完全ナンパマニュアル上級者編
「宿はどこか取ってるの?」
「取って、ない。」
「顔を赤いし取りあえず、宿屋で休んだ方が良いね。ちょっと近くを当たってみよう。」
「…。」
やや睨まれている気がする。
「?、まあ、体調も心配だし早く行こう。」
と探してみたが、生憎、祭りでどこも満室だろうと宿屋の主人に言われる。
僕の過失だなと思う。
【完全ナンパマニュアル現地編】には宿屋のリサーチも入っていたのだ。使わないと思っていたから、不覚だ。
ここで、「ここもダメか、あの裏路地にある店は穴場だから、たぶん空いてるよ。」とでも言えたら、言えたら。
…たぶん引かれていたな。
はっ、そういえば、必死だったから忘れてたけど、客観的に見たら、今引かれてるよな。もの凄く宿屋で休憩したい。
‘主に俺も一緒に’
と思われているのでは…。
「そ、そう言えば、あまり見ない瞳の色ですよね。観光で来られたんでしょ?友達の家とかは近くにないの?宿屋を取っていないとしたら、そこを当てにして来たんでしょ?」
「…。」
一瞬、この街で一番高い建物を見た気がしたけど、と思っていたら、彼女が倒れた。
「おい、しっかりしろ!!」
息が荒い、一刻も早く安静にした方が良い。
こういう時に近くの友達の家でも知っていれば、何とか協力してもらうが生憎この街では友達が少ないので、あそこしかない。
取りあえず、彼女を背負い自分の部屋に向かい走った。
彼女が軽いのもあるが軍に入り、非常事態に備えた身体作りをしていて良かったなと思った。
背中に今まで感じたことがない感触がする…とかは気にしない。
なんとか部屋に付き、彼女をベットに寝かせ、コートを剥がせようとしたら、中に着ていた白いシャツが透けているのに気づきドキリとする。
そら風邪ひくはな。
なぜ、コートを脱がないのかなとは思っていたが…。
安静の為には濡れたコートを脱がすのは必要…だと思う。
彼女にシーツを被せて透けたシャツを隠し、コートを脱がせ、脱がせたそれを洋服棚に掛ける。
これは【完全ナンパマニュアル夜戦編】の応用…とかどうでも良いですよね。
サイドテーブルに水と薬を置く。
田舎の母親にここに来る前に餞別で貰った風邪薬だ。
「良し。」
そして、タオルを引っ張り出し自分を拭いながら、冷静になって気づく…あれ?俺、今、女連れ込んでんじゃない?
ブレイズあたりはそう言うな、きっと。
当初の目標を大いに上回る快挙だ。そう思うとドキドキしてきた。
改めて、彼女の寝顔を見ていると呼吸も安定し、安らかな表情になっている。
そして、ただただ寝顔が可愛い。
実家で生意気な妹の看病をしているのとは訳が違う。
さらに冷静に考える。
この人はどこの誰なんだろう?
名前は?…マールかなぁ?だといいなぁ。
でも違った場合…、どうしよう?
客観的に見たら、人攫いかな、いやいや医療行為だよ。
今日は病院、祭りで休みだし、たぶん。
「んっ。」
そんなことを考えていたら、彼女が起きた。
「調子はどうですか?」
「頭が痛い…、誰?何処?」
「誰って俺は…、そう言えば名乗ってなかったね。ケント・タイラーです。ここは軍の寮だよ。」
「そう、軍人、なん、ですね。」
「見習いだけどね。」
そして、彼女は癖なのか、腕を抱いている。
「あれ?コートは?コートの中、見た!?」
「コートはここに。シャツは見てないです。紳士なので。」
「シャツって言った。変態。…くしゅん。」
「わざとじゃないです。取りあえず、ごめんなさい。風邪っぽいのでその薬、飲んで安静にした方が良いですよ。」
「…。」
薬を疑いの目で見ている。
「ちゃんと風邪薬だよ。軍の施設で変なマネなんてしませんよ。」
「…くしゅん。この薬、見たこと、ない。」
「田舎の母の自家製だから、というか、母親まで引き合いに出して変な薬だったら、俺、最低だよね。」
「まあ、いい。…お父様、お母様、ごめん、なさい。」
「うわあ、信用ねえ。」
「(薬が)苦ぁ。」
「そういうもんよ。」
「信用、しない。ナンパ、してきた。」
「まあ、そうだけどね。…でもここまでしたんだから、教えて欲しいね。」
「何を?」
「君の名前は?」
「こだわる、なぜ?」
「ここで会ったのも縁だしね。なんだったら、名前だけ聞いて満足する場合もあるよ。」
「そう?…私は・・・。」
やっとか、と思った矢先、ブレイズがノックもせずに部屋に入ってきた。
「やばいよケント。なんか衛兵が君を捜してるよ。誘拐の容疑がかかってるって!!」
「えっ?」
「てか、誰、その子は!?まさか、その子が捜索願の出てるマール・ロート・ブランシェ王女様とか言わないよね?」
「はい。マール、です。」
「聞かなきゃ良かったぁーー!!?。ケントどうすんの!?さらったの?」
「さらってねぇよ!!やべえよ、マール、大物だよ、そらあきらめるは。」
「私、大物。」
「あきらめるって何を、出頭するの!?」
「誘拐してねえって、取りあえず、知らなかったとはいえ、事情を話して、王女様を保護してもらおう。」
「…ケント、その作戦上手くいくかな?」
窓の外に集まっている衛兵を見ながら、ブレイズが言った。
王女解放の勧告の後、のりこんできた衛兵により、マールは手厚く保護され、俺は乱暴に連れて行かれた。
「すいません!すいませーん!!マール王女!!なんとかして!!!」
両脇を抱え引きずられながら、マールに叫ぶが。
「大、ジョブ!!」
と相変わらず、片言で返された。
本当に大丈夫なのだろうか、あの王女。
不安しかない。
面白いと思って頂けたら、嬉しいです。
暫くはアップ出来そうです。
道 バターを宜しくお願いします。
他にも作品をアップしています。
作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかります(笑