夏のホラー2020 駅の銅像の話
よく駅前に銅像を見かける。多くは歴史上の人物などだが、ときには、奇妙奇天烈なものもある。
中小雑誌「奇妙奇天烈ミステリーハンター」の記者佐々木は岐阜駅前にある黄金の織田信長像が夜間に走り回るという都市伝説の取材に、JR岐阜駅前まで来ていた。
「これがそうか。」佐々木は空を見上げた。JR岐阜駅前、高さ11メートルのその場所に黄金の織田信長像はあった。市政120年を記念して、2009年に設置されたという。
「これがなぜ夜中に走り回るのだろうか?」佐々木はメモを取りつつ、宿泊場所である駅前のビジネスホテルに向かった。
部屋に荷物を置くと、さっそく聞き込み調査にかかった。まずはホテルのフロントに聞いてみた。
「そんな話は聞いたことがありません。」収穫はなかった。それでも佐々木はあきらめず、駅前の喫茶店へ向かった。烏龍茶を頼むと店員に聞いてみた。
「聞いたことないですね。」ここでも収穫はなかった。それから駅員や近所の商店などに聞き込みをしてみたが誰もがそんな話は聞いたことがないということだった。佐々木はホテルに帰った。あとは実際に自分の目で確かめるしかなかった。
夕方、駅近くの居酒屋で夕食を摂った。ここでも聞き込みをしたが成果はなかった。ただ、長良川で採れたという鮎の塩焼きがうまかったので、佐々木はそのことをメモにしたためた。日が暮れて辺りが暗くなった。岐阜駅からは帰宅途中の人たちが出てきている。佐々木はなにやら寂しげな心持ちがした。駅前広場では、路上ライブの若者や大道芸人のパフォーマーの姿が見えた。
午前0時、佐々木は駅前のファミレスにいた。ここからならば、黄金の織田信長像と駅前が見える。佐々木は眠らないようにコーヒーを注文した。だが、明け方になっても像には何も変化がなかった。佐々木はホテルに帰り眠りについた。
夕方、佐々木は目を覚ました。軽くシャワーを浴びて、街へ出た。取材期間は三日。残り半分である。佐々木は今回の元ネタとなったツイートを改めて確認した。
「岐阜駅で黄金の織田信長が走り回っている(笑)。」そこにはやや遠くから金色に光る人の姿を撮らえた画像もUPされていた。
「この写真を撮った人に会いたいが…。」会社での取材前の下準備でそのツイートにリプライを送ってみたが返信はなかった。佐々木は再び岐阜駅前に歩を進めた。そんな佐々木の目に驚きの光景が映って来た。駅前広場に黄金の織田信長像が立っているではないか。佐々木はふと空を見上げたが、高さ11メートルのそこにも確かに黄金の織田信長像は建っていた。佐々木は急いでその場へ走っていった。黄金の織田信長像はそこにあった。南蛮甲冑とマントを纏い右手に火縄銃をついている。その前には金銭を入れる箱が置いてあった。
「これはまさか…。」佐々木は自分の前の黄金の織田信長像を目をこらして見つめた。そうそれは人であった。海外などで大道芸人がじっと動かずに銅像の真似をするパフォーマンスがあるが、これはその黄金の織田信長像バージョンであった。パフォーマンスの邪魔をしては悪いと、佐々木は昨日来たファミレスに入ることにした。そこから黄金の織田信長像のパフォーマーを見守ることにした。
通行人のほとんどはパフォーマーを前にしても立ち止まることはなかった。なかには、本当の銅像(金像)だと思っている人もいるようである。ときおり、人だかりができて箱に金銭を入れていた。それよりも佐々木が驚いたことはそのパフォーマーが夕方の6時近くから夜の0時過ぎまで微動だにしなかったことであった。佐々木も何度もあれは本当に銅像(金像)がそこに置かれているのではないかと思った。だが、午前0時を過ぎた頃銅像(金像)は突然動きだし帰り支度をし始めたのであった。佐々木はファミレスを後にした。
佐々木はパフォーマーに話しかけて事情を説明した。パフォーマーは丁寧に対応してくれた。佐々木が例のツイートを見せると、パフォーマーは大きくうなづいていた。
「あ~。これは僕ですね~。」パフォーマーは恥ずかしそうにはにかんでいた。
「あのときは酔っ払いに追いかけられて逃げ回っていたんですよね~。」都市伝説の謎が解けた瞬間だった。
パフォーマーの名前は金本さん(仮名)と言った。大道芸人を目指して修行中であり、毎年、静岡で行われている大道芸ワールドカップにも足を運んでいるという。平日はバイト終わりの夕方から岐阜駅前広場で大道芸を披露している。ただし土日だけは黄金の織田信長像のパフォーマンスを披露しているらしい。そういえば今日は土曜日であった。佐々木は金本さんに今回のことを雑誌の記事にしてもよいか聞くとちょっと躊躇した後に名前を出さないのであればと承諾してくれた。佐々木の頭には、岐阜駅前で黄金の織田信長像のパフォーマンスをしていると言えばすぐに分かってしまうから名前を伏せる意味などあるのかなと思ったが、それは言わなかった。佐々木は金本さんに礼を言いその場を後にした。
会社に帰ると佐々木はさっそく今回のことを記事にし始めた。
「都市伝説!?JR岐阜駅前の黄金の織田信長像が夜更けに走り回る!?その理由とは!?」それがタイトルだった。
報告を兼ねて出来上がった記事を編集長に見てもらった。編集長は記事を一読した。
「ふむ。」編集長は上目遣いに天井を見上げた。
「何か?」佐々木は尋ねた。
「いや。まずまず面白い記事に出来上がったね。しかし、何かこの奥には他の真相が隠れているようにも思えるのだが…。」編集長はそう言って腕を組んだ。
「いや。まあ、これは私の考え過ぎかな。今回の件ご苦労さまだったな。佐々木くん。」編集長は大きな笑みをこぼした。
「本当の真相って何のことだろうか?」佐々木は思ったが記事はそのまま掲載に向けての作業に入った。
「あの佐々木っていう人、雑誌に載せるって言っていたけど大丈夫かな。」その頃例の大道芸人のパフォーマーは住んでいるアパートの一室にいた。
「有名にはなりたいけどあまり有名になるのもなあ。」パフォーマーはそう言っていたが、その部屋は何かがおかしかった。調度品は必要最低限のものしかないようである。パフォーマーは鏡の前に立った。
「まあ正体がばれることはないだろう。」そういうとパフォーマーはべりべりと自らが被っている人の皮の形をしたものをはがし出した。鏡には目の大きく灰色のぬめぬめとした体表を持った者の姿が写っていた。




