ジャック様の仰る通り、当然の要求かと思います」

「うんうん。第三者の方が、当人よりもよく分かっているようだな。彼女の言う通り、これは正当な要求だ」

 しかしながら、この少女に限らず、似たような言い分をする者たちは数えきれない。

 彼女を見ていると、これまでに出会った同類の事まで頭に過ぎって、ついつい手に力が入ってしまう。

「全く、それなのにお前みたいな奴らときたら、さも自分が正しい様に主張して、他人が悪事を働いたかのように吹聴して回るのだから、もはや救いようが無い」

「こちらは、お前らと交わした取り決めに沿って順守しているというのに、よくそんな横暴な主張をした上で、悪びれもせず正義面をしていられるものだ」

「いひゃぃ、いひゃぃぃっ!!」

 もはや、八つ当たりにも等しいが、それを彼女が甘んじて受けるのも仕方のないことだ。自ら「なんでもする」と言ってしまったのだから。

「人間も、なんと愚かな…あ、もちろんジャック様は例外ですよ。全く、嘆かわしいことですね。心中お察しいたします」

 一歩たりとも少女の味方をしようなどという素振りすら見せないランダは、おそらく本気で思っているからこそ、そう主張しているのだろう。

 俺から特に指示したこともなければ、恐怖を以って支配しているわけでもない。

 仮にそうであれば、大抵その者の目は、恐怖や畏怖に駆られて暗黒が渦巻いていたり、動揺が見て取れるが、彼女の目には狂気こそ宿っていても、そういった傾向は見られなかった。

