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12/15

彼女の歌声

歓楽街はランプの灯りに包まれる。ココが演奏する酒場は店先にある赤い照明が特徴的だ。


酒場に行くと店はほぼ満員になっていた。


彼女が今晩、演奏する噂がいつの間にか広まっていたようだ。


出会った時とは違い、最近では彼女が演奏する日はこんな感じだ。


店に入り、短い期間ではあるが定位置となったカウンターの席に座る。


バーテンと軽く世間話をし、酒で口を湿らせつつ、半刻程待った後、店がやや騒がしくなった。


振り返ると彼女が店に入ってきた。


彼女は指定席になりつつある席の隣にギターを置き、客達に一礼し、着座した後、ギターを引き寄せ演奏を始めた。


彼女の独特な甘い歌声が場を支配し、酒場の喧騒がやや収まる。


そして、一曲を歌い終える毎に徐々に拍手が増えていく。


客から曲のリクエストを受けつつ、いつもであればだいたい5曲歌えば席を立ち、一礼し、休憩を入れる彼女だが、今日に限ってはもう一曲歌うらしい。


その際、一度こちらに視線を向けた…、気がした。


流れる旋律は今まで聞いたことがないものだった。

物憂げに彼女は歌う。


〜〜〜


私はひとり歌う

毎夜、月の光の下で

あなたと出会った

満点の星の下で


私は孤独が怖くなかった

あなたに出会うまでは

私は惨めだった

あなたに出会うまでは


私の心に火が灯る

 

あなたの笑顔 あなたの声 あなたの匂い

あなたを忘れられる訳がない

あなたは私を変えた



私はひとり歌う

毎夜、月の光の下で

あなたを待つ

満点の星の下で


あなたは遠くに行ってしまった

私を守ると言って

あなたは私を抱き囁いた

愛していると


あなたと離れたくない


あなたの笑顔 あなたの声 あなたの匂い

あなたを忘れられる訳がない

あなたは私を変えた



私はひとり歌う

毎夜、月の光の下で

祈りを捧げる

満点の星の下で


強くあろう

あなたに会うまでは

生き続けよう

あなたがここに帰るまで


私の熱情の火は消えない


あなたの笑顔 あなたの声 あなたの匂い

あなたを忘れられる訳がない

あなたは私を変えた


〜〜〜


彼女が優しく、内に秘めた熱い思いを歌い上げた後、静寂が訪れた。


そして、誰かが立ち上がり、己の内に灯った火を表現するかのように懸命に拍手をする。それにつられてか、また数人が立ち上がり拍手をする。そして、いつのまにか店の中の全員が立ち上がり彼女に拍手を送っていた。


彼女はその拍手の波を受け取り、立ち上がり、少し照れながら、頭を下げ謝辞を返す。


チップを受け取る為に置いている帽子には沢山の硬貨が入っている。


彼女が帽子を両手で持ち、ギターを背負ってこちらに来た。


「どうよ。」


ドヤ顔で彼女が言う。


「感服です、ココさん。良い土産話になりそうです。」


「それはよかった…。」


「うん?どうしました?」


「タイラーさん。この曲と私の声があれば儲けられそうとは思わない?」


「…非常に興味がありますね。」


「じゃあ、…私と組まない?そろそろ違う舞台で自分を試したいと前から考えてはいたの。大きな町の酒場でも仕事してるって言ってたわよね。」


「そうですか…。」


「なにか不満でもあるの?」


「いえそうではなく…、不満というか、想定と大分…。」


「?、それにあの香り付きのろうそくも売れると思うのよね。他にもなんか隠してそうだし。」


「ははは、そう思いますか?」


「まあね、なんだったら、新商品のレビューでもしよっか。」


「そうですか…。ただ、ココさん、私は戦地で商売を行う予定です。それなりの危険を伴う仕事になると思います。最悪死ぬ可能性もあります。その覚悟があなたにありますか?」


