マールからの手紙
今現在、独房で反省させられています。
もうどうしようもありませんが、最悪、処刑もあるかもしれません。
万が一、ここを出られても、悪評で軍にもたぶんいられません。
初恋の代償にしては重い、…です。
それにしても、ケント爺はなぜ、あんな地位の人を好きになってくれたんでしょうかね。
そして、王女となぜ言わなかった悪魔が!!
あ、…悪魔だからか。
今日の日も含め、転生初日と同様に夢落ちであればと思っていると独房の小さな明かりとりの窓から月明かりが差し込み、あいつが現れた。
「どうケント君の初恋の人は?」
「…。」
「この前会ったときと違って、元気がないわね。…王女ってのがグッときた?」
「…グッとってなぁ。」
「姫様との恋愛ってのが物語での王道なんでしょ。」
「…まあ、まあ端から見たらな。でも、よきせぬ現実だと重いな。」
「で、なんでこんなとこにいるわけ?」
「…、王女をさらったと思われてる。」
「ぷっ。」
「笑うなよ!!」
「まあ、知ってたんだけど。」
「おい、なら聞くなよ!!」
「人の不幸は蜜の味。」
「悪魔が!!」
「だから、そうだって。で、どうすんの?諦める?」
「…やけにあおってくるな。」
「まあ、私はどっちでもいいんだけどね。」
「…。」
「組織の先輩は最後まで足掻いた後に何もかも絶望した人間の魂が美味しいのよね。て言ってたし食べてみたいかな。」
「人をなんだと思ってんだ。」
「栄養、かな。」
「そうかよ…。」
「…。」
前世の俺はどこか、人生に冷めているところがあった。多くを求めず。手の届く範囲の欲望に手を伸ばし、満足していた。今までの俺であればもう限界なのかも知れない。ただ、そんな俺でも一つ譲れないことがある。
人様に迷惑を掛けないこと。
昔から両親には口すっぱく言われてきたこと。この教えを守ることはもう戻れないであろう現世との繋がりをも無くすことになるんじゃないか、と勝手に思っている。
今の俺は一人の存在ではない。精神は俺のものだが、身体はケント爺のものだ。
今、ケント爺に壮絶に迷惑を掛けている。
だから…
勢いよく自分の両頬を叩いた。
「!?なに?」
「いや、なんとなくだ。それより、今更だが何し来たんだよ。ただ俺を笑いに来たんじゃないんだろ?」
「…まあね。」
「なんだよ、言えよ、ここから出してくれんのか?」
意地の悪いニヤけ面で悪魔が言ってくる。
「それはあんた次第よ。で、どうするのよ。相手は姫様よ。」
「そんなもん、相手が根負けするまでアピールするだけだろ?」
「はあ…。」
「なんだよ。」
「この時代の有力者と平民は同等には扱われてないのよ。分かる?」
「ああ。」
「格ってもんがあるのよ。今のあんたじゃ、誰も認めないわ。それに会うのだって大変なんだから、ましてや、普通だったら直接やり取りなんてできない。今のあんたは前の世界で言えばアイドルや芸能人に一目惚れした、ただのファンよ。」
「…分かりやすいな。」
「どうも。で、どうするの?」
「う~ん、偉くなるとか?」
「まあそれもあるわね。でもまだ方法があるでしょ?」
「うん?う~ん、君たち悪魔が喜びそうな方法だと…、不祥事や犯罪なんかで王族の品格を下げるとか?」
満面の笑みで握り込んだ右手の親指だけを立てながら悪魔が言う。
「いいね!!」
「良くねえ!!」
「なんでよ、それくらいならいくらでも協力してあげられるわよ。誘惑♡・籠絡♡・懐柔♡」
「まあ、でもこの際、手段は選べないよな。」
「うんうん。」
「でも、こっちから切っ掛けを作るのは好きじゃない。不祥事の種があるなら、それを調べて教えて欲しい。脅しの材料として。」
今日一番の笑顔で悪魔が言った。
「めんどい☆」
「いやいや、そっちの方が自然だろ?火のない所に煙が立つのが不自然なんだよ。あと、お前に任せると無茶苦茶にしそうだしな。」
「へへへ。」
「誉めてねえ…、で、引き続き、姫様を落とす方針ですが、今後、私は生き延びれますかサキさん。」
「う~ん、そろそろかな、じゃあ!!」
「おい!」
霧のようにサキが消えた。
相変わらず、読めないヤツだ。と思っていると靴音が近づいてくる。
じょじょに音は大きくなり俺の独房の前で止む。
「出ろ。」
そして、乱暴に連れ出される。
これどっち?処刑?なんて考えていると暗い場所から明るい場所に急に連れてこられ、視界が真っ白になり思わず顔をしかめる。
そこには机と椅子があり、照明をバックに後光がさしているように見える禿げてやたらと腕が太いおっさんが座っていた。
その後ろには二人の看守が立っている。
視界がはっきりしてきた。
改めて、部屋を見渡すと、水の入ったデカイ桶と滑車のついた頑丈そうなロープ、壁に固定された手錠に鞭、ギザギザの板とその上に乗っている四角重石、何かを引っこ抜く為のペンチ…、拷問器具がところ狭しに並んでいる。
干されるのかな?物理的に。
鏡で見なくても分かる。俺の顔は死んでいるに違いない。
