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第6話 冒険者ギルドにて

 ギルドの中へと入る。中央にはカウンターがあり、カウンターの左右には階段が。階段の先には居酒屋があって冒険者達が飲みながら楽しそうに談笑している。何よりも目立つのは周囲の壁ぎっしりに張られた紙の数々だ。これは全て依頼書であり、壁の場所によって依頼の難易度が違うのだ。


「ここが……めちゃくちゃ人多いよな」

「皆さん冒険者です。ここは大きな街ですので普通の街より少し人数が多いかもしれません」


 他の街のギルドはここまでの規模ではないのだ。この街は魔王城から遠いこともあって様々な物資が行き交うので揃わないものはないのではというくらいに便利の良い街なのだ。


「とりあえずあの人に言えばいいのか?」

「はい。私がお話ししましょうか?」

「頼む」


 狐月に任せて蓮は後ろから傍観をすることにした。早速狐月はギルド員の女性に話し掛ける。


「すみません、冒険者になりたいのですが……」

「はい。お1人様でしょうか?」

「あ、え、えっと……」


 ちらりと蓮の方を伺う狐月。蓮はキョトンとしていた。


「2人だろ? ……奴隷はなれないとか?」

「いえ、そういうわけではありませんが……」


 何やら言いづらそうな様子の狐月。ギルド員の女性はにっこりと当たり前のことを言うように微笑む。


「奴隷に力を持たせるのは危険です。いつか下克上される可能性がありますので。盾にするという手段がよろしいかと」

「あー、そういうことか。戦力の方が大事だからな、2人で頼む」

「よろしいのですか?」

「あぁ」


 命令は継続しては行えない。例えば危害を加えるな、と命令したとしてもその効力は限られているのだ。つまりはどれかのタイミングで奴隷が主人を殺すことが可能ということである。故に奴隷に力を持たせないというのが一般的だ。力があればより一層下克上のチャンスが来てしまうのだからそれを選択する人の方が多いだろう。

 もちろんこれは普通の人の考え方である。蓮の場合は少し特殊だ。いや、蓮と狐月の関係が少し特殊なのだと言えるだろう。


「ありがとうございます」

「別に狐月が礼を言うことじゃないだろ」

「いえ、ですが……ありがとうございます」


 今の話を聞いて狐月が嬉しそうにしているのは当然だ。普通は盾として扱われる奴隷。しかし蓮は盾にしようなどとは考えていないということの証明でもある。


「では2名様で登録致します。こちらに腕を入れていただけますか?」


 ギルド員は隣に置いてあった血圧測定器のような機材。登録するのにこの機材が必要になるのである。


「少し痛みはありますが我慢ください」

「ではご主人様からお願い致します」

「俺から?」

「こちらでステータスを得られるのです。私が先に得てしまうとその……襲う可能性を考えられるかと思いますので」

「そんなこと全く思いもしなかったが……。まぁそういうことなら俺がやるか。痛いって言ってるし」


 狐月としては先に蓮が強くならなければと考えている様子だ。蓮は全く気にしていないが痛みがあると聞いてどの程度のものなのかを確かめる為に先にすることにした。酷いくらいの痛みであれば事前に狐月に注意喚起出来るからだ。


「右手でいいのか?」

「どちらでも構いません」


 右手を差し込むとギュッと締め付けられる。そしていきなり何かが刺さったように鋭い痛みが走る。


「痛って……!」


 注射の比ではないくらいに痛かった。今まで体験したことがないような、例えるなら包丁などの鋭利な刃物で刺される感覚だろう。酷い痛みに顔を歪めてしまう。


「ご、ご主人様! 大丈夫ですか!?」

「あぁ……なんとか。痛いのも一瞬だけだったな」


 継続してずっと死ぬような痛みが続くのであれば考えたが今はもう平気だ。しかし今度は体内に何か妙な薬品を入れられているような感覚がして少し妙な気分だ。


「なんか強くなってる気がする」

「ステータスを得たからです。緩まりましたら手を引き抜いてくださって結構です」

「あぁ」


 腕を引き抜くと腕に何やら妙な文字が浮かんでいた。それがステータスであり、きちんと数値化されていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【名前】赤城 蓮

【年齢】16歳

【性別】男

【種族】人間族


【Lv.1】

【体力】10

【魔力】7

【攻撃力】4

【防御力】3

【魔法攻撃力】3

【魔法防御力】4

【敏捷性】5


【特技】

 なし


【魔法】

 なし


【能力】

 叛逆剣リベリオン

 反撃剣カウンターバスター

 幸福の縁(デスティーノ)

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 腕に浮かび上がった文字は身分証にも使えるのではというレベルだった。名前まで公表されてしまっている。


「これがステータスか……。ところで狐月、この能力ってなんだ?」

「あ、あるのですか!?」

「……? 3つあるけど」


 ステータスというのに馴染みがない蓮にはそれがどれだけ凄いことなのかが分かっていないのだ。


(確か女神は縁を与えたって言ってたっけ? ならこの幸福の縁ってのはそれになるわけか。でも残りの2つは何なんだ?)


