公式ファン1号
フリとはいえ、そろばん片手に商人見習いの仕事もする。
今は、各酒場に酒の発注数を聞いて廻っている。
そんな日々を過ごしつつも情報を集める中、昼間に街のメインストーリーでココに偶然出会った。
昼に会うのは初めてだった。
出会った当初は控えめだった彼女から声を掛けてきた。
「どうも。」
「どうも、ココさん。買い出しですか?」
「ええ、お世話になった孤児院の。」
「成る程。」
「そう言えば貰った香り付きのろうそくなんですが…。」
「どうでしたか?」
「よく眠れました。でもあれはやはり高いものなんでしょうね。」
「それはよかった。値段はまあまあしますが、お話によってはお安くさせて頂きますよ。1本、これ位です。」
そろばんを弾き、彼女に見せる。
「そうですか…、そういえば、孤児院の知人が軍について行くことになりました。後方支援で救護をするそうです。近々、従軍すると言っていました。」
「それはいつ頃ですか?」
「…。」
彼女は笑顔でそろばんを見ている。
そろばんを再度弾き、再度同じ質問をする。
「それはいつ頃ですかねぇ?」
「5日後だそうです。」
ココが財布から硬貨を取り出したため、俺も鞄からろうそくを取り出す。
そして、無理だとは思いつつ、軽い気持ちで質問した。
「そうですか、ちなみにどこに行くのか…、何かは分からないですよね?」
彼女は動きを止め、硬貨を財布に戻し、再度そろばんを笑顔で見ている。
「…。」
人差し指で下の段の一番右の玉を一つ弾く。
「…。」
反応がない。
もう一つ弾く。
「…。」
まだ反応がない。そしてぼそっと一言。
「苦労したのになぁ。」
「はあ、分かりましたよ。」
右から2番目の玉を弾く。
「どうも、じゃあ、10本下さい。」
「あぁ、生憎、手元に5本しか。」
「じゃあ、5本で。」
「大損だな。」
思わず気持ちを吐露してしまった。
一度頭を掻き、再度作り笑いをし、香り付きのろうそくと硬貨を交換する。
「国境のレマ湖畔に拠点を作るみたいです。知人はそこで待機するようです。」
「そうですか…。」
「役に立ちそうですか?」
「まあ、今回の損を取り返すように頑張りますよ。」
「ははは、それは良かった。」
「それにしても値切りがお上手ですね。」
「まあ、孤児院の財布も握っているので。」
「成る程…、そろそろ、ここを離れないといけないなぁ。」
俺が小さく呟いた言葉に大きなリアクションを返して彼女は至極残念そうに言った。
「そうなの!?やっと出来たファン1号なのに…。」
「それはそれは光栄です。…ココさんの演奏も聞き納めってことですね。残念ですが…。」
「そっかぁ、じゃあ、今晩、例の酒場にギターを弾きに行くわ。今日中に街から出るってことはないんでしょう?」
「まあ、早くても明日ですかね。楽しみにしています。」
「ええ、楽しみにしておいて。じゃあ、また夜に。」
「はい。また夜に。」
その後、仕事を終え、協力してもらった行商人に街を出ることを伝え、口止めの意味も込めて多少の謝礼を渡して、宿に戻った。
使い魔の黒猫を呼び、普段は着けない首輪を装着させ、暗号化した手紙を括り付ける。
そして、偵察部隊の所に行くように黒猫に指示を出し、雨水を排水する為の猫が通れる位の小さな塀の隙間から外に逃がした。
身支度を済ますと辺りは暗くなっていた。
面白いと思って頂けたら、嬉しいです。
今回は少し短めですが、中々好きな話です。
次の話、かなり力を入れております。そして少し長いです(笑
出来ればお待ち下さい。
道 バターを宜しくお願いします。
他にも作品をアップしています。
作者ページを見て頂くと、なんと!?すぐに見つかります(笑