ボブカットの少年
「良かった。良かった。悪魔界と人間界の相互扶助、WIN-WINの関係だね。」
「ぜってぇーちがう!!マジな話どうしてくれるんだよこれ、というか、一度閻魔大王だか、魔王辺りの上司に問い合わせろ!サキ、この野郎!!」
「まあ、無駄だと思うけど、報告義務あるし、帰るね。」
「ちょっと待てよ、このまま置いてくのかよ、契約も無茶苦茶だし、せめて、アフターフォロー的なことしないの?そもそも外国に来ることすら初めてなのですが…。」
「西洋人な顔してなに言ってんのよ、まあ、新しい契約をして頂けるのでしたら、考えなくはなくてよ。」
「生命保険みたいに言うな!生命を賭けるヤツだろ、マジで死んじゃうやつだろ、それ!!」
「では、明日の夜、月の輝く時間にまたお伺い致します。何案かお持ちしますので、一緒に人生設計を考えましょうね!」
「やめろとは、…心細いので強くは言えない。」
「あ、そう言えば、そろそろ、魂と身体が馴染むころだから、ケント君の記憶が引き継がれると思うよ。言葉も、目の前の子の名前も初恋の相手も思い出せるんじゃないかな。とりあえず、新しい人生を生きてみたら。」
「そうなのか。って納得できるかバカ!」
「じゃ、また次の月夜に」
「おい、戻ってこい、コラ!!」
そう言って彼女は霧のように消えた。
その後、何度か呼び掛けたが彼女は現れなかった。
夢を疑い、頬をつねったが、痛いだけだ。
しばらくして、今まで自分がしてしまったことに恐怖を感じた。
曾祖父は最後にどう思いながら死んだのか、俺の我が儘で、殺してしまったと今更ながら懺悔した。
「夢であれ、夢であれ、夢であれ、…夢であれ。」
呪詛のようなつぶやきも効果はなく、罪悪感に押しつぶされ、涙が零れ、息が上がる。
そして、静かに震え、しだいに虚無感に襲われる。
どれぐらいそうしていたのだろうか。
いつのまにか、ボブカットの少年、従兄弟のブレイズが手を握っていた。
「ケント、傷が痛むのかい。」
戸惑いつつも口をひらく。
「…すいません。もう少したら、落ち着きます。」
「変な言葉遣いだね、大丈夫かい。とりあえずはゆっくり休めば大丈夫さ。」
ケント爺のこの右肩の傷は槍術の訓練の時についたものだとケント爺の身体が教えてくれる。
ケント爺はあまり運動は得意ではないらしい。
あと知らなかったのだが、ケント爺の実家は代々服の仕立屋だが、この国の制度の都合、兵役が14歳から16歳までは軍に在籍しなければならなかった。以降は、軍に残るのかどうかを決めれるらしい。
ちなみに従兄弟のブレイズ爺の家系は軍人になることが多いらしい。
「そうだね…、うん、そうする。すまない、ブレイズ。」
「なんか変だね、ケント。頭も打ったのかい。頭が悪いのは前から知ってたけど。」
「そうなんですね。すいません。」
「…謝るなよ。本当に調子が悪いんだね。」
軽口を言い合うくらい仲が良いみたいだな、ケント爺とブレイズ爺。
身体がだいぶ落ち着いてきた。
「はい、でも明日になれば少し落ち着きます。」
「そうかい?それは楽しみだ。」
笑顔でブレイズ爺は頷き、目線を合わせた後、頷いた。
「うん、そろそろ僕は部屋に戻るよ。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。」
とりあえず、寝て、気持ちを落ち着けようと思いながら…いつのまにか意識を失った。
そして、朝、目を覚まし、一つのことを決めた。
せめてもの罪滅ぼしとして、ケント爺の初恋を叶えよう、と。
ただ、…一番肝心なケント爺の初恋の人が思い出せない。
「なぜだ。」
…前途は多難な気がする。
面白いと思って頂けたら、嬉しいです。
少し短めなので昼頃もう一話アップ予定です。
道 バターを宜しくお願いします。
他にも作品をアップしています。
作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに探せます(笑