 全く身に覚えがない能力。文字からなんとなく能力の意味は読み取れるものの詳細は不明だ。


「か、確認させていただいてもよろしいでしょうか!?」

「あぁ。ほら」


 腕を出して狐月に見せる。狐月だけでなくギルド員や周囲の冒険者達も興味津々だ。


「うぉぉ! すげぇ!」

「やべぇよ! 能力3つ持ちとかやべぇよ!?」

「こいつぁ伝説になるぜぇ!」


 物凄い騒ぎようだった。蓮は死んだ魚のような目をしてしまうのは仕方がないだろう。蓮は元々こういう騒がれて悪目立ちするのが嫌いなのだ。


「とりあえず狐月もしてみればいいんじゃないか? 何か能力があるかもよ?」

「は、はい。ですが能力を持つ人は限られていますのでそれはないかと……」


 能力の偉大さはこの状況を見れば蓮も分かる。1つでもあれば相当希少なのは理解したのだ。しかし蓮には狐月が能力持ちである可能性は高いと思っていた。


(わざわざ女神が選ぶくらいだ。狐月には何特殊な力がある可能性が高い……と思う)


 この世界のことをよく知っている女神は蓮達が冒険者になることは想定済みだ。ならば何か才能のない人を選ぶだろうか。

 狐月も装置に右腕を差し込む。その痛みに顔を歪ませた狐月だったがそれも一瞬だ。


「大丈夫か?」

「は、はい。問題ございません」

「体調とか悪くなったら言えよ? 慣れない痛みとかには結構過度なストレスが掛かるしな」


 蓮が心配してくれるせいで痛みなんて吹き飛んでポカポカの胸の内が温かくなる狐月。腕を引き抜いて自分で見るよりも先に蓮に見せる。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【名前】狐月

【年齢】19歳

【性別】女

【種族】獣人族


【Lv.1】

【体力】9

【魔力】13

【攻撃力】2

【防御力】3

【魔法攻撃力】5

【魔法防御力】5

【敏捷性】4


【特技】

 なし


【魔法】

 なし


【能力】

 魔力超速回復リストーロ

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 見せられたステータスには蓮の予想通りやはり能力があった。魔力の自動回復。魔法使いなどにはあれば物凄く便利な能力と言えるだろう。


「ほら、言った通りだろ?」

「え? ……えっ!? わ、私にも能力が!?」


 能力を持っているというそれだけでステータスとは別に強いのだ。それを持っている2人は冒険者として将来有望だ。


「す、すげぇぞこいつら!?」

「2人して能力持ちとか! ぜ、是非ウチのパーティーに!」

「おいずりぃぞ! 俺のパーティーに来ねぇか!?」


 次々と誘われてしまうが蓮は死んだ目をしながらはっきりと告げる。


「あ、無理。金ないんで報酬分割とかマジ無理」


 パーティーメンバーがいればもちろん安全の確率は上がるので推奨されるだろう。しかしそうなると報酬は分割されてしまい、分け前が少なくなってしまう。それだけは避けたかった。

