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トンネルの向こう  作者: 高山 由宇
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それぞれの探索へ

「あの……」

 廃病院らしき建物に足を踏み入れて間もなく、中年男が声を上げた。

「ここに、入る必要はあったんですかねえ……」

 確かに……。

 ホスト風の男が入って行くのを見て思わずあとを追ったが、こんな得体の知れない建物に入る必要はなかったかもしれない。若い男は探索する気でいたようだが、ここを探索することで停まった電車を動かすことに必要な何かを発見できるとも思えなかった。

 しかし、ここで引き返すのもまた、気が引けた。と言うのも、先に行ったホスト風の男の姿が、暗闇に紛れて見えなくなってしまっていたからだ。いくら何でも、こんなところに一人で置いて行くのは(はばか)られた。


「あ、あの、真崎さん」

 呼ばれてそちらを見る。スマートフォンの明かりに照らされた青白い顔がこちらを見つめていた。

「僕、柏木(かしわぎ)(しゅう)って言います」

 若い男が名乗る。すると、その横から、

「私は、三浦(みうら)和夫(かずお)です」

と中年男も名乗った。

「あ……真崎(まさき)賢吾(けんご)です。改めまして、よろしく」

「たぶん、ハルトさんですよ」

 柏木修という青年からの突然の言葉に、俺は首をひねった。

「さっきのホストっぽい人」

 そう続けられて、ようやく理解する。

「知り合いなのか?」

 尋ねると、

「いえ」

(しゅう)は首を振った。

「でも、あの人目立つでしょ? 前に見かけたことがあるんですよ。それで、女の人からそう呼ばれているのを聞いたことがあるんです。本名なのか、夜の名前なのかは知らないけれど」

「……そうか」


 そんな話をしながら先を行く。スマートフォンの明かりがあるとは言っても、どこまで行っても暗い道が続いているように感じられた。

 その時、

「わ、私……やっぱり、戻ります!」

 三浦さんの大声に、俺も(しゅう)も驚いて立ち止まる。

「三浦さん……?」

「こ、こんなところ……くる意味はないと思いますよ。地下鉄とは何の関係もない施設だ……」

「……確かに、ここを探索しても意味はないかもしれません。けれど、先を行ったハルトという人気がかりではありませんか? 彼一人を残して戻ることはできません」

「そんなものは、私には関係ない……。私は、電車に戻ります。電車に戻れば無線が通じるかもしれないし、何か情報が入るかもしれない」

 そう言うと、三浦さんは一人で暗い廊下を戻って行ってしまった。


「あ~あ」

 (しゅう)が残念そうにつぶやく。

「結局二人かあ。これで、探索がまた困難になっちゃったよ」

 ……ゲームでもしているつもりなのだろうか。危機感があるのかないのかわからないつぶやきに、俺はそっと溜め息をついた。

「なあ、(しゅう)くん」

「はい?」

「きみは、本当にこの病院を探索するつもりか?」

「どういうことですか?」

「うん。俺は、実のところこんな施設のことはどうでもいいんだよ。三浦さんの言うように、こんな施設の探索なんか意味がないんじゃないかと思っている。ただ、俺はハルトって人のことが心配ではあるんだ」

「ああ、あのホストですよね。どうしてです?」

「どうしてって……。やっぱり、放ってはおけないよ」

「だってあの人、勝手に一人で入って行ったんですよ?」

「それでも、だ」

「……ふうん」

「そこでだ。(しゅう)くん。俺たち、二手に別れないか?」

「え?」

「きみは、暗いところは平気っぽいよね」

「まあ、わりと」

「なら、一階と二階に別れよう。俺は二階、きみは一階。それで、ハルトって人を見かけたら、連れてここから出るんだ」

「出会えなかったら?」

「それぞれの階の探索が終わったら、ハルトを見つけられなくてもここから脱出する」

 脱出する……。その言葉に、言った俺自身が驚いている。

『別に、閉ざされた空間ってわけでもないのに……』

 また、誰かから追われているというわけでもない。それなのに、脱出とは……。

「わかりました。一階の探索が終わったら、ここから脱出します」

 俺の心を知ってか知らずか、(しゅう)がそう言ってにこりと笑った。

『この状況で笑えるとは……』

 頼もしいことだ。

 そう思っていると階段が見えてきた。そこで俺は、二階へと向かい大きく一歩を踏み出したのだった。

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