対照的に禿げたおっさんは笑っている。
「良い顔だね。驚いただろ?ここにあるもの私のコレクションだよ。たまぁ~に使ったりもする。まあ、とりあえず座りたまえ。」
「はあ。」
「申し遅れた。私はここの長をしている。名はニッキーという。」
「ケント・タイラーです。」
笑顔のまま、男は語る。
「うむ、若いな。それにしてもケント君、大それたことをしたね。来賓で来た他国の王女をさらうなんてね。外交問題だよ。最悪、戦争だよ。大量の血が流れるよ。」
「…。」
「どうしたのかね。何か申し開きがあるんじゃないのかね。どうやって王女をさらった。何が目的かね。」
「…。」
小振りの鞭を振りながら男は部下に指示を出す。
「はあぁ、君たちは下がりたまえ、二人きりで話しがしたい。」
「「はっ、所長。」」
敬礼し、看守が去った。
「さて、…もういいかな。ケント君。楽にしたまえ。」
「…。」
「どうやら、手違いがあったようだ。王女からはそう聞いている。が、部下の手前、下手にはでれんのだ。ままならんな。」
鞭を机に置き、そう語るニッキー。
「はあ、そうですか。よかった。」
まったく…、気が抜ける。
「だが、王女が襲われたのは事実だ。彼女を保護した際、不審な人物はいなかったか?」
「えぇ!?それ本当ですか!?…特には見ていませんが。」
「そうか、だが、調書は取らせてもらう。」
それから、王女と会った経緯を話した。
「へぇ~、うっそぉ、マジでそれでそれで。」
「いやぁ、ベットに寝かして、濡れたコート脱がして、白いシャツが透けてて…。」
「うそうそ、それでそれで、なんかしたの?」
「慌てて、シーツで隠しましたよ。なにもしてません。」
緩みきった思考で余計なことまでしゃべった気がする。
「そうなの?…まあ、本当らしいな、嘘ならもう少し冷たい床で反省が必要だが。」
目を見ながら真偽を見定められている。先ほどまでオネエ言葉だったとはとても信じられない。
「本当です。すいません。」
「まあ、良いだろう、だいたいの話は聞けたし、もう帰っても良い。っとその前にコレを。」
男がジャケットの隠しポケットから封筒を取り出し、机に置く。
「コレは?」
封筒を手に取り、差しだし人を確認する。
「マール王女からだ。後で読むと良い。それでは外まで送らせる。」
ニッキーが看守を呼び、「二度と来るな。」という捨て台詞と共に建物から追い出された。
月明かりの中、雨上がりの湿った道をとぼとぼ歩き、寮の部屋に帰る。
荒らされた部屋を見て、ため息をつき、ある程度部屋の家具などを整理をした後、備え付けの椅子に腰掛け封筒を開く、中には上品な文字が並ぶ手紙が入っていた。
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ケント・タイラー様
今この手紙を読んでいるということはあなたの誤解が解けたということですね。本当に良かった。そして、本当にごめんなさい。ただ、あなたの無償の善行に感謝を伝えるべく、ペンを取りました。心からありがとう。
今日の私はどうかしていたみたいです。領地以外の街に来ること自体が初めてで気持ちが高揚し、好奇心から護衛とはぐれてしまったのがあなたに迷惑を掛けた原因だったと今は反省しています。
ですが、その結果、世間の一端を知る良い勉強になりました。殿方はあのように女性に声をかけるのですね。
…冗談です。
今日中にこの国を出ることになり、今回のお返しが何も出来ませんが、我が国に来た際は是非、一度私をお訪ね下さい。お待ちしております。
最後に、あなたの人生に幸あらんことを神にお祈りし、ペンを置きます。
追伸 余計なお世話かもしれませんが、あの口説き方では女性は靡きませんよ。もっと恋愛の経験を積んで下さい。
なんちゃってฅ^•ﻌ•^ฅ(手書きの猫の顔の絵)
マール・ロート・ブランシェ
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何度か手紙を読み返し、顔を上げ、彼女の国の方角を調べ、旅の無事を祈る。
そして、彼女が眠っていたベッドに飛び込み左右にゴロゴロと転がりながら、明日から猫を飼おうと思うのだった。
マール、今日はケント爺の初恋の人に会う日だと思っていたけど、違った。
マール、僕も君に恋をした。
面白いと思って頂けたら、嬉しいです。
これにて1章が終わりです。
2章からは別のヒロイン(2名程)がで出来ます。
特に地味な方が中々の出来であると自己評価高めで思っております(笑
引き続き、読んでやるよと思って頂けましたら、下にある評価で表して頂けると非常に励みになります。
道 バターを宜しくお願いします。
他にも作品をアップしています。
作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかります(笑
U木O原シリーズなどサクッと読めますので良ければご一読下さい。