 はっきりと断られて沈黙がはしる中、蓮は全く空気を読まずにギルド員に話し掛ける。


「初心者用の依頼があるって聞いたんだけど、大丈夫か?」

「あ、は、はい。こちらです」


 渡された紙を受け取って確認する。それは依頼書と呼ばれる、壁一面に貼られたものと同じ類のものだ。


「えっと……ゴブリンの討伐?」

「簡単なのでオススメです」

「じゃあそれで」


 あっさりと決めてしまう。狐月も頷いていたので問題はなかった。


「ちょ、おいおい奴隷連れてて金がねぇってそんな苦しい言い訳あるわけないだろ?」

「逆に奴隷買ったから金がないんだけど……。とりあえずもう出発していいのか?」

「は、はい。お気を付けて」


 マイペースな様子の蓮。周囲の声は完全に受け流していた。


「狐月、行くぞ?」

「は、はい」


 狐月を連れて歩き出す蓮。しかし周りの冒険者達は納得がいっていない様子で囲い込むように邪魔をしてくる。


「おいおい、待てよ」

「せっかくの貴重な人材をあっさり手放すわけねぇだろ?」


 先程から目が死んだままの蓮。邪魔をされるのが今は一番困るのだ。初めての依頼ということで色々と考えることがあるというのに邪魔をされるのは苛立ってしまうだろう。


「あ、あの、本当のことです! 本当にあまりお金がなくて……。と、通していただけませんか?」

「あ? 奴隷風情が指図してんじゃねぇよ!」

「顔がいいからって調子乗ってんじゃねぇぞ! 害虫は黙ってろ!」


 屈強な男達に強く言われて涙目の狐月。蓮は腕をパキッと鳴らした後に狐月の腕を優しく掴んだ。


「行くぞ」

「え? は、はい」


 狐月を連れて強引にギルドを出る。前を邪魔する人間は押しのけて本当に無理やりだ。


「おいおい、そりゃねぇだろ」

「気安く触んなよ」


 肩に手を乗せられてしまうものの蓮はあっさりとそれを払いのけた。蓮の態度に苛立ちを覚える冒険者達。


「あぁ!? あんまり調子乗ってんじゃねぇぞ!」

「能力持ちがなんでも優遇されると思うなよ!?」

「痛い目に遭わないと分かんねぇみたいだな?」


 既に喧嘩腰の冒険者達。蓮は冷たい無表情であるが臨戦態勢だ。ステータスがある以上は明らかに蓮達の方が負けるだろう。しかしそれでも蓮は一歩たりとも引く気は無い様子だ。


「はい、そこまで。今回はキミ達が悪いよ」


 一触即発の雰囲気の中、真ん中に入ったその人は冒険者達に注意をする。こちらも怖いもの知らずだ。


「なんだてめぇってぎ、ギルド長!?」

「な、なんでここに!?」


 黒髪短髪の女性だった。長身でスラっとしており手にはタバコを持っている。黒いスーツ姿で大人びた落ち着いた雰囲気の女性だった。


「3つの能力持ちって聞いたから様子を見に来ただけさ。で? いきなり絡むのは流石に失礼じゃないかね?」

「そ、それはそいつが調子に乗ったからで……」

「先に吹っかけたのはキミ達の方だろう? パーティーを組みたいならきちんと酒場を利用して欲しいものだね」


 タバコを吸って大きく吐き出す。女性は蓮達を見るとにっこりと微笑む。


「初めまして。私はこの街のギルド長をしているクロウ・センギだ。よろしくね」

「赤城 蓮です」

「こ、狐月と申します」


 クロウは蓮の頭に手を置くと優しく撫でる。いきなりのことで蓮はキョトンとしてしまう。狐月は驚いた様子だ。


「赤城くんだね。彼らには私の方から言っておくから今は矛を収めてくれないかな」

「別に何もされないなら問題ありません。ただ本当に金がないんで邪魔するのは本当にやめて欲しいです」


 はっきりとこの場で公言した蓮。周囲も流石にギルド長が出てしまえば何も言えなくなってしまう。


「パーティーを組みたくなったら是非酒場を利用して欲しい。それに能力についても相談があればいつでも私を呼んで欲しい」

「分かりました。ありがとうございます」

「うん。では気を付けて」


 あっさりと解放される。蓮も苛立ちが収まって今では普通だ。


(これも幸福の縁の力か……?)


 凄い人と知り合いになれたのだ、まず間違いがなかった。ギルド長は冒険者としての権限を管理しているいわば社長のようなもの。クビにするのと同じようにステータスを剥奪することも出来るのだ。

 足早にその場を去る2人。少々評判に傷が付いてしまったものの問題はない。


「あ、あの、ご主人様」

「ん?」

「て、手を……」


 未だに狐月の腕を掴んでいる蓮。全く意識しておらず狐月に指摘されてようやく気付いて慌てて離す。


「悪い」

「い、いえ。で、ですがその……」

「……言いたいことははっきりと言っていいぞ」


 言い淀んだ様子の狐月に蓮はあっさりと許可を出した。大変言いにくいことというのは大抵ロクなものではないはずだが蓮はそういう面での心は強かった。


「あ、あの……すみませんでした……」

「え? な、何がだ?」

「いえ……私が馬鹿にされた時にご主人様は凄く不機嫌そうでしたので……。所有物が馬鹿にされてしまえばご主人様のお名前にも傷が……」


 蓮は目をパチクリとさせた後に恥ずかしそうに視線を逸らした。思っていた言葉とは全く違う暖かい言葉だったからだ。


「別にあの程度で傷付いたりしない。それより狐月のことを何も知らないような奴らが馬鹿にするのが気に食わなかっただけだ」


 狐月は何かをしたわけでもないのに奴隷とされてしまった。それを馬鹿にされるのは蓮としても不本意なのだ。

 蓮の言葉に狐月は頬を赤く染める。胸の内からポカポカと暖かい感情が溢れてきて目尻に涙を溜める。


「ありがとうございます」

「……別に礼を言われることじゃないんだが」


 嬉しそうに微笑む狐月が魅力的過ぎて蓮はつい視線をそらしてしまう。そんな狐月を利用しているというのにそんな感情を向けられるわけにはいかなかった。


「それより依頼の方だ。この千木の森って場所は分かるか?」

「この街の近くです。歩いて10分も掛からないかと」

「そうか。ならさっさと行って帰って来るか」

「はい!」


 2人は街の外を出ると草原を歩き始める。森は目視出来るくらいに近く、そして草原には遮蔽物などありはしない。

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