黒い将軍
銃の知識は付け焼刃ですのでお手柔らかにお願いします…。
2年の時が経った。そして俺は戦場にいる。
晴れ渡った空に一面灰色の大地、疎らな緑、険しい山々、深い崖。
旅で訪れていたら、感嘆した雄大な景色の中、物陰に隠れながら、灰色のコートを被り息を潜め、敵を待つ。
不意に一羽の黒い鷲が鳴き声を上げ、呼応するように一発の銃声が短く鳴いた。
敵兵が谷と崖に挟まれた険しい峠を行軍し、山頂付近の見晴らしの良い場所に出て、心持ちしていた瞬間だった。
遠くで馬に乗った周りの兵士達よりも身なりの良い指揮官らしき騎士が倒れている。その影響で騎士が乗っていた馬が制御を失い、慌て、周りの兵士にぶつかり、踏みつけながらどこかに逃げていく。
やや混乱している集団に次々に銃弾が襲ってくる。
混乱を収めようとしていた指揮官が次々に倒され、混乱が拡大していく。
進行方向には足を引っ掛けそうな小さな穴が無数に掘られており、急いで前進することを威嚇する。
銃による狙撃への恐れと指揮官の命令をも失った兵士(主に農民)達は前進の恐怖から、後方に退却しようとするが後進の部隊にぶつかりさらに混乱状態が高まる。
そんな地獄のような光景にさらに地獄が降ってくる。
槍を持った集団が一斉に崖を降り突撃してきたのだ。
鳥の鳴き声さえも聞こえていた程、静かであった峠が今は雄叫びと悲鳴で溢れかえっている。
胸や腹、足を貫かれ絶命する者、方向転換も出来ず味方に倒され踏まれ潰される者、谷に転がり落とされ谷底に消えて行く者、負傷するも必死に逃げようとする者。
戦いは1時間後には終わっていた。
残されたのは物言わぬ死体と捕虜となった数十人の兵士だけだった。
上空には鷲が群れ、食事の時間だと騒がしい。
と、その中のやけに黒い1匹が獲物を見つけたというばかりに高速に降下し、俺を襲ってきた。
俺は捕まえていたネズミを放り投げ、鷲はそれを爪で掴む。
普通の鷲であればまた上昇し巣に持ち帰るのだが、そいつはそのまま地上に降り、その場で喰い始めた。
そして、食事を済ました後、こちらを向いたそいつの顔は猫になっていた。
大きな翼を広げ伸びをしたかと思うと翼が靄に包まれ前足になり、その前足を使い腕立て伏せのような姿勢になったかと思おうと伸びをし、爪が後ろ足になり、身体を振るわせると鳥の尾が猫の尻尾になった。
一度、座り、耳の裏を後ろ足で掻いた後、甘えた声を出し近寄ってきた。
暗に誉め称えろと言われている。
頭と顎下を撫でるとゴロゴロ良いながら王様のように振る舞っている。
端から見ると猫と触れ合う暇そうな奴に見えたのか、全身黒い装飾でフルフェイスの騎士が現れ、やや苛立ちながら声を掛けてきた。
「私が戦の後処理をしているころ、傭兵様は猫と戯れるのに忙しかったと見える。」
「いえいえ、そんなあ、ストライテン将軍殿。分かっては頂けないかもしれませんが、これも仕事の一部ですよ。」
「そうか、なら私が代わってやろう。ほら、その猫を寄越せ。そして、代わりに穴を掘れ、敵国のやつらが遺体の受け取りを拒否しやがったせいだが。」
「はあ、すいません、猫の番を代わるのも出来ないことでして、なんせこいつは私以外には懐かん奴ですので、すいません。」
「そうか、傭兵。なら、穴を掘ってから、世話をしろ、行くぞ。」
「…了解です。」
しぶしぶ、後について行き、生臭い血の匂いを嗅ぎながらシャベルで穴を掘っていく。正直、戦闘しているよりも精神的にも肉体的にも疲れた。
ここは山岳地帯にある国だ。正式名称が長い為、マセナ国と俺は言っている。国としての歴史は長く、街のそこらにある石造りの堅牢な建物が質素・倹約という感じを与えてくるが、平地が少なく、農耕に適さない、リアルに質素な国でもある。
俺はそこに傭兵として雇われた。
牢屋から釈放された後、兵役は全うしたが、軍には在籍しなかった。
実家にも戻っていない。
マールに会う為の近道に感じなかったからだ。
俺は国が勧めるいくつかの仕事の一つである傭兵になった。
ケント爺の初恋を叶えるためにも情報を収集する中で興味に上がったのが功績をあげ、他の国の武官・騎士になった傭兵もいるという情報を知ったからだ。
ただ、傭兵になるにしても問題が一つあった。
ケント爺は運動神経が悪いのである。
単純な腕っ節では成り上がれないだろう。
だがその点は、前世の記憶もある俺である。以後の時代に重要とされ、爆発的に花形武器となる兵器である銃に目を付けた。
ただこの時代の銃には不人気なりの理由はあった。
銃は殺傷能力が高く、弓矢を防ぐ甲冑であっても銃弾を防ぐことが出来ない。
ただ、その反面、弱点も多い。
真っ直ぐに中々飛ばない為、精密射撃に向いていない。
雨や風気象条件に左右され、条件が悪いと、そもそも使用出来ない。
弾丸を一発撃った後、弾丸を再度込めるまでの装填時間が掛かる。
火薬、弾等に消耗品に金が掛かる。などだ。
ただそのような問題は、俺が生きていた時代にはあまり問題とは言えない「コト」になる。
銃の進化にも歴史があるからだ、解決策は知っている。
軍では主力で使われる銃身内に溝がないマスケット銃ではなく狩猟で使われる銃身内に溝のあるライフル銃と弾丸と火薬を入手した。
溝が重要で、この機構によって銃弾に旋回運動が起き、真っ直ぐに飛び易くなっている。
弾丸と火薬から紙製の薬莢を自作し、それによって銃自体の点火方法を見直した。また銃を改造し、弾丸を込め方法を銃口側から点火する位置まで銃身内を通していちいち押し込む前装式から点火位置上部を開き、弾込めする後装式に改造し、弾丸の交換の為にボルトアクションを追加した。これで弾込めの所要時間短縮と多少の風雨対策が出来た。
付け焼き刃で技術力はあまり高くはないが、ゼロから作るよりはマシという発想の元、兵役時から詳しい人に教えを請い、コツコツおよそ2年を要して準備をした。
ただし、薬莢等の消耗部品の費用面の問題は未解決ではある。
前世でのFPS(リアルな兵士目線で主に銃火器をぶっ放す)ゲームに一時期どはまりし、にわかながら銃に関して勉強し、憧れていた影響もなくはない。
その後はゲームとリアルとの違いを埋めるのにだいぶ時間を要した。
特にリアルに人がお亡くなりになる事実に…。
あと、ブレイズだが、俺とは違い予定通り、軍に残った。
元気にしていれば良いが…まあ、あいつなら大丈夫だろう。
お互いの将来の道筋を語っている時に
「軍の正規兵か、無事に生き延びろよ!!」
と声を掛けると
「大丈夫、大丈夫。ケントより危ない橋は渡らないから。」
と言われた。
傭兵の心配と言うよりは、王女に惚れた事を心配されている気はする。
…まあ、そうだよな。
面白いと思って頂けたら、嬉しいです。
しばらく作品をアップ出来そうです。
道 バターを宜しくお願いします。
他にも作品をアップしています。
作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかります(笑