悪魔と黒猫
何がヤッホーだ…。
こいつ、観光気分か?腹立たしい。
「ヤッホー!!」
「…。」
「ヤ・ツ・ホ・ウ!!」
「うっせーなぁ、何なんだよ。」
「だって、山じゃん。」
「…意味が分からない。」
「知らないの山彦?山の神が声マネして返事してくれるんだよ。」
「言葉の意味は知ってるよ。なんだそのテンションは。」
「いやぁ~、最初は山の中の寂しそうな国に行くって言ってたからさぁ、気落ちしてたけど、開けてびっくりだよね。あんなに魂を食べれるとは思わなかったよ。うんうん、ケント君に憑いてきて正解だね。」
なんてことを爽やかな笑顔で饒舌に言い放つこいつ(サキ)は心底悪魔なんだなと思う。
サキとは対象的に彼女の喜ぶ顔を見て、自分が行った行為を思い出し、微妙な表情になってしまう。
「…そうかよ。」
「なによ、今更、そんな顔して、あなたが決めて、関わったから起きたことでしょう?」
「…まあ、一部はな。」
「それよりも、どう?使い魔の調子は?」
俺は黒猫の頭を撫でながら答えた。
「ああ、こいつか?良くやってくれてるよ、お前の勧めてくるものにしては。」
「そう?ってやや聞き捨てならないこと言われたけど、まあ、良いわ。そう言えば、その猫の名前は何にしたの?いい加減に教えてよ。」
「…まあ良いじゃないかそんなことは。」
「ふ~~ん、そうなんだ。」
「何だよ。」
「まあ、知ってるんだけどね、ず~~っと前から、ねぇ、マール。」
そうサキが言うと、猫はサキの方に振り向き、鳴き声で返事をする。
「…。」
「いつも通り可愛いな、マールは。」
「おい。」
「いい子だなマールは。こっち来な。」
「よせ。」
「ああ、マール。僅かな一時でも、会えないだけで寂しかったよ、マール。」
「…最悪だ。」
「なんてことはしてないのは知ってるわよ。」
「もう完全に筒抜けですよね。」
「マールが本物だったら良かったのにね。」
「いやいや、猫の名前だからな。猫、本物だから。」
「猫の名前でもあるだけだよねぇ〜☆」
性格の悪さが滲み出ているにやにや顔で悪魔がそう言い放った。
マジで勘弁して欲しい為、無理やりに話題を変える。
「そ、それよりも、今日はなんだ。用件を言いやがれ。疲れてんだから、早く寝させろ!」
「はいはい、今日は敵国の将軍の情報よ。拠点の~」
サキとの関係は2年前の独房から少し変わった。相変わらず食えないヤツではあるが、今のところ、俺のサポートをしてくれるようにはなってきた。銃の改造なんかも、サキがいなければ、もう2年は掛かっていたかもしれない。
「~、だから、しばらくは動かないかなぁ。」
「成る程、ありがとう。サキさん。」
「べべべ、別に大したことないし、余裕だし。」
最近、こいつの扱いにも馴れてきた。罵倒、嫌味なんかのあまり良くない感情の言葉は喜ぶが、褒められるのには慣れていないようだ。
「そんなことないよ。サキさん。いつも助かっているよ。ありがとう。」
「いいから、そういうの。…笑い方に悪意を感じるけど気のせいじゃないわよね。」
意外と勘が良いので悪用禁止である。
「本心ですよ。用が済んだんならもう帰れ、寝る!!」
「アンタの方が悪魔なんじゃないの、ふふふっ。良いのかしらねぇ。今日は愛しのマール王女様の情報もあるんだけど、でも、疲れてるみたいだし、帰るわ。」
「まあまあまあ、ゆ、ゆっくりしていきなよ、サキさん。なんか目が冴えてきたし。」
「いや、悪いし。」
なんて、少しも思っていないことをにやにやしながら悪魔が言う。
「悪いヤツだなホントに、…すみません、こんな何の価値もないバカ野郎にお話を聞かせて下さい、サキ様。」
「まあ、良し…。今日は、ピアノの稽古をしていたわ。例の家庭教師(知的なイケメン)と一緒に。」
「ぐぬぬぅ、ダメだ、歯噛みが止まらない。そして、そのしてやったりな、お前の顔!!」
「大丈夫よ、誰だって火遊びくらいするわ。」
「なぜ、そういうこと言うの。」
「大丈夫、大丈夫。お付きの兵士(体育会系イケメン)や執事が見張ってるし。」
「地雷しかない。」
「例の弟君(弟系イケメン)も熱い視線を送ってたわよ、義姉に。」
「何気にそいつが一番マズイ気がするんだよなぁ。」
「まあ、通常通りよ。あっ、それとまた、姉の一人が嫁ぐことになったわよ。」
「そ、そうか。」
「後、何人いたっけ姉?」
「三人かな。」
「ふ~ん。」
「相変わらず、悪そうな顔するよな、君は。」
「まあ、その顔が見れたし、帰るわ。また月の輝く夜に、バァ~イ。」
「…。」
この時代の権力者の子供は、権力を守る者達同士を強く繋ぐパイプとして使われる。
カードで言うと、強力な手札だ。
数に限りがある為、ここぞという場面でしか使用されない。
だが、このカードは生きている。時間が経てば価値が下がる可能性もある慎重さを要する武器でもある。
ただ、使用する最適な時期はいくつか決まっている。その一つが自身に脅威になる存在が現れたときだ。
世界は広く、一つの力だけでは活き抜けないのだ。
王道なロールプレイングゲームのように強大な力を持つ魔王を倒したら、姫様と結婚できるような単純な世界ではない。
魔王は複数人いて互いを牽制し合っている。
一人の勇者が一人の魔王に挑んでも、その勇者を脅威と感じた他の魔王達が争いに加勢し、勇者が袋叩きにされる可能もある。
だから、今時の勇者は敵対する魔王以外の魔王を敵にまわさないようにする必要がある。
今の俺は勇者とも魔王とも思われていない無名の存在だ。
物語の登場人物としても認知されていない。
この戦いで名を上げる。
それが第一なんだろうと改めて認識した。
面白いと思って頂けたら、嬉しいです。
しばらく作品をアップ出来そうです。
道 バターを宜しくお願いします。
他にも作品をアップしています。
作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかります(笑