「…。私の両親は私を捨てた。私の親は今の孤児院のシスター達だと思ってる。生みの親は私の人生に何の価値のないものだと思ってる。でも、そう思うと何か自分も価値がないのかな?とずっと考えちゃんだよね。」


「…。」


「だから、親に価値がないと捨てられた私にも、何か生きる価値があるんじゃないかってそれをずっと探してる。文字も覚えた。本も沢山読んだ。針子以外にも色んな仕事もしてみた。でも気持ちはあってもなぜか全然長続きしないだよね。…音楽以外は。」


「…。」


「でも、長く続くからって、それはまあ、ある程度は上達するけど、それ以上上手くなるとは必ずしも限らない。(歌の)流しだって本当は2年近く続けてる。」


「…。」


「私はこの町で誰も聞かない。音楽を続けて一生を終えるのかと前まで思ってた。…ファンが出来るまで。」


「えっ?」


「あ、あなたは私を変えた、の。」


「それは…。」


「相手が喜ぶようにサービスをする。相手をやる気にさせる。相手をファンや仲間にする。…自分よがりの演奏は自分しか聞かない。あなたの商売に対する姿勢は凄く勉強になる。」


「はぁ…。」


「あなたは私にろうそくをくれたけど、男の人には珍しいお酒をあげてる。お酒が苦手な人には甘いものをあげてる。」


「えっ!?」


「あなたは娼館に行くけど、話を聞きに行くだけ。あなたは戦場や侵攻日を積極的に聞くけど、兵士の装備や人数をそれほど聞かない。」


「!?」


「あなたは戦場で何を売ろうとしているの?あなたはもしかしたら・・・」


ココの口に手を当て塞ぐ。


「そんなことをこんな所で聞くのはやめてもらえますか。何が起こるか分からない。」


「ごめん。」


「…ココさん、あなたは、あなたには私の話を聞く勇気がありますか?もしかしたら、あなたの今までの人生を壊すかもしれません。そんな勇気があなたにはありますか?」


「!?」


「私はそんな仕事をしています。」


「商人じゃないの?」


「…本当は違います。」


「じゃあ、なぜここにいるの?」


「それはここでは言えません。ただ…。」


「ただ、なに?」


「話を聞く気があるのであれば、私の宿に来て下さい。」


おどけた顔でココが言う。


「…私にいやらしいコトする気?」


「ははは、その可能性はゼロではありませんね。まあ、それ位怖いことかもしれません。」


「そう…。」


「どうしますか?っと言っても、私は商人ではないのですが。」


「…少し考えさせて。」


「そ、そうですか…、あの~、商人ではないのですよ?」


「そうよね。でも、戦争をしている町には行くのよね?」


「ええ、まあ。」


「そんな町に行くんだから、多少は腕に自信があるのよね。」


「まあ、死線は何度かくぐり抜けてはきましたが。」


「私の歌って価値があると言ったわよね。」


「それは嘘ではありませんよ。最後の曲なんか特に…。」


「うん、分かった。宿はどこ?」


「…そうですか、宿は…。」


鉛筆を取り出し、ポケットを探るが、紙がない。


「教えて。」


彼女は手を広げ耳に付ける。


「?」


「この街のことならだいたい分かる。」


「そうですか?まあそう言うのであれば。」


彼女の耳元で囁くように話す。


「くくくっ、耳がくすぐったいよ。もう。」


「動かないで下さい。ココさんの指示に従ってるだけですよ。」


「そうだけど。もう。」


「もう少しですので…、続きは・・・。」


「えぇ~と、愛してる?」


と彼女がやや声を張り上げる。その声を聞き何人かの視線がこちらに刺さった。


「言ってないですよぉ~、後、声を抑えて。」


「分かった。」


悪戯っぽく彼女は笑った。

面白いと思って頂けたら、嬉しいです。


道 バターを宜しくお願いします。


他にも作品をアップしています。

作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかります(笑

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