「ごみぇんなひゃい、ごみぇんなひゃい…。ゆるひて…ゆるひてょぉ……」

「対価として、なんでもする。そう、あと一生のお願いとも言っていたな。ならば、その一生分の対価を払ってもらうとしよう。くくく…このツケはでかいぞ」

 恐怖で身を震わせる少女の前にナイフを突き立て、服を切り裂いていく。

「やらっ…、やらぁっ!やめて、やめてぇぇっ!」

「動くなよ。暴れると、肌まで傷つけることになって、もう売り物どころか、引き取り手がいなくなるぞ」

 腕を縛られて身動きを封じられ、こういう時ばかり子供なのだと都合良く弁明するかのように泣き喚く少女の姿は、あまりにも惨めで無様なものだ。

 女子供であろうと一切容赦しない俺に対して何の効力も無く、むしろ苛立ちや興奮を覚えて助長させてしまう結果となり、泣き喚いたところで誰も助けてなどくれない。

 徐々に露わになっていく白い肌は、一見綺麗なものだが、おそらく小遣い目当てで身体を売り、複数人の男の手垢塗れであろうことを考えると、穢れてさえ見える。

 そう思うと、余計遠慮はいらないと思えて、綺麗に着飾った衣服を剥ぎ取り終わった生肌へ、無神経に手を伸ばす。

「やらぁっ!イタっ、痛いっ!せめて…もっと、優しくしてよっ!」

「お前が、そんなことを言えた立場か?」

 若い女にしては、そこそこ大きさがありつつ張りもあるが、いざ直に見て実感した感想は、こんなものか――という程度のものだった。

 パラミの言っていた女がこいつなら、安く売っていたという話でもあるので、ある意味自分の価値を分かっている妥当な値段設定といえよう。

「ランダ、ちょっと…」

「はい。何でしょう?……ぁ、んふっ」

 手招きして彼女をすぐ傍に呼びつけると、着物の内側へ手を滑り込ませて、二人の身体を揉み比べてみれば、やはりランダの方に分がある。

 さらに、突然秘部を触られたにも関わらず、少女と違ってうっとりと受け入れる表情を見せた彼女が、少女に劣るところなどあろうはずもない。

 とはいえ、ものは考えようだ。こいつでも、愉しめるように趣向を凝らせば、それなりに愉しむこともできよう。

「さあ、そろそろ、その口でしっかりと味わってもらおうか」

「いやぁっ!やめてぇ、イヤっ、イヤあぁぁぁぁっっ!!」

 最後の砦として残された短いスカートが捲れて、派手な色の下着が見えてしまうのも構わずに、まだ動かせる足をジタバタさせて藻掻くが、そんなものは何の役にも立たない。

 ほとんど抵抗できない彼女の首根っこを掴んで、臭く汚らしいキノコが敷き詰められた籠の中へ、顔面から押し入れた。

「んぐぅ!?んんぅ!むぐぅ!?!むごっ、んごっ、ぐふぅぅっ!!」

 無様に品の無い声を上げる姿は、女としては終わっているが、尻軽の下品な女には実にお似合いだ。

 顔面いっぱいにブヒ族のキノコを味わい、さらに足を暴れさせるが、構うことではない。

 まさか、彼女の大好きなキノコに囲まれているのに、汚いとか臭いとか、そんなことを思っているはずもないだろう。

「これでも、俺はお前に感謝してる部分もあるんだ。ある意味、ランダと出会えたのは、お前のおかげでもあるからな」

 彼女に頼まれなければ、わざわざブヒ族の里の方まで行く予定は無かったので、そう意味では彼女のおかげといっても過言ではない。

「だから、礼としてお前が好きなキノコをたくさん採って来てやったんだ。存分に味わってくれよ」

「それなら、私からもお礼をしてあげないといけませんね」

 なかなか良い笑顔を浮かべるランダは、藻掻き苦しむ少女の頭が入った籠に手を伸ばして、数本キノコを拾い上げると、丸見えになっていた彼女の下着を下ろし、皺の寄った穴へ3本まとめて無理矢理捩じり込んでいく。

「んぐおぉぉっっ!?あがっ、ぎっ、ひぎっぃっ!?」

「ほらほら、まだまだいっぱいありますから。たくさん味わってくださいね」

 同じ女のはずなのに、全く容赦しないランダは、まだ3本とも収まり切っていないのにも関わらず、既に追加の4本目を入れようとしていた。

「これは…我ながら、とんでもない拾い物をしてしまったかもしれないな」

「ふふっ、お褒め頂きありがとうございます。ジャック様のお手伝いができて、私も嬉しく思いますよ」

 ますます良い笑顔を浮かべながら、4本目諸共グリグリィっ!っと力任せに捩じ込んでしまった。

 綺麗な顔をした見かけによらず、なかなかできたお嬢さんである。

 おかげで、お礼のキノコを存分に受け取った少女は、ヒクヒクと尻を震わせていた。

「さあ、ジャック様。私からのお礼はこれくらいにして、ジャック様も存分に愉しまれては如何ですか?」

「ああ、そうしようと思っていたところだ」

 すかさず、とっておきのキノコを取り出すと、まだ空いていた少女のもう一つの穴へ宛てがう。

「んんんぅぅっ!?んぐっ、ぐぅぅっ!?ふんぅ、ふんんぅぅぅっっ!!?!?」

 そして、言葉にならない叫びをあげる少女に構うこと無く、そのまま押し進めれば、思った通りずっぽりと簡単に入ってしまう。

 一方が4本も入っているのに、こちらが1本だけでは物足りないかもしれないと思い、キノコを咥えた少女の腰を掴むと、それを補う為に、さらに奥まで捩じ込んだ。

「んぐっ、んっ、んぅっ!んんぅぅっ!!」

 たっぷり味わえるように、何度も出し入れを繰り返していけば、少女も喜びを表すように声を上げていた。

「あはぁぁ……。ジャック様、すごく逞しくて…男らしいですぅ……」

「お前が発情してどうする」

 傍に控えるランダが、一番艶めかしい姿を見せていたので、思わず鼻で笑ってしまった。

 何をどうこうするつもりも無いみたいだが、熱っぽく頬を赤らめて、呼吸が荒くなっており、その手も自身を慰めようとしているのか、自然と秘部に伸びている。

 そちらに気を取れそうになりながらも、少女の腕を引いて籠から引っ張り上げると、その顔は涙とキノコのおかげで、すっかり赤黒く穢れてぐちゃぐちゃになっていた。

 数多の男に媚びを売って取り繕っていた彼女にとって、相応しい顔になったともいえるだろう。

「やめっ、てぇ…!やべてよぉ…もう、許してぇっ…!!」

「ランダ、まだ足りないそうだぞ。口いっぱいに入れてやれ。なんなら、鼻からもだ」

「はいっ、お任せください」

 手が離せない俺に代わって、無慈悲な助手が少女の口へ無理矢理キノコを詰めていく。

「はーい。お口を大きく開けて下さいねー。はい、そうです。その調子で、いっぱい食べて下さいねー。ここにあるキノコ、全部あなたのものですから」

「ふぐぅ!?んぐぅ!?んぐ、んぐぅぉぅっ!!!」

 口に収まりきらなくとも、まだまだ詰められていく様を見ていると、そのうちろくに息もできないほど、身体中をキノコで満たされて、昇天してしまいそうな光景すら目に浮かぶ。

 他人に仕事を押し付けて、自分は男漁りをするような女には、実にお似合いな光景だ。

 せいぜい、一本一本を噛みしめる様に、じっくり味わうがいい。


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